Thought LeadershipApril 12, 2019

「エクスペリエンス」ダッソー・システムズ取締役会副会長・CEO ベルナール・シャーレス

日刊工業新聞 2018年11月26日掲載 価値生む協業の「場」を   【使い方・使われ方を重視】  
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日刊工業新聞 2018年11月26日掲載 (日刊工業新聞の許可を得てブログに掲載しています)

価値生む協業の「場」を

【使い方・使われ方を重視】

経済界も産業界も「価値(バリュー)」という一つの論理を基に構成されている。価値自体に値段がつくわけではない。だが、人が何らかの対価を払うのは相応の価値を認めるからである。21世紀の経済では個人、産業界、社会のどのレベルでも、製品自体ではなくその使い方・使われ方が重視される。つまり製品とその所有を前提とした経済から、使い方・使われ方やエクスペリエンス(使用を通じた体験)を前提とする経済へ移行しているのだ。

例えばモビリティー(移動全般)は自動車はもちろん、異業種を含む多くの企業が取り組むテーマである。革新的なエコシステム(産業の生態系)は、住民、事業者そして都市そのものと協調する全く新しいモビリティーの使い方・使われ方へと想像を巡らせている。モビリティーの価値を検討する時、既存の産業区分は意味がない。今後は関連するサービスや資源管理、都市計画などを統合した、新しい「都市」という産業区分が出現する。

製品という物質的な価値に固執する20世紀型の産業は、使い方という強力な価値の担い手たちを前に後退せざるを得ない。今日、産業界の価値の創造とつながり、つまり「バリューチェーン」を実現する立役者はメーカーではなく最終利用者である。製品の使い方・使われ方を最も理解しているのは最終利用者であり、新しい製品を提案し、価値を生み出す担い手でもある。使い方・使われ方のデータは価値の源であり、デザイン事務所や広告代理店、保険などさまざまな事業者にデータを提供する仲介者はますます増えるだろう。

今後、産業界におけるクリティカルパス(成否を分ける重要な要素)は、工場や機械といった資産の規模ではなく、使用をめぐるバーチャルエクスペリエンス(仮想体験)の有無になる。革新的な中堅企業は、自社の可能性を試し、バリューネットワークを中心とする世界経済の中で存在感を示す好機である。

【産業構造「デジタル」再編】

現在の産業界は、データではなくモノや部品の流れを基に編成されており、将来像を見据えた編成ではない。エクスペリエンスを生み出すには技術者、マーケティング、開発、消費者、デザイナー、販売網、大企業、スタートアップ、教育、研究機関の協業が重要だ。新しい経済は新しいバリューネットワークを介した協業で成り立つ。その協業を可能にするのは革新性を試す場でありマーケットプレイス(商取引市場)でもあるデジタル・プラットフォームである。

ではプラットフォームとは何か。それは知識とノウハウを集積し、産学官のエコシステムをつなぎ、需給を結びつける協業の「場」である。

例えば当社は米カンザス州のウィチタ州立大学や米国立航空研究所と協力して、起業家と学生と企業が、現実とバーチャルの両側面で未来の航空を思い描ける場「3DEXPERIENCEセンター」を開設した。また既存の産業区分では「ソフトウエア産業」とされる当社であるが、3Dプリンティング部品の受発注や生産を扱う世界規模の電子商取引市場、いわば製造業向けのアマゾンともいえる「場」も展開している。

【自らもプラットフォーム】

このように新しいバリューネットワークは国境を越え拡張している。日本もこうしたネットワークを生み出す、あるいはそこに参画するのが急務であろう。さらに言えば、個々の企業は自らをプラットフォームとして捉え直すべきだ。デジタル・プラットフォームはイノベーションや協業の場となり、それがモジュール化、システム化、「つながる」化された生産を実現する。ひいては「つながり」を基にした利用者とも協業する新しい経済モデルへの道を開く。プラットフォームは単なる技術ではなく、考え方や学び方、事業の進め方を全て刷新するものであり、革新に向けた包括的なアプローチとなる。

この新しい世界の中では、私たちは消費者でもあるのと同時に、世界への貢献者でもあるのだ。インダストリー・ルネサンスへようこそ。

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