ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております小林 敦志です。世界140か国、2万人が働いている当社では、自動車・航空・海洋・産業・医療業界など様々な業界において多岐にわたるプロジェクトを動かしています。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私の目利きでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。
今回は、2回目と同じように15世紀、ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿を3D環境で再現するプロジェクト「OPEN CODEX」からご紹介します。
元々軍事目的から始まったGPS。今では、カーナビやスマホなど日々の生活に欠かせないインフラとなりました。GPSからは現在の座標しか入手できず、データとしての地図情報が大変重要です。
現在は国土地理院が作成した地図だけでなく、カーナビのメーカーやGoogleなど、多くの企業が、自社の専門技術を使って、用途に応じた地図を作成しています。
レオナルド・ダ・ヴィンチも、地図を作成するための機械、オドメーター、走行距離計を作成しています。こちらのビデオでは、そのオドメーターの動作や利用方法を3Dのバーチャルの空間で再現しています。
第2回目でご紹介した「鳥形飛行機」とは違い、機械としての測位計は、当時の技術で既に実現されています。注目は、それを使う上での視座の高さです。
マキャヴェッリ 『君主論』 にも登場する、イタリア・ルネサンス期の軍人ヴァレンティーノ公チェーザレ・ボルジア。当時の最も先鋭的な軍人に、レオナルド・ダ・ヴィンチは建築技術監督兼軍事顧問として仕えています。ビデオにも登場するイタリアのイモラ市街の地図は、チェーザレ・ボルジアが本拠地としていた場所を示しています。(F1やフェラーリで有名なイモラサーキットと同じ都市です。)
1502年にチェーザレ・ボルジアは要塞の改善を命じる権限をダ・ヴィンチに与えています。ちなみに、最後の晩餐が描かれたのは1495年から98年ですので、この時点ではダ・ヴィンチは十分な知名度があったと思えます。
通常、鉄砲がない時代の要塞作りと言うと、外壁の高さ、厚さをどうするか、砦の高さをどうするか、防御口をどう作るか、堀をどうするかで考えるかと思います。日本でいう「総構え」であり、大学の専攻に例えると建築学がイメージとして近いかと思います。しかしダ・ヴィンチは、城の守りを建築学でなく、現代で言う都市計画の視点で考えています。都市計画には、詳細で正確な地図が必須です。当時の地図は、目立つものを中心に記載しており、特に宗教的な建築物が大きく記載されていました。ダ・ヴィンチは、現実を正確に反映した地図を作成し、そのうえでの「都市計画」をめざしていたようです。
ビデオ冒頭の地図の中心から、8つの線が引かれています。歴史家は、ダ・ヴィンチが、この中心から初めて、コンパスとオドメーターを使用し、通りや建築物を測定して、GPSを使わずに、地上でデータを収集したと仮説を立てています。YouTubeのオドメーターは、おもちゃのように見えますが、現在の地図と重ねると精度が非常に高かったことがわかります。Leonardo Da Vinci: Map of Imola
正確な情報を使い、全体を見ながら細部にも目を配るというのは、現代でも見習うべきかと思います。ダ・ヴィンチとボルジアは、この正確な地図を利用して、日本語で言う「総構え」と「町割り」を議論し実行に移したと想像します。地図をよく見ますと完全な碁盤目ではなく、曲線を描いていたり、T字路になっていたりしていますので、攻城戦のシナリオを仮説検証しながら、計画していたのではないでしょうか。現代では、バーチャルの空間に都市を再現し(フランスのバーチャル・レンヌ)、攻城戦ではなく、人や車の移動を仮説検証しながら、「町割り」を議論し実行しています。
ご存じのように、日本で詳細な地図ができるのは、1800年頃の伊能忠敬まで待たなければなりません。「町割り」は、城作りのためには1500年代後半の戦国時代後期と、ほぼ同時期なのですが、詳細度は違うようです。太閤検地が少し近いかもしれません。都市計画を考えるために、物理学、工学で走行距離計を作成し、建築学に適用する、というダ・ヴィンチの視座の高さ、スケール感の大きさには、驚くばかりです。
海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。
<バックナンバー>
バーチャルでひも解く世界 3:気球で大気圏外へ? 3Dでエコな宇宙プロジェクトを実現へ