前回の投稿では、時間的変化のある交流とない直流の話をしました。今回は、時間的変化をする電気信号の話をしようと思います。信号には、大きく分けるとアナログ信号とデジタル信号があります。ここでは、スマートフォンやPCに代表されるデジタル機器が扱っているデジタル信号について話を進めます。
デジタル機器は、内部の電気信号を使用して通信を行っています。よく、コンピューターは、「信号0と信号1でやりとしている」といいますが、まさにこれがデジタル信号です。この信号ですが、実際は信号0が信号1へ突然変化するのではなく、0から1へ向かうには、それなりの時間をかけて変化していきます。(実際には、0.1→0.2→・・・→0.8→0.9→1といった感じで少しずつ上がっていきます)また、デジタル機器が信号0と信号1を認識するために、あるしきい値があります。例えば、0.2を下回れば0と認識し、0.8を上回れば1と認識するといった具合です。これらの信号の条件を満たせば上手に通信できますが、スマートフォンのような小型な電子機器は、狭い領域にこのような信号を伝播する配線を作成する必要あります。また、電動自動車では、大きな電力を供給する近傍に小さな信号をやりとりする電子機器が設置される場合もあります。
このような環境下では、先ほどの例の本来であれば信号1を通信する信号が0.8に到達できず、0.7位までで次の信号の0が来てしまい、0.7→0.1になり信号1が通信できない場合が生じます。
(実際は、信号の1つが欠けたくらいではエラー訂正機能により問題が発生することはまれです。よって、機器をリセットするような信号などはエラー訂正できないので誤作動します)
このような現象を「信号を歪ませる」と言いますが、その原因は他の配線との電磁界での結合、配線設計のミス、電気回路設計上のミス、外部から電磁界の放射などと様々あります。このような信号の歪みは結果として、機器の誤作動を招き重大な事故に繋がる可能性もあります。
このような問題に対して、総合的に設計支援できるのが電磁界シミュレーターと回路シミュレーターです。
ちなみに、このような信号の問題を一般的にSI(Signal Integrity)の問題とか単にSIと呼んでいます。
このSI設計の難しさが民生品で顕著になりはじめたのは、コンピューターなどに搭載されるメモリーの速度が速くなってきた時代(2001年頃のDDRから)です。以前は、勘と経験でエイヤ!で作っていたところ、エラーが多発して色々なメーカーが回路シミュレーターを導入するようになりました。(当時は、電磁界解析でこの規模の解析ができませんでした)
その後、信号速度も向上し(0.0→0.1→・・・→0.9→1の遷移時間が短くなり)、消費電力の関係から信号に使われるレベルも小さくなっています。今では0.0から1まで変化していたのが、0.0→0.5となり、0.1を下回ったら信号0、0.4を上回ったら信号1といった感じになっています。
この結果、信号が以前に比べて様々な要因で容易に歪むようになってきており、回路シミュレーターでは分からない電磁結合的な影響も大きくなってきています。そのため、最近では解析するコンピューターの性能も相まって、このようなSI問題を解決し信号の品質を保つために電磁界解析が利用されるようになっています。
今回は、信号を綺麗に伝えるために電磁界解析が使われていると言う話をしました。対象としては、IC(Integrated Circuit)、ICパッケージ、プリント基板(PCB(Printed Circuit Board))、コネクター、ケーブルなどの開発、設計が当てはまります。