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設計・シミュレーションJanuary 13, 2021

【デザインとシミュレーションを語る】69 : 設計プロセス分析からワークフロー自動作成へのチャレンジ~SDSI-Cubicの発想

SDSI-Cubicモデルのコンセプトをご紹介します。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第8章 複雑性設計に対応する】69 : 設計プロセス・フロー自動作成へのチャレンジ~SDSI Cubicの発想

ダッソー・システムズの工藤です。少し昔の話をさせてください。とはいっても、これから紹介する内容自体は今でも通じるだけではなく、まだまだ必要とされていく技術であろうと思います。テーマに入るまえに経緯をお話します。学術振興会に、システムデザイン&システムインテグレーション研究委員会が2005年に発足しました。177番目なので、通称第177委員会と呼ばれていました。当初は携帯電話を対象にして、設計手法のあるべき姿を議論してきたのですが、その後携帯電話産業自体が急速に縮小してしまいましたので、特に製品に特化することなく、研究会活動が行われていました。

その当時、海外では数少ないながらフレームワークという概念をもった事例が出て来ていました。GEが航空機エンジン設計で採用していたIntelligent Master Model (IMM) は非常に先進的でワクワクするものでしたし(参考論文はここ)、イギリスの企業と学会からなるコンソーシアムで提唱されていたVirtual Plant Demonstration Model (VPDM) は、“発電プラント全体のあらゆる仮想モデリングを可能にする統合化されたソフトウエア環境”という意味で非常に画期的なものでした(参考論文はここ)。そういった事例を学習し、刺激を受けながら、汎用的なシステム・アーキテクチャとはどうあるべきかを考えているときに、“【デザインとシミュレーションを語る】65 : 設計タスクの複雑性~Design Structure Matrixで仕事を構造化”で紹介したDSM(Design Structure Matrix)のことを知ったことでデータ・フローの重要性がわかり、いろいろなことが連携できるイメージが浮かんできました。そのコンセプトは、設計情報を製品情報と工程情報に分けておのおのを記述・分析と実行・処理する機能に分けるという2x2の4つの面で眺め、INとOUTを持つという構造(フレームワーク)になりました。その結果あたかもサイコロ状に見えることから、System Design & System Integrationの頭文字であるSDSIと組み合わせて、SDSI統合フレームワークのCubic表現とし、その後名称を簡略化して、SDSI-Cubicモデルと名付けました。第1期の中頃2008年のことです。その間ちょうど大阪大学イノベーションセンターの客員教授を拝命しておりましたので、それなりの役割を果たせたかと自負しております。コンセプトの概要と初期のスライドを添付しています。

初期コンセプト

多様なIT技術で構成される製品ライフサイクルの全体像を、多面的な視点で表現し、各モデルがパラメトリックに連動するフレームワーク

多面性の定義

● 対象軸:何を扱うかを表現する技術

① 製品情報:形・機能・性能を定義する技術 (Thing)
② 工程情報:設計・製造といった時間軸の工程を扱う技術 (Process)

● 機能軸:何をするかを表現する技術

① 記述・分析する機能が主である技術 (Description)
② 実行・処理する機能が主である技術 (Execution)

● 時間軸:ライフサイクル軸での、関連性・依存性を表現する技術

フレームワーク・アーキテクチャ

上記の対象軸(製品情報 + 工程情報) と 機能軸(記述・分析 + 実行・処理)を組み合わせた4軸を下記のように定義し、これに 時間軸(ライフサイクル)を加えた5軸に対応するITシステムとそのモデルがパラメトリックに連結されたフレームワーク

① 製品情報 を 記述・分析するフレーム:製品仕様や要求などのプロファイルを定義するシステムズ・エンジニアリング的機能
② 製品情報 を 実行・処理するフレーム:機能や性能を表現するCAD/CAEモデルとPDMなどの関連情報の連結
③ 工程情報 を 記述・分析するフレーム:設計タスクのデータ構造をDSMで表現し、最適に整流化する機能
④ 工程情報 を 実行・処理するフレーム:Isightで実行可能な形で設計プロセスを表現し、自動化・設計探索を行う機能

©Keiji Kudo

    このコンセプトのキーになるのは、工程情報の“記述・分析”を行うDSMからのデータフローを、“実行・処理”行うワークフローに置き換えるしくみにあります(上図のFIPERと書いてあるところ、Isightと同じ)。実は、このことはすでに、【デザインとシミュレーションを語る】 66 : 設計プロセスの複雑性〜Process Integration & Design Optimization に述べていますので、後半のデータ・フローからワークフローを構成できるという部分をお読みください。

    ©Keiji Kudo

    コンセプト自体汎用性が高く、製品開発一般に適用できるものでした。課題は、実装してデモが可能なシステムとして動作させうるかということでした。幸い、第177委員会のメンバーであった、大阪大学や東京大学の研究者の方々の一致団結した参画のおかげで、実行可能な初期システムも立ち上がり、以降に引用しているように、その成果も論文として発表されています。今から思うに、第177委員会の名称であったSystem Design & System Integrationは、言ってみれば複雑性設計へのチャレンジであったのです。SDSI-Cubicモデルは、その回答の一つとして複雑さをいかに役割に分割して、全体を見通せるかを試みたのでした。本ブログNo.62で取り上げた、モデルの複雑性、設計構成要素の複雑性、相反問題の複雑性、設計タスクの複雑性、設計プロセスの複雑性、設計トレーサビリティの複雑性、が考慮されていることに、今となって改めて気づかされます。

    さて、ダッソー・システムズが、その当時属していたエンジニアス・ソフトウエアという会社を買収したのは、同じ2008年だったのですが、その後2012年頃正式に3DEXPERIENCEプラットフォームを提唱するようになったときは、SDSI-Cubicモデルはまさにコンセプト的に非常に近いと感じたのでした。第177委員会においてSDSI-Cubicモデルが全面的に受け入れられ、その後実装、応用や発展形についての関連論文や報告がいくつか出されています。論文のなかに登場する“FIPER”という製品名は、Isightのサーバ型としてエンジニアス・ソフトウエアにより開発されていた最適設計システムの名称です。今でいうプラットフォームを先取りした製品でした。

    (2009) 次世代システムLSIのシステムデザイン・インテグレーション手法に関する研究

    P5~P11にSDSI-Cubicモデルの初期アイデアが説明されています。

    (2010) 次世代システムLSIのシステムデザイン・インテグレーション手法に関する研究

    SDSI-cubic手法をLSI設計に適用した詳細論文

    (2014) システムデザイン手法SDSI-Cubicを用いたシステムLSIの適正設計

    (2017)日本学術振興会産学協力研究委員会システムデザイン・インテグレーション第177委員会

    (2018) SDSI-Cubic手法における製品システムモデリング手法の提案

    平成27年5月 No.112 日本学術振興会協力会会報 430-297

    私が発想したSDSI-Cubicモデルが、学会の最先端のテーマ領域として第一線の研究者の方々に受け入れられ、それらの成果が論文として世の中に発表されたことは、私の社会人人生のなかでも大きな誇りとなっています。今回は、記録ということも兼ねて、経緯と関連論文を紹介いたしました。なお、第177員会は、3期15年の活動を経て2020年に終了しています。

    【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

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