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設計・シミュレーションMarch 25, 2021

【デザインとシミュレーションを語る】73 : IoT時代のシミュレーション – リアルデータを還流させる新パラダイム

この回から、IoTデータをシミュレーションで活用する方法論について考えてみます。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第9章 情報爆発からのデータ活用】73 : IoT時代のシミュレーション – リアルデータを還流させる新パラダイム

ダッソー・システムズの工藤です。この回から、IoTデータをシミュレーションで活用する方法論について考えてみます。2020年計算工学講演会論文集を入手できる方は、「量産・実効・個別品質を検証するIoT時代の統計的シミュレーション・フレームワークについて」と題する論文をベースに書き直している内容となります。

言うまでもなく、出荷・流通する製品のリアル・データが入手可能になるIoT時代に突入しています。IoTデータは現在進行形で爆発的に増えています。これらのデータをシミュレーション有効活用する方策はどこにあるのでしょうか。リアル・データとしての製造バラツキ、劣化の状態、個々の使われ方や環境変化を含んだ実データを収集・把握できることから、それらのデータを加工し標準化することで、シミュレーションで設計された製品のふるまいを、統計的な実データで検証できるはずではないかと想定できます。不確定なふるまいを設計時に検討する手法であるロバスト設計や信頼性設計を適用する際、従来は誤差因子やそのバラツキの定量化には、実測値が不十分なためにある程度仮定を導入せざるを得なかったのですが、IoTを通じて実データに裏付けられたバラツキ情報が得られるおかげで、定量的な偏差の大きさに加え、見逃していた要因や想定外のバラツキを正しく導入することが可能になるはずです。設計プロセス自体も大きな影響を受けるでしょう。バーチャル設計のあらゆる場面でIoTデータを活用するニーズが生じることに加え、現場から設計へ還流するあらたな設計プロセスを構成できるので、大量のデータを統計的に取り扱う方法論と新たなフレームワークが必要となります。同時に品質の概念も大きく広がり、従来の開発段階での製品品質だけではなく、ライフサイクルのどの段階での品質に着目するかにより、以下の3種類のライフサイクル品質を定量的に取り扱う新たな設計方法論が必要とされるようになります。

  • 出荷時の量産品質
  • ユーザ利用時の時間に依存していく実効品質
  • 個々の利用状況や環境の違いによる個別品質

世の中のすべての現象は本来不確定性に満ちていますが、理論上単純化しないと扱いにくいことから、ほとんどの設計では理想値/平均値で代表させて扱うことが暗黙の了解とされてきました。ところが、昨今の大きなトレンドとして、大量のデータを取り扱うことが可能な高速大規模なHPC環境、多変量解析や機械学習/深層学習などの高度なソフトウエアの出現と、従来困難であった不確定性データを入手可能なIoT技術を組み合わせれば、不確かさを直接取り扱う設計プロセスが可能になります。これにより、シミュレーションを活用した設計プロセスの流れの方向が変わり、根本的に変革されことが想定できます。まず、企画から生産に向かってモノを作るという設計開発プロセスで一旦閉じていたデータの流れが、IoTからの実利用データを取り込んだ大きな還流プロセスの一部として転換されます。製品が破棄されるまでのライフサイクル全体と設計開発との強い連携が実現されるので、ライフサイクル循環型開発プロセスと名付け、下図にその概念を示します。

©Keiji Kudo

これまで還流プロセスがなかったわけではなくて、例えば、重大トラブルによるリコール、顧客クレーム、故障/事故分析など明らかな不具合情報は設計に戻され、対策を取るために活用されてきました。しかし、それは多くの不具合事象の一つが顕在的されたという一過性のフェードバックであって、IoT的な技術なしには他の潜在的な事象の情報を定常的に集めることはできなかったのです。利用状況を測定したリアルデータが還流することで、単発的な重大事象だけではなく、良好な利用状況も含め、事故一歩手前の潜在的な危険現象、設計想定外の事象など、漏れなくデータとして活用できるメリットは測りしれないことは容易に想像できます。もし、こうしたRealを前提としたVirtual設計プロセスが実現したとすれば、一種のパラダイムシフトということができます。

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