建設業界では、地球温暖化ガスへの対応、生産性向上、熟練工・労働力不足といった課題を背景に、従来の建設プロセスを変革する必要性が高まっています。
前編では、芝浦工業大学 建築学部 教授 志手一哉氏と、ダッソー・システムズ 建築・建設業界 ビジネス・バリュー・コンサルタント 森脇明夫が、建設生産マネジメントの現在地や、BIMを建物のライフサイクル全体で活用する重要性について議論しました。
後編では、リーン・コンストラクションや工業化施工を実現するためのアプローチ、BIMデータを活用した設計・製造・施工の連携、さらに国内外の実践事例を通じて、これからの建設生産プロセスのあり方について考えます。
本記事は、両者による特別対談動画「建設生産マネジメントの現在地~研究と実務から考える建設DXと工業化施工の本質」をもとに、テーマごとに内容を整理したサマリ記事です。より詳しい議論や解説は、オンデマンド動画でもご覧いただけます。
BIMデータを活用した先進的工業化施工の取り組み

森脇 工業化施工における海外の事例をご紹介します。フランスのあるゼネコンでは、Revitの設計データから建物のワイヤーフレームを抽出し、我々のCATIAを使って詳細度LOD400以上の三次元モデルを自動生成し、DFMA(製造・組立配慮設計)を実践しています。これにより接合部に配慮された部品表(E-BOM/M-BOM)データがそのまま製造機械へ直結するため、現場ではベテランでなくてもだれでも設置することができるようになっています。
またブイグ・コンストラクションでは「コンストラクション・ブロック」の概念を確立しました。(図3参照)。例えば、床下の配管、スラブ、壁、シャフトなど現場の特定の部位を施工性を配慮してブロック化して3Dモデリングすることで、設計・施工の効率を上げようという発想に基づいた取り組みです。
コンストラクション・ブロックからは、部品表、製作図、CO₂の算出といった情報だけでなく、だれにでも作業手順が分かる三次元の作業指示を出力できます。製造管理や施工などに使うにはさまざまな情報が入力された「詳細ブロック」から、ある程度情報を間引いた設計向けの「参照ブロック」を作成します。建物の基本的なフレームが同じであれば、テンプレートを切り替えるだけで詳細ブロックにも参照ブロックにも変更できます。
取り組みの核心は、一度作ったモデルを繰り返し使う「再利用」の考え方です(図4参照)。コンストラクション・ブロックは再利用性を考慮して構造化されており、さまざまなパラメーターを変更可能です。実際にブイグ・コンストラクションではコンストラクション・ブロックをテンプレート化して再利用することで、RCのプロジェクトの実に7~8割の要素をブロック化することに成功しています。
志手 日本の建設業界は、部材・部品単位の工業化という点では世界的に見てもかなり進んでいると思います。これからは「個々の部材をどう組み合わせてひとつのユニットとして成立させるか」という、アセンブリに着目すべきでしょう。
例えば壁であれば表層の下地材、断熱材、軸組み材を、天井であれば軽量鉄骨の下地にダクト、電線、ボード下地までを含めてワンユニットとして扱う。つまり、複数の業種にまたがる仕事を一つにまとめて、工場で製造していくのです。
工場という制御された環境であれば、ロボットやフィジカルAIはその真価を最大限に発揮できます。デジタル化によって「一品ものを多品種にわたって作る」ニーズにも十分対応できるので、工業化によって設計の自由度やデザイン性が損なわれるという懸念はもはや過去のものになっています。
ここで重要なのが「接合」の設計です。異なるサプライヤー同士のパーツをつなぐときに、人のノウハウや技能に頼るような仕組みでは意味がありません。だれにでも簡単に組み合わせることができ、かつ品質をしっかりと担保できる接合部の設計が不可欠です。
だれにでも組み立てられるということは、ロボットでも作業できるということです。重量のあるアセンブリを現場で簡単に設置できるロボットがあり、そのロボットを一人の作業員が2台も3台も同時に動かせるようになれば、現場の負荷を劇的に減らせます。2足歩行ロボットや、職人の複雑な手の動きを真似させるようなアプローチがありますが、より実用的なロボット開発を目指していくべきです。
これらを実現するにはまずはBIMで設計をし、そのデータをもとに「どこで切り分けるか」「どの要素をまとめていくか」を考えていく必要があります。この分割・統合の設計こそが、アセンブリの発想の出発点になります。
森脇 「アセンブリの単位をどう作るか、だれがやるのか」という視点が重要ということですね。
