前回の記事「建設生産マネジメントの現在地(前編/後編)」では、芝浦工業大学 建築学部 建築学科 教授 志手一哉氏との対談を通じて、建設業界が直面する「地球温暖化ガス」「生産性」「労働力不足」という3つの課題と、それらを解決する鍵となる工業化施工についてご紹介しました。その中でも重要なテーマとして挙がったのが、BIMデータを設計だけで終わらせず、施工まで活用することです。
では、こうした工業化施工は、実際にはどのような仕組みで実現されるのでしょうか。
本記事では、ダッソー・システムズが提唱する工業化施工についてご紹介します。工業化施工を支える「モジュラー化」と「施工計画」という2つのアプローチを中心に、生産性向上や労働力不足への対応につながる取り組みをご紹介します。
建設業界が抱える3つの課題
工業化施工が注目される背景には、建設業界が抱える3つの大きな課題(図1)があります。
CO₂排出量の削減
建築物は世界全体のCO₂排出量の約39%を占めるといわれています。設計から施工、運用までを通じて環境負荷を可視化し、CO₂排出量を削減することが求められています。
生産性の向上
製造業では約40年間で生産性が大きく向上した一方、環境が大きく違う建設業では改善は緩やかです。限られた人材でより高い付加価値を生み出すためには、施工プロセス全体のデジタル化と効率化が不可欠です。
労働力不足への対応
労働人口の減少や熟練技能者の高齢化が進む中、技能やノウハウをデータとして蓄積し、より多くの作業者が一定の品質で施工できる環境づくりが求められています。
こうした課題を解決するアプローチとして期待されているのが工業化施工です。部品レベルの部材を熟練工が接合するのではなく、標準的なインタフェースを持ったアセンブリを一般作業者が簡単に効率よく設置できることで生産性を向上するというものです。

工業化施工を支える2つのアプローチ
では、ダッソー・システムズが考える工業化施工とは、どのようなものでしょうか。ダッソー・システムズでは、製造業で培われてきた工業化の考え方を建設業に応用し、設計から施工までのプロセスをデジタルにつなぎ、設置手順や施工ノウハウを蓄積・再利用することで、生産性向上を目指すことが重要だと考えています。その実現を支えるのが、大きく2つのアプローチです。
- モジュラー化
- 施工計画
モジュラー化では、一品一様の施工ニーズに対応するために様々な可変要素に対応できる150%BOM化されたコンストラクション・ブロックと呼ばれるデジタルのアセンブリモデルを作成します。コンストラクション・ブロックから数量、図面、3Dの作業指示書などが抽出され、製造や建設現場の作業者を支援します。
一方、施工計画では、設計BIMの情報を再利用し、工程や作業、施工リソースなどの情報を自動化プログラムで4D施工計画として構築し、施工プロセスを工事の開始前にに検証・最適化します。
この2つをデジタル上で連携させることで、設計から施工までの情報を一貫して活用し、施工プロセス全体の効率化につなげていきます。
モジュラー化を支えるコンストラクション・ブロック
モジュラー化を実現する仕組みとして、ダッソー・システムズが提唱しているのがコンストラクション・ブロック(図2)です。
モジュールというと、ユニットバスのように完成した部材を組み合わせる仕組みをイメージする方も多いかもしれません。
一方、コンストラクション・ブロックは、建物を構成する設備シャフトや壁、鉄骨部材などを、再利用可能な「機能ブロック」として管理する考え方です。
単なる3Dモデルではなく、製造や施工現場を総合的に支援するデータとなっています。

