没入型技術によって医師が患者ごとに固有の心臓構造を観察できるようになると、その患者にとって何が効果的であるかを豊富な情報に基づいて決定し、最適な治療計画を作成することが可能になります。この夢の実現に役立てられているのが3Dモデリングです。
米マサチューセッツ工科大学で医工学研究所教授を、ハーバード大学で医学部教授を、そしてボストンのブリガムアンドウィメンズ病院の冠状動脈治療ユニットで上級指導医を務めるElazer Edelman氏は、次のように述べています。「コンピュータによるモデリングは、医療を個別化する上で非常に重要な要素です。一人ひとりの患者の人体構造を再構築できるだけでなく、生物学的反応を予測することさえできます。特定の患者にどの薬剤、機器、インターベンションを使用するかを、コンピュータによるモデリングに基づいて選択できる日が来たら、経験や直感、あるいは単なる運に頼らなくても、その患者にとって何が最適かを決定できるようになります」
これは、リビング・ハート・プロジェクトが引き起こす医療分野のデジタル革命の一例にすぎません。3Dの心臓シミュレーションの可能性を探求するためのダッソー・システムズの研究プロジェクトとして始まったリビング・ハートは、世界的なコンソーシアムの創設へとつながりました。このモデルを開発して検証し、新しい革新的な研究形態や個別化治療に応用するという使命を果たすため、何百人もの主要な研究者、教育者、医療機器開発者、心疾患専門医、規制当局が連携しています。
2014年、リビング・ハート・プロジェクトは、電気信号から構造、機能、鼓動時の血液の流れに至るまで、健康な成人の心臓のあらゆる側面を詳細に再現できる最初のバーチャル心臓モデルを開発しました（すでに実用化済み）。このモデルを実際のデータを使ってカスタマイズし、患者固有の心臓を複製した上で、それを分析し、考えうる治療オプションをすべて評価できます。
「心血管疾患は世界最大の死因であるにもかかわらず、その研究は断片化され、連携や情報共有が十分に行われていません」と述べるダッソー・システムズのスティーブ・レビンは、バーチャルモデリングの専門家としてこのプロジェクトに携わっており、先天性心疾患を持つ子どもの父親でもあります。「心臓は胸の奥深くで保護されているがゆえに、何か異常が発生したときにそれを理解するのが大変困難です。私たちのビジョンは、各業界の専門家たちが互いの知識やアイデア、専門能力を持ち寄り、さらにそれらを心臓のワーキングモデル（模型）を使って共有できるような、共通プラットフォームを構築することでした」
リビング・ハート・プロジェクトでは、医師は患者の心臓の状態を理解できるだけでなく、リアルに機能する3D心臓モデルをコンピュータの画面上やバーチャルリアリティ（VR）環境で操作し、心臓が鼓動する様子を心臓そのものの内部から観察することもできます。特に重要なのは、医療介入を行う前に、様々な治療オプションをテストして最適なオプションを決定する機会が与えられることです。このことは、教育やトレーニングのみならず、新しい医療機器や医薬品の設計、臨床診断や治療に至るまで、医療のあらゆる側面を変革します。クラウド上でアクセス可能な心臓の3Dモデルは、患者の病状をわかりやすく説明し、複雑な外科手術とその考えられる結果を視覚化して理解できるようにすることによって、患者とその家族の体験にも変革をもたらしています。
Edelman氏は次のように述べています。「コンピュータによるモデリングは、臨床医や科学者として私たちが行うあらゆることに欠かせない要素になります。医療画像は、静止画のX線から3次元再構成法へと進化しました。患者への介入を仮想的に行って、特定の手技やインターベンション、挿入や植込みを行うと何が起こるかを医師と患者に視覚的に示せるとしたらどうでしょうか。これらはすべて未来の医療を構成する要素として、近い将来に実現する見込みです」
その未来が今、リビング・ハート・プロジェクトのメンバーによって実現されつつあります。米国食品医薬品局（FDA）が、動物や人間を使った治験に代わってバーチャルモデルをどのように役立てているかについては、「バーチャル臨床試験が医療機器の許認可プロセスを一新」をご覧ください。