志手 そのとおりです。アセンブラの役割を担う新しい専門職能が必要なのか、あるいは従来のサブコンやゼネコンが担うのかについては議論が必要です。海外では設計事務所がアセンブラ機能を主導する例もあります。いずれにせよ設備系をいかに組み込むかが最大の難所です。ここを乗り越えれば、世界に誇れる工業化施工の仕組みが作れるはずです。


暗黙知を形式知に変換し施工マネジメントを再設計する
森脇 工業化を進めるうえでは、施工マネジメントの再設計、すなわち暗黙知から形式知への転換も欠かせません。西松建設様では「歩掛(ぶがかり)」の経験値をデータとして標準化したうえで、感覚値ではなく、ロジカルに施工工程を自動生成する取り組みを進めています。残業規制で先輩の背中を見て学べない若い世代に、ロジックとして技能を効率的に伝承していく狙いですが、こうした暗黙知の形式知化についてはどうお考えですか。
志手 現代のITやプログラミング技術を活用すれば、多くの暗黙知は形式知化が可能です。これまでは暗黙知として片付けていたものを、あらためて形式知へ変えていく取り組みを進めていくべきだと考えています。
建物の施工工程は、材料が「支持される側なのか、支持する側なのか」が分かれば、論理的な組み立ての順番が決まります。例えば梁は柱に支持されるわけですから、梁を先に、柱を後につけることはあり得ません。それを繰り返せば工程は自動的にできあがります。
しかし現場で働く人間は、機械のようには動けません。そこで、5日間などの一定期間ごとに作業をパッケージ化し、その期間内で「絶対に順番を守るべき作業」と「並行していつでも進めてよい作業」を決めてシステム上で自動計算し、現場で工程に落としこんでいくことができます。
こうした柔軟な計画をシミュレーションするために、やはりデータが欠かせません。なかでも歩掛はどのゼネコンにとっても重要な根幹データの一つです。歩掛データがあれば、工法を変えながらA案・B案・C案といった具合に、複数の工程を自動作成することもできるでしょう。ですから歩掛データを蓄積しようという取り組みにはとても期待を寄せています。
働く人と場所を変革する両輪が建設DXを実現する
森脇 本日は多くの重要なキーワードが整理されましたが、やはり労働環境の改善こそが最終目的ということですよね。
志手 そうですね。やはりデジタル技術の変革の先にある目的は「今建設業の中で働いてくれている人が幸せになること」であることを、忘れてはならないと思います。
BIMのデータを活用し現場作業をオフサイト化するといった取り組みは、最終的には建設に関わる人たちの働き方の改善につながっていくものです。工場での作業が増えれば、連続8時間労働にこだわらず、フレックスやシフト制を取り入れるなど、より柔軟な働き方も実現できるでしょう。
「デジタルによる働き方の変革」と、オフサイト化などによる「働く場所・時間の変革」の両輪を回すことが、真の建設DXにつながっていくということを、最後に強くお伝えしたいと思います。
森脇 本日はありがとうございました。
建設DXと工業化施工の未来を対談動画で見る
本記事でご紹介した内容は、芝浦工業大学 志手一哉教授とダッソー・システムズ 森脇による対談から抜粋したものです。設計・製造・施工の連携、データ活用、そして建設業界の未来について、ぜひフル対談もご覧ください。
▶ 対談動画「建設生産マネジメントの現在地~研究と実務から考える建設DXと工業化施工の本質」を見る
BIMを中心としたデータ活用や工業化施工の実現について、さらに詳しく知りたい方は以下のコンテンツもご覧ください。
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補足:本記事で登場した主な技術用語
工業化施工
製造業の工業化手法を参考にし、部材のアセンブリ化によるモジュラー施工や施工段取りなどの無理や無駄を削減することで生産性をあげていく考え方及び手法。
4D施工計画
3Dモデルに時間軸(工程情報)を組み合わせ、施工手順や進捗を可視化する手法。施工計画の検証や関係者間の情報共有に活用されます。
コンストラクション・ブロック
建物を構成する部材や施工要素を分析し、作業単位ごとにモジュラー化する手法。アセンブリ化したブロックから数量、図面、3D作業指示などの発注や施工に必要な各情報が抽出できるため生産性向上に貢献する。
モジュラー施工
建物を構成する部材や設備をアセンブリ化し、現場の作業工数を減らすことで熟練した技術がなくても施工が可能な環境を実現する。

