“Product”、”Nature”、”Life”という3つの柱
谷本 ここまではダッソー・システムズのサービスやプロダクトについて伺ってきましたが、ここからは企業として目指すもの、姿勢や立ち位置などについても伺いたいと思うのですが。
鍛治屋 どうぞお手やわらかに(笑)。
谷本 では、先ほどまでの話にもつながると思いますが、理念として掲げるキーワード、”Product”、”Nature”、”Life”という3つの柱についてお聞かせ願えますか。
鍛治屋 まずProductはもっとも重要なところです。弊社が提案するソリューションは製品の上に成り立っている。ここがきちんとしていなければ、お客様のお役に立てず、当然社会にも貢献できない。継続的な成長は製品のクオリティが高ければこそ。建造物と同じで、土台が強固でこそ、その上に頑健なものが建てられますから。本当は言うまでもないことなのかもしれませんが、やはりキーワードからは外せない。それほど大切にしていると考えていただいていいと思います。
谷本 ”Nature”はいかがでしょう。先ほどお話に出たシンガポールの再開発プロジェクトなどにも関連しそうですが。
鍛治屋 まさしくそうですね。町づくりを考えるとき、自然環境のなかでどう成立させるか、いかに自然と共生していくかということを考えるんです。そのほうが町の強靭性や持続可能性が高くなる。もちろん、環境保護などの観点から物を見ることも大切です。
谷本 具体的には「自然との共生」にはどんな課題が潜んでいるのでしょう。
鍛治屋 例えば、ウインドミル――風力発電用の風車なんてCO2も出さないし、特に危険もなさそうですが、環境への影響は決して小さくない。実際、北米やローロッパでは、いざ風車を建ててみたら害虫を食べる鳥などがウインドミルに引っかかって死んでしまうという事象が多発しています。
谷本 バードストライクですか。
鍛治屋 そうです。害虫を食べる鳥などが減ると、農作物の害虫被害が拡大してしまう。確か数年前、北米の科学誌に、年間40億ドルの経済的損失になるという試算が出ていたと思います。自然との共生を常に考えていればシミュレーションの要素に盛り込める。被害を最小限に食い止めることだってできるはず。そして”Life”。先ほど申し上げた、医療に3D技術を持ち込むことで、さらなる技術の発展に寄与したいと考えています。
“if we”キャンペーンの裏側にあるもの
谷本 人類全体を考えた時に、マクロ視点では”Nature”――自然や地球との共生という観点は欠かせませんし、ミクロ視点でもひとりひとりの”Life”に健康や医療問題はついてまわります。自社の”Product”で”Nature”から”Life”まで――言い換えれば世界を、人類をより素晴らしいものに、という意欲を感じます。もうひとつ。ダッソー・システムズでは”IFWE”というキャンペーンをされていますよね。
鍛治屋 2012年にスタートしたキャンペーンですね。「もし、たとえば△△ができたら、こんな風に世の中が変わるのでは?」というわれわれのスローガンを未来予想図という形で伝えるもの。3Dの可能性を訴求するプロモーションですね。
谷本 これは……氷山ですか?
鍛治屋 そうです。フランスの科学者が「アイスバーグプロジェクト」という構想を進めています。ざっくり申し上げると、「水の少ない砂漠を氷山で潤そう。」という構想なんですが、「氷山の一角」という言葉があるように、氷山は海面から全体像が見えないほど巨大なものですよね。その氷山を北極や南極からどう運んでくるのか。船のサイズ、パワー、3Dシミュレーション技術で計算したり、気象情報を入手して最適な航路を検証しながら実現していこうというプランです。まだ構想段階ではありますが。
谷本 これもまた”Product”が”Nature”と”Life”に関わっています。とても斬新なプロジェクトだと思うのですが、アイデアとシミュレーション、どちらが入り口になることが多いのでしょう。
鍛治屋 両方ありますが、アイデアが先行することのほうが多いですね。アイデアを持っている人の支援にわれわれのソリューションを使っていただく。未知なるもの同士が出会うことで、イノベーションが進むことも少なからずあります。
谷本 もし面白い例などがあったら、教えていただけますか。
鍛治屋 アメリカトヨタが特許の出願をした、「空飛ぶ自動車」は近い将来、実用化されるでしょう。あとはパワードスーツ系ですね。2015年にはホンダが、高齢者や要介護者向け装着型歩行支援ロボットを実用化しましたが、この動きはさまざまな方面で加速すると思います。
谷本 かつて20世紀に私たちが考えていた、「21世紀という未来」が現実のものになってきているようなイメージがあります。
鍛治屋 そうですね。「概念を変える」取り組みをしていきたい。いまエアバスは、東京―パリ間を2時間で移動できる手法に本気で取り組んでいます。実現できたら「時間」の概念が変わりますよね。するとビジネスが変わる。もちろん手法も変わるでしょうが、ビジネスの枠組み自体が変わる。日本では行政も企業も縦割りなので、枠組みを変えるのは難しい面もあるんですが、社会が本当に求めているものなどについては、変化のスピードも上がってきています。
谷本 御社としての課題などもありますか。事業のスピードアップには、認知度の向上なども必要になってくると思いますが。
鍛治屋 大きな課題ですね。ただありがたいことに、現場の方や企業トップの方でも中堅や中小企業のトップの方々には認知していただいています。B to B企業の宿命でもあるとは思いますが、今後は大手企業の本当のトップや一般の方にも届くようなPR手法を考える必要があります。認知がそこまで進むと、ビジネスのスピードも上がりますから。
谷本 海外ではもう認知されているかと思うんですが。
鍛治屋 さすがにフランスだと、誰もが知っていますね。ただそうはいっても、ダッソー・システムズ全体の売上からすると、フランスでの仕事は数%。認知の向上は、ビジネス面から優秀な人材の確保に至るまで、さまざまな観点から見ても非常に大切なんです。
谷本 ちなみに鍛治屋社長ご自身がダッソー・システムズに入社されたきっかけは? 学生や自分のライフプランを考えるビジネスマンにも興味があるところだと思います。
鍛治屋 それはきちんと答えないと(笑)。少し長くなりますが、いいですか?
谷本 では次回に回しましょう(笑)。
Text/Tatsuya Matsuura Photo/Soichi Ise
<プロフィール>
鍛治屋清二●ダッソー・システムズ株式会社代表取締役社長。ソフトウェア関連の複数の外資系企業にて代表職等、要職を歴任したのち、2009年にダッソー・システムズ株式会社にPLM(製品ライフサイクル管理)バリューソリューション事業担当役員として入社。2012年5月代表取締役執行役員兼務。同年12月代表取締役社長就任。「3Dエクスペリエンス」製品群を活用して、仮想空間のなかで臨場感あふれる3D体験を一般消費者までもが共有できる環境づくりに邁進する。
谷本有香●経済キャスター/ジャーナリスト/コメンテーター。証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスターに。2011年5月からは同社初の女性コメンテーター。同年10月からフリー。トニー・ブレア元英首相、マイケル・サンデル ハーバード大教授、ジム・ロジャーズ氏の独占インタビューをはじめ世界のVIPたちへのインタビューは1000人を超える。また、ジャーナリストならではの観点から企業へアドバイスを行う。
<バックナンバー>
キャスター谷本有香が聞く! 誰も知らないダッソー・システムズ Vol.1