設計・シミュレーションJune 18, 2021

【デザインとシミュレーションを語る】77 : IoT時代のV+R融合開発プラットフォーム

シリーズで述べてきたこの「ライフサイクル循環型開発フレームワーク」は原理的にはどのような製品にも適用可能ですが、その効果を発揮する対象製品とビジネスモデルを適切に選ぶ必要があります。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第9章 情報爆発からのデータ活用】77 : IoT時代のV+R融合開発プラットフォーム

ダッソー・システムズの工藤です。ブログNo.73から継続しているテーマですので、リマインドしていただくためにも、73 : IoT時代のシミュレーション – リアルデータを還流させる新パラダイム からの一連の記事をぜひお読みください。

(1) 対象製品とビジネスモデル

シリーズで述べてきたこの「ライフサイクル循環型開発フレームワーク」は原理的にはどのような製品にも適用可能ですが、その効果を発揮する対象製品とビジネスモデルを適切に選ぶ必要があります。量産品質については、特に消費者向け製品の場合は非常に少ない不良率・性能バラツキしか許容されませんので、高品質生産の技術は十分に構築されています。そこには、シミュレーションが入る余地はそれほど大きくはないように思えます。非常にセンシティブな製品の場合は、公差バラツキや材料バラツキによる影響を十分に考慮した製造工程シミュレーションは有効でしょう。次に述べる、劣化など時間軸や利用条件・環境条件によって異なる実効品質が大きく影響する(タイムアクシス型)製品が、今回フレームワークの主要な対象になると思われます。例えば、ビル・道路・トンネル・橋梁・建機・鉄道・列車・船舶・航空・風力発電・発電プラント、化学プラントといったB2B型の大型かつ長寿命製品にとっては、経年劣化を見越した予防保全こそが、運用リスクとライフライクル・コストに大きく影響するからです。すなわち、ライフサイクルでのメンテナンス・コストを最小にし、予防保全によりリスクを最小化し、製品寿命を最大化するビジネスモデルを可能にしないといけないからです。

(2) ライフサイクル循環型開発フレームワークの価値

設計開発時に、ロバスト設計手法により量産品質を向上させるとともに、稼働時のIoTフィードバックからさらにコストと生産性とのトレードオフとして品質自体をコントロールすることが可能になるでしょう。品質コントロールとは、仕向け地や利用条件によっては必ずしも高品質を目的とするのではなく、コストを重視して品質を一段落としても大丈夫な設計仕様と生産制御があり得るということです。実測された利用条件・環境条件を設計時に考慮し信頼性設計を行えば、従来の設計仕様の想定条件を超えた場合のトラブルや重大事象を未然に防ぐことができるでしょうし、設計の前提を変更する根拠を得ることもできます。個別製品のモニタリングと超高精度Digital Twin技術を使えば、個別性能や極限状態でのふるまいを検証・検討が可能になります。

(3) IoT時代のV+R融合開発プラットフォーム

ライフサイクル循環型開発フレームワークを構築するためには、リアルとバーチャルで使われるすべてのデータ、モデル、プロセス、ソフトウエア、ハードウエアがつながれ、メタデータで紐づけられ、蓄積され、検索され、共有され、再利用される、そういったしくみの中に組み込まれなければなりません。ダッソー・システムズが提供している3DEXPERIENCEプラットフォームは、まさにそのような目的のために構築された汎用的なしくみです。これまで、設計開発をバーチャルな世界で実現するための基盤として多くの実績を作り上げてきた3DEXPERIENCEプラットフォームを本テーマにも適用することで、バーチャル世界でのしくみをリアル世界からのデータ還流プロセスと融合することができます。バーチャル開発からリアルなふるまいの世界へ、さらに次の世代のバーチャル開発へという循環プロセスを構築することができるのです。

©Keiji Kudo

(4) 実現性、そのための課題

ブログNo.73からの一連の記事は、IoT時代のシミュレーション活用の世界は大きく変わるのではないかという漠とした予想からスタートした思考実験とも言えます。対峙しているように見える、バーチャルかつ理想値世界に住むシミュレーションと、リアルかつ大量のデータの集まりであるIoTを、相補的に融合するフレームワークに組み込むことで、おのおのの役割を最大限に活かした新しい設計開発プロセスが構築できることを示しています。構成される技術は、完成されているもの、成熟しつつあるもの、現在発展中のものの混在ですが、未知のものは含まれていないというところが、ポイントです。すなわち、技術はすでに存在しているのです。イノベーションは既存の技術やアイデアの組み合わせから生まれるということであれば、このフレームワークを本思考実験に基づいて動作させることは可能であり、これからの時代の鍵になるフレームワークにちがいないと考えます。実現していくに当たっての一番の課題は、技術やシステムよりも、統計的処理、統計的計算、統計的分析を行い、設計開発と製造業務に適用していくための利用者の統計的思考と技能にあるかもしれません。データ・サイエンスの潮流のなかで、速やかに啓蒙され改善されていき、統計的思考と技能を持つエンジニアが増え、マネージメントの理解が得られさえすれば、実現可能なしくみなのです。


追記紹介

弊社INDUSTRY WEBCASTにて、「DXとしてのシミュレーション活用を考える」シリーズの講演を毎月実施しており、その第2回を2021年6月29日(火)に配信いたします。

第2回副題:森を眺める視点でシミュレーションを活用する

概要:要求が増え、機能が増え、仕様が異なり、活用方法も多様になるという複雑性設計の状況にあっては、単にシミュレーションを活用するだけでは十分ではありません。設計空間という概念を理解し、現在の設計案がどこに位置し、あるべき設計案の方向はどちらにあるかを把握する設計手法なしには、深い森の中を迷うだけの状況になります。本セミナーではこのような森を眺める視点で設計するとはどういうことかを解説します。

申し込みはこちらから受け付けておりますので、どうぞふるってご参加ください。

5月25日に配信された第1回~シミュレーションはそもそもDigital Transformation (DX)である~を見逃した方は、こちらから視聴することができます。

今のところ、4回までを想定しており、今後のタイトルは下記の通りとなっています。

第3回:1D-CAEを活用した想定設計で手戻り削減に貢献する(8月初旬予定)
第4回:要求性能に基づく予測と検証でデザイン・レビューを変革する(8月末予定)


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受け付けの期限は、2020年末とさせていただきます。

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

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