建設業界では、労働力不足や地球温暖化ガス、生産性向上を背景に、建設DXや工業化施工への関心が高まっています。
本記事は、芝浦工業大学 建築学部 志手一哉教授と、ダッソー・システムズ 建築・建設業界 ビジネス・バリュー・コンサルタント 森脇明夫による対談「建設生産マネジメントの現在地~研究と実務から考える建設DXと工業化施工の本質」を、テーマごとに整理した記事です。
対談では、建設生産マネジメント、リーン・コンストラクション、BIMデータ活用、そして工業化施工の将来について議論しています。
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建設業界が直面する3つの課題

森脇 建設業界は3つの課題――「地球温暖化ガス」「生産性」「熟練工・作業者の減少」に直面しています(図1参照)。グローバルで起きているこれらの課題にどう向き合っていくべきか、教授のお考えをお聞かせください。
志手 第一の課題である地球温暖化ガスについていえば、建物を建設・解体する「エンボディド・カーボン」と、運用時の「オペレーショナル・カーボン」に分けて捉える必要があります。オペレーショナルはやり方次第で改善できますが、エンボディドは竣工段階で固定されるため、設計や施工でいかに削減するかが重要となってきます。例えば近年増えている都市での中高層木造についても、設計では削減できても、解体後の材料再利用や燃やして発電に使えるのかといったライフサイクル全体での効果をしっかりと考えながら進める必要があると思います。
また建設業は製造業と比べると生産性が低いと言われますが、建設業はその実態を把握するのが難しい面があります。物価高や資材高騰などで建設コストが上昇すると見かけ上の生産性だけが跳ね上がることもありますし、気候変動などのコンディションも大きく影響します。例えば酷暑日や自然災害によって、現場で人が働くことが困難な場面は少なくありません。こうした要素を整理したうえで、建設業の生産性をきちんと測れる指標が必要です。

森脇 生産性の向上という観点で考えると、やはりオフサイト化によるモジュラー施工が有力ということでしょうか。
志手 いくら人が頑張ってもできることには限度があります。現場で働く人を少なくして、なるべく制御された工場での作業を増やしていく、あるいはそこで労働人口の減少があるなら工場を自動化していく、という考え方が必要ではないでしょうか。
日本を原点としてリーン・コンストラクションは発展した
森脇 工業化自体は製造業がリードしてきました。現在、グローバルで工業化施工をリードしている「リーン・コンストラクション」の概念は実はトヨタ生産方式を応用したもので、欧米では資格制度を作るなど非常に熱心ですが、ある面、原点でもある日本の建設業での受け止めかたはいかがでしょうか。
志手 日本で建設の工業化が始まったのは、1960年頃にさかのぼります。当時は公営住宅などの大量建設のために壁式プレキャスト構法など躯体の工業化が進み、1970年になるとハウスメーカーがプレハブ住宅を進化させていきました。その結果日本は工業化施工が進んだ国となりました。1980年にはイギリスから日本のゼネコンを視察に訪れて「日本のゼネコンは、なぜこんなに設計者や発注者といざこざを起こさずに現場を回しているんだ」と感銘を受けたようなことが書籍に遺されています。その後にイギリスで1994年のレイサム・レポート、1998年のイーガン・レポートが出てきて、イギリスとアメリカで同時発生的にリーン・コンストラクションの概念が発生してきました。
つまり諸外国は日本の産業を原点としてリーン・コンストラクションを発展させてきたと言えます。ですから言葉は違えども、日本の実務者には「リーン・コンストラクションでやっていることは日本ですでにやっている」という感覚があります。しかし、海外ではリーン・コンストラクションがどんどん発展していて、日本は原点のままにとどまっているかもしれません。今一度、リーン・コンストラクションの内容を含めて日本でできていること、できていないことは何か、その差分をどう捉えていくかが重要になっています。
「BEYOND BIM」が目指す設計・製造・施工の連結
森脇 工業化施工を進めるうえで重要なファクターとなるのが、BIMの活用です。現在の日本ではBIMは確認申請の領域まで安定して行えるようになってきています。これを一歩先に進めるうえで「BEYOND BIM」、つまりBIMデータを設計だけでなく、工場での製造や現場での施工にまで直接連結させていく考え方が必要になっています。
志手 国土交通省では建築BIM推進会議の議論を基に、BIM活用を推進するためのガイドラインを策定しています。このガイドラインでは企画から設計、施工、維持管理・運営に至る既存のワークフローが8つの業務区分へと整理されました(図2参照)。従来の実施設計は「実施設計1」と「実施設計2」に分割されています。
この業務区分は、王立英国建築家協会(RIBA)が提示している『RIBA Plan of Work』を参考にしています。Plan of Workでは「空間設計(Spatial coordination)」と「技術設計(Technical design)」が明確に区切られています。ですから国交省の新ガイドラインにおいても、「実施設計1」では従来同様の実施設計をやり、「実施設計2」ではいわゆる生産設計的なことをやる、と考えるのが妥当でしょう。不確定な要素を少なくした状態で建設に着工するための概念と言えます。
これまではBIMを製造や施工につなげようとしたとき、設計支援をだれがやるのか、その業務報酬をどうするのかがあいまいになり、施工の付帯サービス的になっていました。しかしこれからは、サプライヤーが設計支援に入るなら実施設計2の段階で、適切な業務委託契約を結んで報酬を払ってやってもらう、ということになるべきです。実施設計2の領域を明確にすることは、フロントローディングを推進していくうえでも不可欠です。
ただ実務者からすると、既存の設計を2段階に分ければ「全体の設計期間が長期化するのではないか」という懸念が生じるでしょう。しかし、実施設計が加わるわけではなく、従来の実施設計の期間を2つに分けるだけですから、一般的な実施設計をより短期間でやる必要があります。さらに実施設計2の段階から、これまでは現場でやっていた接合部の調整といったものを考慮していく必要も生じます。だからこそ、BIMデータを設計・製造・現場でつなぐことが重要になるわけです。

