産業機械June 17, 2021

【バーチャルでひも解く世界】12: 語呂はいいけど難しい、DaSaMaSa戦略

どこでも設計、どこでも製造、どこでも販売の戦略を実現するには?
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Avatar 小林 敦志 (Atsushi Kobayashi)

ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております、小林 敦志です。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私の目利きでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。

今回はDaSaMaSa(ダサマサ)です。

Design anywhere, Sell anywhere, Manufacture anywhere, Support anywhereの略です。語呂がいいのですぐに覚えていただけると思います。

現在のようなパンデミックの中で、どこでも設計、どこでも販売、どこでも製造は憧れです。語呂はよいですが、実現するのは非常に難しいです。

まず見ていただきたいのが、こちらの当社のYouTubeチャネルで公開しているビデオ、 “3DEXPERIENCEプラットフォームで世界中の情報を一元化: Doosan Infracore社の事例“です。

ここにあるように、Doosan社はどこでも設計、どこでも製造を目指されています。2016年の制作で、当時の目標は世界の建機の売り上げランキングの順位を上げるという目標でしたが、現在の状況を見越したような慧眼です。

(プレスリリースもあります)

しかしDaSaMaSaの実現には、高いハードルがあります。

まずは、Design(設計)に必要な情報が、全世界の自社のどの設計拠点からでも参照できることが必須です。全ての設計者は、設計に必要となる商品企画、要求、モデル、CADデータ、CAEの結果データなどにアクセスできる必要があり、かつそれらのデータは相互に整合性を保った形で参照できなければなりません。さらに、その上の概念である商品ポートフォリオも、全世界で共通の理解のもとに構築されている必要があります。言い換えると、ポートフォリオや製品オプションのどれが全世界共通の箇所で、どの部分が国別の市場に即したバリアント(変種)なのかが、明確に整理され、全世界でわかるようにする必要があります。

さらに、言語の問題もあります。どの設計者でも全世界のデータを参照できるようにするには、設計に必要な用語やその定義、規格(国別の準拠法)やその表記(ポンド、ヤードだけでなく、シックスシグマの概念も)を全世界で統一しておく必要があります。英語化でなく、定義や認識も含めた共通化です。

また、データのアクセス権限の設定とその管理も重要です。それぞれの国で、それぞれ現地のパートナー企業との協創が行われています。守秘義務や知財管理の問題もありますので、それぞれの開発チームやパートナー企業に対して、アクセスできる範囲を適切に設定する必要があります。

「どこでも~」を実践するためには、綿密な業務遂行計画と実行進捗管理の仕組みの構築が必要となります。たとえばあるプロジェクトを迅速に進めるために、時差を利用するケースを考えましょう。アジア、欧州、米国で、タイムゾーンに従って、8時間ずつ、1つの作業で作り込んでいくことを想定します。このようなことを実現するためには、タスクが所要時間内に完了するよう正しく分割され、かつ各タスクの実施結果も所要8時間の中で充分に検証され、申し送りができるように計画されている必要があります。

当社のプラットフォームでは、異なるデータを一ヶ所で見えるように管理することや、設計に必要なデータ群の整合性を保つこと、また、海外を含む遠隔値にも充分なレスポンスでデータを提供することはできます。ただ、このプラットフォームを最大限に利用するために、自社とそのエコシステムの業務をどのように構築するのかは、各企業それぞれの知見とビジョンに依存します。全世界の拠点をつなぐDaSaMaSa戦略となると、経営層レベルの理解と強い支持が必要です。

DaSaMaSa戦略はいくつかの企業が採用しています。産業機械業界での例としては、既に実践が進む例としては、コア技術の開発は一ヶ所で集中実施し、各国仕様に合わせたローカライズを各地の設計センターが実施するという運用です。この場合では、毎日のタスク把握と分担は不要です。が、しっかりした業務範囲の明確化は必要です。さもないと、各地の設計センターが各地の仕様で、各地で販売できる形にカスタマイズしてしまっている、という「なし崩し」の運用に陥りがちです。こうなると売り上げは立っているものの、思うほど利を確保できなかったり、その地域で調達できない部品が発生したりなど、サプライチェーン上の問題が発生した場合に対処できません。DaSaMaSaのそもそもの思想に反することになります。

さて、DaSaMaSa戦略を解説するもう1つのビデオがありました。

Soosan Heavy Industries – Design Anywhere, Builds Anywhere with 3DEXPERIENCE – Dassault Systemes

こちらの事例では、Builds anywhereの側面が強調されています。

むかし、Intel社が半導体の前工程の工場を建設する際に、どこでも製造を実現するために、Copy Exactlyという方針だったことを思い出します。それも一つの手段ですが、設備や工場の技術の進化を享受しないという点に大きな違いがあると思います。

設備の技術や作業者の能力の、どこに標準を設定し、そこまで持ち上げる、教育するには、どうするか、標準から進んで先進化させるにはどうすればよいか。バーチャルの環境を使い標準化を推進するというのはDaSaMaSa戦略をいちはやく実践する方法の一つかと思います。

海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。

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