設計・シミュレーションApril 5, 2021

【デザインとシミュレーションを語る】74 : IoT時代のシミュレーション – 製品ライフサイクルの不確かさから見た品質概念

本記事ではライフサイクルにおける品質について改めて考えてみます。ライフサイクルの時間軸上で、製造時、利用時、個別利用時という3種の不確かさ要因による品質への影響を想定した品質定義を試みます。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第9章 情報爆発からのデータ活用】74 : IoT時代のシミュレーション – 製品ライフサイクルの不確かさから見た品質概念

ダッソー・システムズの工藤です。本章でこれからお話する内容は、”不確かさ“について理解しておいていただく必要がありますので、ぜひ、下記の3編を事前にお読みください。設計において考慮しなければならない不確かさについての基本的なことが書かれています。35回以降をお読みいただければ、さらに、ロバスト設計の方法論についても知ることができます。

第32回 : 品質に求める最高と安定と安心と
第33回 : 設計とは不確定性の克服
第34回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法

本記事では第34回で紹介した内容と図を少し書き替える形で、ライフサイクルにおける品質について改めて考えてみます。第32回に示した最高品質、安定品質、安心品質という製品特性上の品質指標を念頭に置いて、ライフサイクルの時間軸上で、製造時、利用時、個別利用時という3種の不確かさ要因による品質への影響を想定した品質定義を試みます。

©Keiji Kudo

  • 量産品質は、工場出荷直後の製品品質です。材料特性、加熱冷却による変化、加工や組付け公差、装置依存、技術者依存等々の製造プロセス全般のバラツキに起因する品質になります。製品仕様を基準にした量産製品の実測バラツキを定量的に示すので、まだ利用者に使われていないのバラツキという意味では、静的な品質特性とも言えます。例えば、自動車の衝突安全性能は、ボディパネルを薄板成型する際の板厚分布のバラツキやスポット溶接の強度バラツキの影響を強く受けることが知られています。現在衝突解析のモデルを作成するときには、理想的な設計仕様である均一板厚ではなく、薄板成型シミュレーションを実施したあとの結果、すなわち板厚や材料強度特性が分布を持ったパネルのモデルが使われています。スポット溶接についてはロボットで自動溶接が行われてはいるものの、電流、通電時間や種々抵抗のバラツキにより、溶接強度がばらつくことで、衝突時の破断現象に大きく影響を及ぼすことはシミュレーションのみならず、量産車の衝突実験でも観察されています。
  • 実効品質は、利用者の使い方や利用環境・条件のバラツキ、それによる疲労や経年変化などに起因する品質と定義します。量産品質が静的特性だとすれば、実効品質は実際に使われている状態かつ時間軸で変化(タイムアクシス)していくので、動的な品質特性ということができます。実効という言葉は、コンピュータの実効性能や、自動車の実効燃費というときも使われる、実利用環境での効果を言います。実効品質はこれまで測定できなかった値ですが、センサーとインターネットがあれば、技術的には容易に取得することが可能になります。重要なのは、性能指標だけではなく、製品の状態を表す属性情報と対でデータを収集しないと分析の効果がないということです。シミュレーションの際には72 : 情報爆発をコントロールし活用する属性データの意味”で説明したような属性データを収集する必要があることと同様、リアルデータの収集においても、シミュレーションと対をなるような形での属性データを時刻履歴として収集しなければなりません。
  • 個別品質は、極端な条件、重大事象、事故、極限的な利用状況といった、統計的事象の端に位置する、もしくは着目している個々の状況に特有の品質です。普段は起こることは稀なものの、ある条件が揃うと起こる事象に関するリアルデータは、実験で再現するために必須です。実験で再現できればもちろん、実験で再現できない場合でもリアルデータでの条件がわかれば、シミュレーションで再現し、原因を究明し設計を改良することが可能になります。現製品であれば、そうした状況にならないような運用・運転が可能になるかもしれません。

これらのリアルでの品質に、設計開発プロセスにおける従来の品質である、製品品質、実験品質、およびシミュレーションのモデル品質を加えたものが、ライフサイクル全体での品質概念を構成します。この図について改めて指摘したいのは、これまで測定/入手不可能であったリアル主体からのデータ入手により、量産品質/実効品質/個別品質を定量的に測定・把握できることになり、設計開発にフィードバックできる条件が整うということを、視覚的に俯瞰的に理解することができるということです。さらに言い換えれば、バーチャルとリアルな世界での品質を縦横に把握・管理・制御可能になることで、新たなシナリオが見えてくるはずです。

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