航空宇宙・防衛December 15, 2020

【バーチャルでひも解く世界】3:気球で大気圏外へ? 3Dでエコな宇宙プロジェクトを実現へ

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Avatar 小林 敦志 (Atsushi Kobayashi)

ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております小林 敦志です。世界140か国、2万人が働いている当社では、自動車・航空・海洋・産業・医療業界など様々な業界において多岐にわたるプロジェクトを動かしています。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私のセレクションでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。

今回は、1回目と同じように当社ダッソー・システムズのブログである「3D Perspectives」の中から、時節に即したものをご紹介したいと思います。以下 2020年10月6日付けのDavid Zieglerのブログ記事、「New Space, new horizons(新しい宇宙宇、新しい地平線)」の超訳です。

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民間組織が主導する宇宙産業は、衛星、探査、観光の分野で大きく発展しました。ヨーロッパ、アメリカ、中国、インド、イスラエルなどの国々では、気象パターンや気候変動を推定や、先進的な通信ネットワークの構築、地理的データの分析で農作物の収量向上などに繋げています。スタートアップ企業や中小企業が業界に革命を起こし、2020年上期だけでも、宇宙企業に121億ドル(約1兆2千億円)の投資が集まりました。そのうち3億300万ドル(約344億円)は初期段階のプロジェクトを対象としています。市場の需要に追いつくためには、宇宙産業は早急なイノベーションが不可欠であり、適切な時期を狙って、誰よりも早く実現しなければなりません。

光速のイノベーション

人工衛星では、多くのイノベーションが求められます。打ち上げされる衛星は年々増えており、一段と小型化した衛星のハードウェアに、複雑な機能を搭載しています。例えばSpaceX社の「スターリンク衛星コンステレーション・プロジェクト」では、数千の小型衛星と地上局を結び、全世界へのインターネットへのアクセスを提供することを目標にしています(訳注:コンステレーションは、和訳では「星座」になります)。一方、ロッキード・マーチン社の「ポニー・エクスプレス1キューブサット」のミッションでは、宇宙での人工知能やデータ分析、クラウド・コンピューティングなど、高度な衛星通信を目指しています。また、スペインのZero 2 Infinity社は、より低コストで持続可能性を実現した小型衛星を打ち上げるため、汎用性の高い気球でのシステムを開発しています。

2020年代では年平均1,000基の小型衛星の打ち上げが予想されています。また、小型衛星に含まれるナノ衛星、マイクロ衛星の世界市場は2025年まで21.3%の成長を遂げると予測する専門家もいます。急速に変化する市場要求に対応するため、衛星のエンジニアは物理的な試作の前に、アイデアを迅速に検証・実証する必要があります。シミュレーションの技術を活用し自分のアイデアをモデル化することで、より速く効率的なイノベーションを、最小限のリスクで実現できます。

宇宙時代の持続可能性

製品の納入と打ち上げを考慮することは、持続可能性を考えた衛星のライフサイクルの始まりに過ぎません。何十年もの宇宙開発の結果、軌道上に推定1億2,900万個のデブリ(宇宙ゴミ)があり、今では、それを減らすことが求められています。製品の長寿命化や再利用可能なコンポーネントの活用などで実現する効率的な運用は、製品の設計・製造から運用、ミッション終了のすべての段階で、重要な要素です。

アイデアをシミュレーションして仮説検証を行って、性能や効率、持続な脳などの、すべての目標を達成できることで、自信が生まれます。例えば、ロケット軌道をモデル化することで、効率性と安全性を最大限に高めることができますし、材料やコンポーネントをバーチャル上でテストして、それらの再利用の方法を見つけることもできます。また、衛星軌道をシミュレーションし可視化することで、衛星の寿命を最適化し、軌道上のごみを最小限にする計画も立てられるようになります。