設計自由度を担保しインタフェースは標準化する
建築物は一品一様であり、プロジェクトごとに設計条件が異なります。そのため、モジュラー化を進めるうえでは、設計自由度を担保しつつ、インタフェースは標準化することが重要です。
コンストラクション・ブロックでは、完成した部材を固定的に組み合わせるのではなく、設計の要望に合わせて柔軟に変更ができます。
幅や高さ、角度、内部構成などは設計の要望に応じて柔軟に変更できます。接合部のインターフェースは接続方法や設計ルールを標準化します。そのため、設計自由度を維持しながら、工業化施工に求められるモジュラー化を実現できます。
モジュラー化が建設業界の課題を解決する
コンストラクション・ブロックの価値は、標準化されたインターフェースを接合部にを活用することで、施工方法や接続方法も標準化されることです。その結果、特定の熟練技能者だけが施工できる状態から、より多くの作業者が一定品質で施工できる環境づくりへとつながります。
これは、労働力不足への対応だけでなく、施工品質の均一化や生産性向上にも大きく貢献します。
さらに、一つのコンストラクション・ブロックからは、
- 施工図
- 部品表(BOM)
- 作業指示書
- サステナビリティ指標
- コスト情報
など、施工に必要なさまざまな情報を生成できます。
また、一度作成したコンストラクション・ブロックは、次のプロジェクトでも再利用できます。設計・施工ノウハウをデータ資産として蓄積し、継続的な改善を実現できる点も大きな特徴です。(図3)

施工計画とは?
モジュラー化と並ぶ、もう一つの重要な要素が施工計画です。
工業化施工を実現するためには、BIMデータをアセンブリ化するだけではなく、現場作業の無理や無駄を削減することが重要です。実際の建設現場では、「どの順番で施工するのか」「どの工区で施工するのか」「どの設備や人員を使うのか」といった施工プロセス全体を計画し、時間軸で最適化することが重要になります。
ダッソー・システムズでは、プロダクツ・プロセス・リソース(PPR)というデータ基盤により設計データを施工計画の工程や施工リソースまでを一つのデータとして管理することで、設計から施工までをデジタルでつないでいます。
設計データを施工計画へ展開する
施工計画は、設計段階で作成したBIMモデルから始まります。
まず、設計段階で作成したBIMモデルを設計BOM(EBOM:Engineering Bill of Materials)として管理し、建物を構成する部材や設備の情報を整理します。
しかし、設計モデルはビル自体の完成形を表現したものであり、そのままでは施工計画には利用できません。
そこで、施工単位や工区など施工に必要な情報を付加し、施工で扱うグループに再構成したものが施工BOM(CBOM:Construction Bill of Materials)です。さらに、施工BOMに施工順序や歩掛かりなどの工程情報(BOP:Bill of Process)を追加し、クレーンや足場、作業班など施工に必要な設備・人員(BOE:Bill of Equipment)を関連付けます。(図4)
このように、設計モデル、施工単位の情報、施工工程、施工リソースを一つのデータとして管理することで、設計から施工までをシームレスにつなぐ施工計画の作成が可能になります。

施工計画をシミュレーションする
BIMから来る設計BOMと施工BOM、施工工程や施工リソースがデータとして連結されることで、施工開始前に施工計画を精緻にシミュレーションできるようになります。
例えば、柱を施工するための歩掛かりを事前に登録しておけば、一つの工区で作成した施工計画を建物全体へ展開できます。また、ガントチャートを用いて工程を管理しておくことで、施工途中で工程変更が発生した場合も、施工計画へ柔軟に反映できます。
さらに、Plan AとPlan Bのように複数の施工案を比較することで、工期や施工方法の違いを事前に検証し、自動化処理でより効率的な施工計画を立案できます。
施工計画では、工程だけでなくコスト情報もあわせて管理できます。
コンクリート数量や資材単価に加え、クレーンやオペレーターなど施工リソースに関わる費用を関連付けることで、施工段階の精緻な精算見積が出せます。ダッシュボードでは設計変更が発生した場合でも数量やコストを自動的に更新できます。
施工工程、施工リソース、コストを一つのデータとして管理することで、工期だけでなくプロジェクト全体を最適化できることも、施工計画の大きな特長です。(図5)

