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サイエンスFebruary 16, 2021

バーチャルでひも解く世界 6:センサーを使わずに芯出しする

ダ・ヴィンチの手稿を3D環境で再現するプロジェクト「OPEN CODEX」から、今回はセンタリングドリルをご紹介します。
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Avatar 小林 敦志 (Atsushi Kobayashi)

ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております小林 敦志です。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュースまたは当社ならではの情報を、私の目利きでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。

今回も15世紀ルネサンスの巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿を3D環境で再現するプロジェクト「OPEN CODEX」からご紹介します。

https://3dexperiencelab.3ds.com/en/projects/ideation/open-codex/

今回ご紹介するビデオはセンタリングドリルです。

ビデオではややわかりにくいのですが、川の流れで水車を動かし、その動力で芯出しマシンを動作させるものです。3DのCGでは手動で回すハンドルがついていますが、主たる用途は水力起動だったようです。

水車は古くはギリシャで使われており、日本では日本書紀にも記載があるそうです。古い時代の日本での主たる用途は、みなさんご想像のように、農業用水を利用した精米、製粉が多いようです。古代ローマでも、有名な水道橋からの水力を使った小麦粉の製粉が多いようです。しかし、鋸引きなどの工業用途もあったとのこと。中世では工業用途が増えており、特にフランスに関連する調査では縫製や布製の靴作りの動力源として使われた例があります。

15世紀から17世紀ごろ、木材をくりぬいた木製の水道管がたくさんある町をイメージしてください。そうした木製の水道管を作るためにレオナルド・ダ・ヴィンチが設計したのが、水車の力を使ってドリルを動かし丸太を貫通させる、センタリングドリルを見てください。

技術的には、木の幹を台に固定し、幹の中心から芯を掘り出すため、長いハンドルで支持するという形状で、わかりやすい機構かと思います。

みなさんが錐(きり)で穴を開けるのと原理としては同じです。最初はハンドルを強く押して、刃先を幹に食い込ませながら、ハンドルを回す必要があります。食い込みができると、フックにロープをかけて、力をかけることができます。問題は、堅い木材や年輪が詰まった木材であると、非常に時間がかかることでした。研究によると、ニレ材だと1日5cmの穴を11.6メートルうがつことができますが、オーク材だと、それが1.95メートルになるそうです。

ダ・ヴィンチは、この問題に対処するため、幹の位置合わせのために2つの自動化を考えています(今でいう「からくり」に近いかと思います)。ひとつは、木材をセンタリングする部分と、もう一つは、ドリルをセンタリングする部分です。また、研究者によると、手動回転にフライホイールをつけて、少ない力で回転できるようにしたようです。

ビデオを再度、よく見てください。ビデオのオープニングにオリジナルのダ・ヴィンチの手稿が映っていますが、4軸で支えています。残念ながら4軸の仕組みですと、木材が完全な円形もしくは、完全な正方形でなければ確実に中心を固定することができません。「完全な」円や正方形を加工することは、現代においても、また材料に金属を利用しても非常に難しく、当時の技術で、かつ木材でこれを実現するのは不可能だったと推定されます。

ビデオに登場する3D CADモデルを作成したBrian Lawは、ダ・ヴィンチが考案した4軸というアイデアに変更を加え、を、一般的な3軸にしています。この形状ですと、現在でもよく見る旋盤と同じですね。

もうひとつ、問題点があります。非常に長い軸の部分です。木製の水道管ですので、非常に長い穴が必要で、そのドリルの軸も非常に長くなり、軸を支える構造が必須です。Brian Lawは3D CADモデルの作成時に、支持する構造を追加しているそうです。工学に関しては、ダ・ヴィンチが当時まだ気づいていなかった点があるようです。

なお、ビデオは少し話が飛躍しており、いきなり水道の映像が登場します。前回のブログでご紹介したように、ダ・ヴィンチは今で言う都市工学にも興味を向けていました。文献には出てきませんが、水利は城造りにも必須ですので、いかに効率よく城や城下町を作り出すか、ダ・ヴィンチが頭を捻っていた姿が想像できます。

海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。次回も、OPEN CODEXからご紹介する予定です。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。

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