製造業February 9, 2017

【発展期にあるMBSE】多層システムの仮想シミュレーションで、 複雑さを軽減できるのでは

複雑なエンジニアリング上の課題を仮想シミュレーションを使って軽減する、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)手法の可能性を探る企業や組織は、ますます増えています。
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Avatar ダッソー・システムズ株式会社
複雑なシステムのエンジニアリングには複数の分野を統合する必要がありますが、各分野には独自のやり方があり、さまざまな互換性のないツールが使われていることが少なくありません。モノのインターネット(IoT)におけるエンジニアリングでは、よりいっそう緊密な相互接続が求められます。そこで、MBSEで使われているバーチャル・プロトタイピングが助けになると期待されています。

複雑なシステムを効率的に設計できるようにすることは、とてつもなく大きな取り組みです。「従来の方法ではまずハードウェアの構造、つまり部品と部品相互の接続に着目し、相互に作用する部品を適切に配置することで望みの挙動(ビヘイビア)を実現しようという考え方でした」と語るのは、公認技師であり、システムズエンジニアリング国際協議会(INCOSE:International Councilon Systems Engineering)フェローでもあり、関連著作も多いHillary Sillitto氏(英・スコットランド)です。

しかし、この「構造第一」の手法はサブシステム間の衝突を招きます。「考えられる相互作用が多すぎるので、この手法では好ましくない、または容認できない特性や挙動が他に無いということを保証できません」と、Sillitto氏は言います。

その上、モノのインターネット(IoT)の台頭で課題が急増しています。「この指数関数的に拡大している相互接続網は、システムにおける相互作用の複雑さ、頻度、伝播を劇的に増やしています」と、フォード・モーターのリードエンジニアを務めた後、現在はブーズ・アレン・ハミルトン(米)のフェロー兼チーフエンジニアで、INCOSEでSEトランスフォーメーション(SE Transformation)のアシスタントディレクターを務めるTroy Peterson氏は述べています。

IoT向けに設計された製品開発を主導するドイツの家電メーカー、ミーレは、この課題をよく把握しています。「製品の機能は、ますますハードウェアとソフトウェアの複雑な組み合わせの結果となっています」と、同社の仮想製品開発責任者Matthias Knoke氏は語ります。「従来は多くの機能が機械に依存していましたが、現在ではメカトロニクスの組立部品に取って代わられているため、機能の範囲が大幅に拡大しています。ますます多くの分野を同時に調べ、製品に取り込まなければいけません。従来の開発手法やテスト手法ではもはや十分とは言えません」(Knoke氏)

MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)

複雑なエンジニアリング上の課題を仮想シミュレーションを使って軽減する、MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)手法の可能性を探る企業や組織は、ますます増えています。INCOSEの定義では、MBSEは「概念設計段階から始まり、開発やその後のライフサイクル段階を通じて続く、システムの要件、分析、設計、検証と妥当性確認をサポートするためのモデリングの定型化された適用」とされており、産業機器企業が現在直面している課題の多くを軽減できる見込みがあります。

ミーレはすでにその恩恵を享受しています。「MBSEを使うと製品の複雑さに体系的な手法で対処し、もっと扱いやすくなります」と、Knoke氏は言います。「その結果、開発リード・タイムを短縮し、関連する研究開発費用も削減できます。さらに、さまざまな分野の連携や相互のコミュニケーションも改善します」(Knoke氏)

公共事業向けタービンから航空機エンジンまで、産業機械システムの世界的供給企業である米国のGEもMBSEの恩恵を理解しています。「この手法はいくつかの基本的な理由から極めて重要です」と、GEデジタルの製造業部門責任者であるPaulBoris氏は述べています。「デジタル表現を構築すると、機械が耐えられる条件や応力を含めることができます。例えば、当社には予想と食い違う摩耗パターンを示す複数の航空機エンジンがありました。問題点を把握するためにすべてのエンジンの稼働を停止させる代わりに、これらの特定のデバイスの使用パターンに対応するバーチャル・コピーを使いました。そしてその結果使用パターンが性能低下を引き起こすことを究明しました。埃粒子は地域ごとに組成の違いがあります。そうした埃粒子を洗浄するシステムを開発しました。問題は極めて特定の領域の極めて特定のエンジンに限定され、修正も同じでした。基本的には全く壊れていない部分を修正するコストと無駄を排除しつつ、顧客に優れたアップタイムと性能を提供しました」(Boris氏)

また、米航空宇宙局(NASA)も、増加の一途をたどる宇宙飛行任務の複雑さに対処するためにMBSE手法を採用しています。「MBSEでは、プロジェクト情報を信頼できる唯一のデータベースに保存でき、その情報を大規模なユーザーコミュニティに効率的に伝えることができます」と、米カリフォルニア州にあるジェット推進研究所のシステムエンジニアBrianCooke氏は語ります。Cooke氏はNASAのエウロパ・プロジェクトに取り組んでおり、このプロジェクトは2020年代には木星の衛星エウロパを探査することが予定されています。

広範な使用の促進

しかし、MBSEの採用は現実的には一握りの例だけに限られています。テクノロジーネットワーク「it’sOWL」(Intelligent Technical Systems Ost Westfalen Lippe)の戦略および研究開発の最高責任者であり、ドイツを拠点とするメカトロニクスシステム設計のためのフラウンホーファープロジェクトグループのSE部門の責任者Roman Dumitrescu氏は、いくつかの要因がMBSEの採用を制限していると述べています。「複雑な技術システムをモデリングするためにMBSEや具体的なプロファイルを実装する方法の明確な定義されたプロセスなどMBSEの標準が欠けています」と、Dumitrescu氏は語ります。「その上、MBSEを使えるエンジニアが十分におらず、専門教育プログラムもほとんどありません」(Dumitrescu氏)

Dumitrescu氏は、広範な採用を実現するためには、産業機械メーカーが実際のエンジニアリング課題に基づいて独自のMBSE方法論を定義する必要があると言います。「あまり複雑ではないシステムから始めるべきですが、プロセスや言語プロファイルにも取り組まなければいけません」と、Dumitrescu氏は語ります。「産業機械メーカーはエンジニア全員にMBSEを熟知させ、小規模なMBSE熟練者チームを作成する必要があります」(Dumitrescu氏)

Peterson氏も同意見です。「たとえ小規模でも、適切にスケーリングし、的を絞り、リソースを投入したパイロットプロジェクトがMBSEの価値を明確に実証できます」と、Peterson氏は語ります。「しかし、MBSEは万能薬ではありません。さまざまな分野や領域からのモデルを接続するモデルベースの手法への転換には、持続的な能力や競争上の優位性を求めるなら、投資、決意、統率力、専門知識が必要です」(Peterson氏)

by Lindsay James

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