サステナビリティAugust 4, 2021

「水の週間」に考える水と消費:実は知られていない水資源にまつわる課題(前編)

現在、水を取り巻く課題はどのような状況になっているのでしょうか?
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8月1日~7日は水の週間です。水は空気と同じく生命維持に不可欠であり、世界に繁栄をもたらす経済圏の確立にも必要な資源です。しかし、今日、世界の消費活動は水資源を破壊し、枯渇させるリスクをはらんでいます。世界の人口は2050年までに97億人に達すると予想されており、サステナビリティ(持続可能性)に向けた取り組みの中で、節水と水質保全は最重要事項になりつつあり、産業界はこうした取り組みを主導する役割を果たしています。では現在、水を取り巻く課題はどのような状況になっているのでしょうか。

水資源を取り巻く課題。消費活動が水資源に与える影響とは?

水は人間の生活を支える最も重要な資源であり、地球の生命線です。例えば、海の生態系は食物と薬品のための資源を提供しており、サンゴ礁からの資源は、癌、アルツハイマー病、心臓病の新薬の開発に使用され波や潮の干満、潮流を活用した発電の使用量は2019年に13%増加しました。95%は未開拓であると推定されている海は、エネルギー、石油、ガス、食料、鉱物などの手付かずの天然資源の宝庫であると言えます。

経済的な観点からいえば、水は観光や貿易などの産業に貢献しています。新型コロナウイルス感染症が流行する前は、何千隻ものフェリーが年間20億人以上の乗客を地球上の水域で輸送し、ほぼ同じ数の乗客を乗せた商用航空機が海上を飛行していました。また、毎年2,900万人近くの旅行者がクルーズに参加し、100万人以上の雇用を支え、1,500億ドル相当の商品とサービスを生み出していました米国だけでも、海洋経済は200万人以上の雇用と6,170億ドルの売上を生み出しています。

しかし、水そのものを利用し、製品やサービスを製造する行為やその過程を「消費活動」と定義すると、水資源は消費されるだけでなく、消費活動による被害も受けているといえます。水は有限であり、誰もが利用できるわけではありません。3億2,600万立方マイルの水のうち、人間がすぐに利用できるのはわずか1%未満です

例えば、淡水を利用できる国の水の使用量は、国により異なりますが、シャワーやトイレの水洗などの日常的な活動は、家庭での水の消費量が最も多い活動の例であり、蛇口に水漏れがあるだけで、年間3,000ガロン(約11,356リットル)の水が浪費される可能性があります

ただし、家庭での水の消費はこの問題の一部にすぎません。人々が日常的に使う商品やサービスを消費者に提供する目的のために、無責任な水の使用が発生しており、これにより本来利用可能な水資源が不足する危険があります。企業が事業を行うには、農業、畜産、公共および民間インフラの維持、製品や食品の製造で使用される淡水を大量に消費することになります。

また、商品やサービスを実際に利用することで生じる副産物が、水資源の汚染の原因になることもあります。特にプラスチックは水に対する深刻な脅威であり、人間の健康、気候、観光や漁業などの産業に影響を及ぼしています。この状況を変えなければ、2050年までに、海洋プラスチックの総重量が魚の総重量を超える可能性があります

プラスチックによる水資源への影響は、地球温暖化と海面上昇の加速にも表れています。日光が水中のプラスチックに作用すると、プラスチックが温室効果ガスを放出して温度上昇につながります。その結果、低地の海岸地域の人口が増加する中、海面上昇が海岸線を変え、インフラ、雇用、産業、人々の幸福度に影響を及ぼすことが予想されています。

海洋汚染の80%は陸上での活動に由来するものと推定されています。石油や下水、化学肥料、その他の汚染物質が水系に排出・漏出することで、最終的に海に流れ込んでいるのです。こうした汚染の影響で大量の藻類が成長し、魚介類を支える水中の酸素レベルが低下する可能性があり、人間の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

水資源をスマートに活用・保護する動き。魚の動きを模倣し、新たなエネルギー源を模索する企業も登場

世界中の組織や政府は、水資源の保護が緊急の課題だと認識しています。企業、政府、地域社会が連携して前向きな変化を推進するため、国際的なキャンペーンが多く立ち上げられています。

国連は、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った開発と水資源の統合管理に焦点を当てた、2018年から2028年にかけての「水の国際行動の10年」を宣言しました。また、世界経済フォーラムは、水と衛生に特化した国連の目標を推進する新たな連携を支援し、水を経済成長計画の中心に据える「グローバルウォーターイニシアティブ」を立ち上げました。

各国政府も環境汚染阻止するために新しい法律や規制を制定しています。例えば、欧州議会では2019年に、食卓用のナイフ、フォーク、スプーン、綿棒、ストローなどの使い捨てプラスチック製品の使用を2021年までに禁止する法案を採択しました。2020年11月には、海面上昇を監視するための米欧合同の衛星が打ち上げられており、今後、海面上昇に関するデータに加え、天気予報の精度向上と船舶の航行支援を目的とした大気と海流に関する情報も提供される予定です。

また、こうした取り組みと並行して、イノベーターの発言力が高まっています。オランダの非政府組織(NPO)であるオーシャン・クリーンアップは、浮遊ゴミ回収装置を含む海洋浄化システムを開発し、海洋からプラスチックの90%を取り除くことを目指しています。フランスのスタートアップ企業であるEEL Energy社は、3D技術を使用して、魚の泳ぎによる動きから着想を得た波動膜を開発し、海流から電気を生成することで、気候変動への取り組みに貢献する新しいエネルギー源を模索しています。

これまで、水質保全対策の第一歩は、海をきれいにして衛生状態を改善することでしたが、もはや清掃とリサイクルだけでは十分ではありません。また、世界のプラスチックごみ削減への対策に当初前向きだった国も、一貫した姿勢を維持できなくなった結果、代替案が必要となっています。世界は、問題を先取りし、イノベーションの可能性をさらに高め、消費習慣を変えることが求められています。

後編では、よりスマートな水資源の消費の在り方を模索する、ダッソー・システムズのWater for Life(ウォーター・フォー・ライフ)の活動を紹介します。

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