建設業界が直面する地球温暖化ガスへの対応、生産性向上、熟練工・作業者の減少といった課題を解決するには、BIMを単なる設計ツールとして活用するのではなく、設計・製造・施工・維持管理まで、建物のライフサイクル全体で情報をつなぐことが求められています。
後編では、リーン・コンストラクションや工業化施工の考え方、そしてBIMを中心としたデータ活用が、これからの建設生産マネジメントをどのように進化させるのかについて、さらに掘り下げます。
対談動画でさらに詳しく
本記事は、芝浦工業大学 志手一哉教授とダッソー・システムズ 森脇による対談内容をもとに構成しています。建設業界が抱える課題や、工業化施工による変革の可能性について、対談動画ではさらに詳しくご紹介しています。
▶ 対談動画「建設生産マネジメントの現在地~研究と実務から考える建設DXと工業化施工の本質」を見る
建設業界の変革には、BIMの導入だけでなく、プロセス全体を見直す考え方と具体的な実践が求められます。関連する取り組みについて、以下の記事でも詳しく紹介しています。
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補足:本記事で登場した主な技術用語
建設生産マネジメント
建築物の企画・設計・施工・維持管理までのプロセス全体を対象に、品質・コスト・工程・情報を統合的に管理し、生産性向上を目指す考え方。
BIM(Building Information Modeling)
建物の3次元モデルに、部材情報や工程、コストなどの属性情報を組み合わせ、設計・施工・維持管理まで建築ライフサイクル全体で活用する手法。
リーン・コンストラクション
建設プロセスにおける無駄を削減し、関係者間の連携や継続的改善を通じて、生産性や品質向上を目指す考え方および手法。
エンボディド・カーボン
建材の製造、輸送、施工、解体など、建物のライフサイクルにおいて建設・解体段階で発生する温室効果ガス排出量。
オペレーショナル・カーボン
建物の利用期間中に、空調・照明・設備運用などによって発生する温室効果ガス排出量。