西松建設における工業化施工への取り組み
ダッソー・システムズでは、西松建設とともに物流施設プロジェクトを対象とした工業化施工に取り組んでいます。
Revitで作成した設計データからワイヤーフレームを生成しLOD400レベルの詳細モデルを自動生成し、数量や重量などの施工に必要な情報を効率的に作成しています。
さらに、そのデータを施工計画へ展開し、工程や標準歩掛かりを設定することで、施工開始前のシミュレーションや、施工中の工程変更にも柔軟に対応できる仕組みの構築を進めています。
このように、設計データから施工計画までのデータを連携し、施工ノウハウを次のプロジェクトへ再利用することで、継続的な生産性向上を目指しています。
事例詳細は西松建設が挑む「3つの壁」突破の全貌をご覧ください。
まとめ
建設業界では、CO₂排出量の削減、生産性向上、労働力不足への対応といった課題への取り組みが求められています。
工業化施工は、こうした課題に対する有効なアプローチの一つです。コンストラクション・ブロックによって部材や設備を再利用可能なデジタル・パッケージにします。さらに4D施工計画をフロントローディングで作成して最適化することで、施工現場の効率化と生産性の向上をはかります。
ダッソー・システムズでは、コンストラクション・ブロックを活用したモジュラー化と、設計から施工までを一貫してつなぐ4D施工計画を組み合わせることで、施工ノウハウをデータとして蓄積・再利用できる仕組みを提供しています。
製造業で培ったデジタル技術や知見を建設業へ展開することで、設計・施工・運用までを見据えた工業化施工を支援し、建設業界のさらなる生産性向上に貢献していきます。
もっと詳しく!動画で見る
本記事でご紹介した内容は、JB Press主催「第9回 建築イノベーションフォーラム」でのダッソー・システムズ講演「BIMを活用したデジタルコンストラクションと工業化施工~4D施工計画と新モジュラー施工の新技術と活用事例~」を要約したものです。詳細はぜひ動画をご覧ください。
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補足:本記事で登場した主な技術用語
工業化施工
製造業の工業化手法を参考にし、部材のアセンブリ化によるモジュラー施工や施工段取りなどの無理や無駄を削減することで生産性をあげていく考え方及び手法。
4D施工計画
BIMモデルをもとに、施工順序や工程、施工リソース、コストなどを計画・シミュレーションし、施工全体を最適化するための計画。
コンストラクション・ブロック
建物を構成する部材や施工要素を分析し、作業単位ごとにアセンブリ化する手法。アセンブリ化したブロックから数量、図面、3D作業指示などの発注や施工に必要な各情報が抽出できるため生産性向上に貢献する。
モジュラー施工
建物を構成する部材や設備を施工しやすい単位でインタフェースの標準化及びアセンブリ化し、現場作業の効率化や品質の均一化、省人化を実現する考え方。モジュラー施工を実現するためのアプローチとして位置付けられる。
プロダクト、プロセス、リソース(PPR)
BIMモデルをもとに、施工の工区割り、施工順序や工程、施工に必要なリソース、コストなどの情報を統合し、施工プロセス全体を計画・シミュレーションするためのデータ基盤。
EBOM(Engineering Bill of Materials)
設計段階で作成したBIMモデルをもとに、建物を構成する部材や設備の情報を整理した設計部品表。施工計画の基となるデータ。
CBOM(Construction Bill of Materials)
EBOMを施工単位や工区などのグループ単位で整理し施工で活用できる形に再構成した施工部品表。施工計画や工程管理の基盤となる。
BOP(Bill of Process)
施工順序や作業工程、歩掛かりなど、施工プロセスに関する情報を定義したデータ。施工シミュレーションや工程管理に活用。
BOE(Bill of Equipment)
クレーンや足場、施工機械、作業班など、施工に必要な設備や施工リソースを定義したデータ。施工計画やコスト管理に活用。