コラボレーションが核に

民間の宇宙産業にとって、協働作業が核となります。新興企業や中小企業が業界を破壊するのほどの技術開発を続けるには、技術分野、時差、市場、地域を超えてシームレスに仕事をすることが不可欠です。それを実現する手段のひとつに、集約されたデータモデルを共有しプラットフォーム上でバーチャル・モデル化することが挙げられます。設計者は複雑なシステムをモデル化して、異なる軌道や大気条件でどのように動作するかを正確に確認しながら、リアルタイムで協働作業できます。設計を出図する際に、このモデルを使用してサプライヤーと協力して生産を最適化し、プロジェクトを立ち上げることができます。その結果、物理的な試作や生産を始める前に潜在的な不具合を解決し、バリュー・チェーン全体で市場に適したイノベーションを実現できます。

人工衛星を利用したアプリから観光旅行、遠い惑星への探索ミッションまで、新しい宇宙の時代がどこをめざそうとも、仮説検証で見える形にする力とイノベーションを推進する力を用いることが、地球だけでなく宇宙までを含む持続可能な未来を実現する鍵なのです。

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原文にいくつかリンクがありましたので、今回はそのリンク先について解説しつつ、宇宙産業に関する当社の知見や取り組みについてお伝えしていきます。

最初のリンク先は、米マサチューセッツ工科大学の科学技術誌「MIT Technology Review」の記事です。すでに宇宙開発競争をどうするか、ではなく、競争が激しくなっている中団争いの行方について論じています。国別では米国、ロシアだけでなく中国が台頭している点と、民間企業の進展、さらに米ロの連携など、地上での国際関係とは異なる協業が行われていると述べています。

次のリンク先では、宇宙産業に投資された121億ドル(約1兆2千億円)の内訳について述べています。GPS、衛星でのインターネット配備、さらに衛星写真が主要分野とのこと。衛星でのインターネット配備は何度か似たような話を見たことがありますが、GPSと衛星写真は、コロナ禍において衛星写真を活用して、人口密度を把握するといったことで使われるなど、もっと実用される機会が増えると思います。特にGoogle Earth VRのような技術を体験すると、この分野は今までニュースでよくでてきた大規模型の遺跡発見だけでなく、農業や都市開発、鉱業など、いろいろな面で利用できると思います。

そのほか、年平均1,000基の小型衛星の打ち上げのリンクも、コロナ禍でも宇宙産業が停滞しなかったことを示していますし、ナノ衛星、マイクロ衛星市場の展望からも、今後、小型衛星産業がますます飛躍することを象徴しています。 個人的に驚いたのは、1億2,900万個の宇宙ゴミの話です。これまでロケットが5,560発打ち上げられ、現在でも約5,500基の衛星が宇宙にありますが、10cm以上の宇宙ごみが34,000もあるとは、その規模に驚きます。こうした中、宇宙ゴミの除去技術を持つ日本のベンチャーのアストロスケールは着眼点もよく、個人的に応援したくなります。

宇宙空間という地上にない環境にモノを飛ばす、動かすというのは、物理的な試験を行うには難しく、どうしてもシミュレーション技術に頼らざるを得ないと思います。ちょうど、宇宙飛行士の野口聡一さんが11月19日にSpaceX社のDragonカプセルとFalcon9ロケットで初めての商業有人宇宙飛行に成功しました。SpaceX社は2002年に設立とのことですが、失敗したものの2006年にはすでに打ち上げに挑戦しており、驚異的な早さです。しかも、宇宙船をライドシェアする事業まであり、飛行機の便を選ぶようにフライトを選択することができます。

Zero 2 Infinity社のリンクは見ていてとても夢があります。当社ダッソー・システムズも協力しており、2回目のブログでご紹介したダ・ヴィンチのプロジェクトと同様に、3DEXPERIENCE Labで支援しています。彼らは非常に高いところまで気球を上げる技術と、気球をブースターロケットの代わりとしてエコでかつ確実に大気圏を上昇するというアイデアを持っているようです。上の段落のビデオでもご紹介していますが、船から打ち上げ、気球を使い大気圏に到着後にブースターロケットを使って軌道に乗せるアイデアは、とても革新的です 。地上20kmまで気球で上昇させることで、大気汚染を最小限にできます。しかも構造が簡素なため、製造には3Dプリンタを使うそうです。日本の製造の感覚では、気球は宣伝や趣味の世界、3Dプリンタも趣味や軽工業に限定されていると考えてしまいますが、そのような制約を取っ払い、新しいアイデアに挑戦するということが、本当のイノベーションだと感服します。

海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。

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