ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております、小林 敦志です。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私の目利きでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。
以前ご紹介しましたチャレンジ、ご応募いただけましたでしょうか?自作の3Dモデルが映画に出演し、エンドロールに名前が登場するような機会はなかなか少ないと思いますので、是非とも応募していただきたいと思います。
さて、今回は、ダ・ヴィンチの最終回、自立橋 「Swing Bridge」です。
ちなみに、当ブログでは今までコデックス(codex)を「手稿」と訳していました。冊子状の写本、手稿を意味します。コデックスに対して、巻物をヴォリューム(volume)やスクロール(scroll)といいます。
日本では、巻物は忍者がくわえるもの、として有名ですが、平安時代中期以降になると、冊子装丁が一般に利用されるようになっています。以降は公式なものが巻物、私的なものは冊子だそうです。
西欧では、ユリウス・カエサルのガリア遠征の頃、蛇腹状のほうが素早く参照できると気づき、2世紀頃にはコデックスの形が一般的になりました。場所をとらない、個別のページを開きやすい、持ち運びしやすいなどの特徴が評価されています。
ダ・ヴィンチも、日々コデックスを持ち歩き、思いついた点を、思いついたページや自分なり関係のあるページに記載したのではないか、と想像すると楽しくなりますね。
自立橋も、ダ・ヴィンチの多くのアイデアの中の一つです。レオナルド・ダ・ヴィンチは、ヴァレンティーノ公チェーザレ・ボルジアに軍事的な素養を売り込み、顧問契約を結んでいました。攻城のためには、大規模な軍隊を、素早く、安全な形で渡川させることは、重要な「業務要求」です。「移動中の軍隊が水域を通過するために、素早く梱包して輸送でき」、「小川や堀を横切って反対側に下ろし、兵士が問題なく通過でき」、「迅速に使用でき簡単に輸送できる」というのが「機能」になります。場合によっては、資材を運搬せずに現地で調達せよ、という要求もあったかもしれません。そうした複数の要求に故輝物理的形状が自立橋であったと考えるとシステムズ・エンジニアリングと全く一緒です。
コデックスに記載されたこの橋は、釘、ネジ、接着剤などの消耗品を使わずに、摩擦と重力だけで自立します。工具だけで作成でき、「モジュール化」されているため、長さや幅も、調達できる木材の強度を考慮しながら川幅に合わせて最適な構成で組むことができます。インターネットを検索すると、マッチ棒で作成した模型橋から、このビデオにあるような1トンを超える自動車に耐える橋まで、自立橋は多様な要求に対応できるという点に驚くばかりです。
なお異なる要求に対しては、別の種類の橋を提案し設計していたようです。自立橋は、組み立ては簡単ですが、架設までに時間がかかります。また攻城戦の際に堀を渡るには不便です。素早く堀を渡り、兵を素早く堀の反対側に渡すためには、旋回橋を使っていたように思えます。
自立橋の構造は、子供から大人まで、工学、構造学に興味のある方には大変刺激を与えます。インターネットを検索するとたくさんの挑戦例、実際の橋を見ることができます。
さらに、この構造を突き詰めて五角形や六角形や、さらに八面体の格子状にしてドームを作成するという挑戦もなされています。
厳密に言うと、レオナルド・ダ・ヴィンチは、平面の構造からは立体の構造まではたどり着けなかったようです。しかし、アトランティコ手稿の別のフォリオに描かれていたパターンを現代の私たちが理解できるようになったのは、つい最近のことです。その手稿から導き出されるパターンが作り出す立体構成は、軽量でありながらも剛性が高いもので、この構成を使った応用技術も研究者によって発表されつつあります。
現代の人々は、500年経過しても、レオナルド・ダ・ヴィンチの発明、発想からイノベーションを得ているのです。
海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。
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