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航空宇宙・防衛October 4, 2021

バーチャルでひも解く世界 14: スペースコロニーは地上でも食料生産の担い手に?

Interstellar Labは環境制御型食料生産システムを3DEXPERIENCEプラットフォーム・オン・ザ・クラウドで効率的に設計・開発しています。
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Avatar 小林 敦志 (Atsushi Kobayashi)

毎年10月16日は、国連が定めた「世界食料デー」です。今回のコラムでは、地球の食料生産と宇宙開発との意外な関係をひもときます。

ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております、小林 敦志です。主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私の目利きでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。

SF小説やアニメでよく登場するスペースコロニーが、夢物語から現実へとシフトする時期は近いと思われている方が多いのではないでしょうか?古くは1991年、アメリカのアリゾナ州に建設されたガラス張りの巨大な空間「バイオスフィア2」に科学者8名が2年間滞在した実験が有名です。この中で農耕、牧畜を行い食料と水分、そして酸素を自給自足することを目的としていましたが、酸素不足や二酸化炭素の制御および食糧不足の問題に直面し、一般的には失敗プロジェクトだと思われています。

ところが今、地球全体が直面する環境問題、脱炭素の実現に向けて、スペースコロニーとその技術が再び注目を集めています。

先般、フランスの宇宙ベンチャー、Interstellar Lab社が環境制御型の食料生産システムBioPodを発表しました。

プレスリリース:フランスの宇宙ベンチャー、Interstellar Lab社がダッソー・システムズの3DEXPERIENCEプラットフォームを採用し環境制御型食料生産システムBioPodを発表

© All Rights Reserved Interstellar Lab 2021

Interstellar Lab社のミッションは、月や火星での居住環境を整えるということです。そのためには当然、食料の自給生産から、水や酸素、二酸化炭素の再生・再利用の仕組みが必須です。こうした宇宙開発の目的で研究してきた技術を地球上に適用すると、そのまま地球上の食料生産や気候変動への対応策になるというから驚きです。

同社が開発する最先端の温室システムBioPodはエアロポニック(高度な水耕栽培方式)を採用しています。BioPodは写真のようなドームと、空気、水、照明、栄養素の投与を処理する自動システムで構成されており、最小限の水、栄養素、空間で植物を育てます。

Interstellar Lab社によると、一般的なアメリカ人ひとりが1年間に消費する栄養を栽培するには、約1万3千平方メートルの農地、1.3トンの二酸化炭素の排出、703キロリットルの水が必要です。BioPodであれば、必要なリソースを精密に管理できるため、ポッド1つ分(幅6メートル、全長10メートル、高さ4.5メートルの54平方メートル)の空間で農作物を栽培するには、4kgの二酸化炭素排出量と5キロリットルの水で十分と考察されています。ポッド内は完全に孤立した環境となるため、害虫や汚染などの屋外の物質から保護することができるため、農薬と除草剤が不要となり、最高品質の食料を生産できます。

ビル・ゲイツの最近の著作『地球の未来のため僕が決断したこと──気候大災害は防げる』(日本語版:早川書房、原書:How to Avoid a Climate Disaster: The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need)によると、世界中で年間510億トンの温室効果ガスが排出されており、そのうち19%が「ものを育てる(植物、動物)」ことにより排出されているそうです。そのうち、影響が大きいのはメタンと亜鉛化窒素のため、削減には直接関係しないのですが、合成肥料の生産に2010年時点でおよそ13億トンの温室効果ガスが排出されています。2050年推定では17億トンにもなります。

エアロポニックの閉ループのシステムでは、LED照明などの温室技術だけでなく、機構を管理する庫内気流・気温の制御、空気中の水分量を含むリサイクルのシステム、水質を確保するUV消毒ユニットとpH調整システム、そして肥料投与を精密に管理する機能があります。

従来の農業では、植物に吸収されない分も含むため、水の大量使用、肥料の大量消費、土壌の劣化、広大な土地が必要でした。このBioPodのシステムでは、肥料の使用を60%削減し、水の消費量を98%削減し、植物の収量を最大75%まで最大化できると推定されています。

もちろん、Interstellar Labという名前のとおり、同社の事業目的は月や火星での居住環境の構築ですが、BioPodは地球上の過酷な環境でも利用できます。これから温暖化が進むと、たとえばジャガイモなどの作物の耐熱性が問題となり、通常の栽培ができなくなる可能性が増えます。こうした時に、BioPodのような閉ループのシステムを使うことで、作物を気候変動から確実に保護しながら生産することもできます。

では、どのようにして、BioPodを設計しているのでしょうか?

YouTubeに公開されているビデオからは、バイオ技術、マテリアルサイエンスを組み合わせて、パラメトリック設計、シミュレーション、製造、ロジスティクスなど、多数の技術領域を組み合わせて設計していることがわかります。(1:13あたり)

ポッドのドーム構造は3Dプリンタで作成され、ドーム内の過圧で断熱をかねて、形状を維持します。設置場所の太陽光に応じて透明部分の大きさを確定し、LEDで植物にとって理想的な日光の波長を制御しています。内部の二酸化炭素の大気組成は管理されており、植物の成長に応じて、二酸化炭素のレベルを強化します。

ビル・ゲイツは、年間510億トンの温室効果ガスをゼロにするためには、イノベーションが必要と述べています。イノベーションに到るまでにはいくつもの道筋がありますが、複数の技術の専門家が協力して、も実現できます。BioPodのような先進的なシステムは、既存の個別技術を高度に組み合わせてバーチャルの環境で何度もトライアンドエラーを行うことで、イノベーションに到達できる、というよい例だと思います。

海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。

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