この一世紀の間に人類は著しい進歩を遂げ、平均寿命を2倍に伸ばし、いくつかの消耗性疾患を克服してきました。これらは公衆衛生やワクチン、その他の治療におけるイノベーションを通じて達成されたものです。しかし私は、人類にとって最高の日々がやってくるのはまだ先のことだと考えています。
1930年の医療が1830年の医療と全く異なるように、2030年の医療は1930年の医療と全く異なるはずです。人工知能(AI)によって、より早期の病気発見、患者の全身の概略図の作成、極めて緻密で個別化された治療の開発、世界中どこでも医療を受けられる機会は飛躍的に拡大するでしょう。
全く新しい世界
医師が訓練で得たノウハウをもとに意思決定する世界から、AIやデータが決定や研修、計画に関する情報を提供する世界へと移り変わっていくでしょう。治療のみならず、製薬プロセスも監督機関の管轄になるものと予測されますが、これは効果的な個別化医療を確立するために重要な動向です。
今年の初めであれば、今後10年かけてこのような変化が起き始めると私は予測したでしょう。ところが、このスケジュールはCOVID-19によって大幅に前倒しされました。これまでは、情報交換がより良い標準治療として実を結ぶまでに何年もの歳月を要していましたが、それがいまや日単位で起こるのです。世界中の業界団体は医師が常に最新情報に基づいて行動できるようにデータを公表しており、監督機関は新しい治療法をできるだけ早く市場に送り出そうとしています。また、データやAI、ソーシャルコラボレーションといった、患者の治療方法の進歩を加速させるツールの使用が急激に増加しています。
考慮すべき問題
当社(Acorn AI)は、このような新しい医療の世界において極めて重要な役割を果たしています。ライフサイクル全体にわたってデータに流動性を持たせ、研究開発から製品化までの流れをスムーズにすることで、意思決定の最前線に実用的なインサイトを提供できます。データの流動化は実現可能です。その理由は、当社が世界中の匿名化された臨床データを格納する最大規模の、各種規制に対応したレポジトリの構築に成功したからです。このデータを使うことで当社は、医療を受けるまでの時間短縮や、新しい治療法のイノベーションに必要とされるインサイトをかつてないほど迅速に提供できます。
私たちは最終的に、真に考慮すべき問題に行き当たります。治療の優先順位を適切に判断するにはどうしたらよいか。製品化までの時間短縮を図るために、治験のデザインや実施をどのように変更するか。どの患者に対していつ、どの治療をどのように実施するか。Acorn AIが取り組んでいるのはこれらの問題だけではありません。当社は、それ以外の多くの問題に対しても、当社のレポジトリにさらにたくさんのデータセットを追加することで、より洗練された最新のやり方で答えを出すことができます。当社はすでに飛躍的な成果を上げています。実際に、COVID-19が治験に与える影響を軽減するための取り組みを始めていますが、これは当社がバーチャルな治験に関して先駆的な取り組みを実施しているからできたことです。
このような取り組みがなぜ必要なのでしょう。私には末期がんを患っている友人がいます。彼の主治医は、新薬の治験のために病院に足を運ぶことは、治療をせずに自宅にいるよりも彼にとってはリスクが高いだろうと忠告したそうです。治験による治療を受けられないことは、死を宣告されたのも同然だと友人は感じています。そして彼だけではなく、同じジレンマを抱えている患者はたくさんいます。幸いなことに、当社が開発したインテリジェントなデジタル治験によって、COVID-19のロックダウン期間中でも患者が安全に治療を受ける方法を見つけ出し、これ以上命を危険にさらすことなく、必要不可欠な治療を進めることができます。
グレートデータから始まるグレートデータサイエンス
当社は、真の個別化医療の推進においても大きく前進しています。個別化医療は、まさにAcorn AIが提示しているように、グレートデータ(高品質なビッグデータ)なくして実現できないことは明らかであり、この事実を軽視すべきではありません。
当社が持つ構造化および標準化された臨床データは、保険金請求や医療記録などのさまざまな記録から得られたデータによって強化され、その後、AIやバーチャル化によって意味あるものとして生成されます。ここからもたらされるインサイトは、患者の個別化医療の工程全体に影響を与え、個別化された術前プランニング、術後ケア、より効果的な移植製品、より良いリハビリプログラムを作り出すのに役立ちます。またこれは、病気の進行をケースバイケースで理解するのにも有用です。例えば、COVID-19については、急速に症状が悪化する患者と無症状の患者との違いについて検討できるかもしれません。当社は、この種のレポジトリとして最大のデータを活用することで、免疫システムを損なうことなく、各患者レベルでの効果的なウイルスの治療方法を理解する手助けができます。
将来的には、私たちはこれをより広く適用できると思います。デジタルツインの技術の進歩に伴い、私たちは患者の完全なデジタルレプリカを構築できるようになるでしょう。このレプリカは、仮想環境下でデジタル治験に利用され、最も効果的な治療に結び付けることが可能です。このような技術の進展がもたらす可能性は膨大であり、何百万人もの命を救うことができるでしょう。
今、世界は試練のときを迎えていますが、重要なのはこれが、人類が初めて直面したパンデミックではなく、最後でもないという認識を持っておくことです。そして私たちは非常に強い姿勢でいます。地球上で最も優れた人々が一丸となってソリューションの提供に全力を尽くしています。ですから、私たちはこれまでよりも力強くこの危機を乗り越えられるでしょう。今は暗闇の中でも、その先の地平線にはたくさんの光があふれています。
Sastry Chilukuri氏プロフィール:Chilukuri氏はAcorn AIの社Presidentとして、顧客であるライフサイエンス企業のイノベーションを促進するために、彼らをサポートする機能の開発、市場導入、提供を迅速に進める役目を担っています。Chilukuri氏は医療技術分野で20年の経験を有し、前職ではマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーとして13年間、バイオ医薬品、医療機器、テクノロジー、公共部門、規制関連の世界中のクライアントのコンサルティングを行ってきました。それ以前は、GEヘルスケアでソフトウェアエンジニアリング、製品開発、オペレーションを担当していました。