1. 3DS Blog
  2. トピック
  3. 設計・シミュレーション
  4. 【デザインとシミュレーションを語る】64 : 設計構成要素の複雑性~Model Based Systems Engineering

設計・シミュレーションOctober 20, 2020

【デザインとシミュレーションを語る】64 : 設計構成要素の複雑性~Model Based Systems Engineering

今回は、モデルの複雑性のカテゴリーの4つ目にリストした「設計構成要素の複雑性」についてお話します。
header
Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

ダッソー・システムズの工藤です。これまでは記事の最後に名前を書いておりましたが、どうも記事の最初に名乗った方がいいとのアドバイスもあり、これからは最初に名乗らせていただきます。今回は、モデルの複雑性のカテゴリーの4つ目にリストした「設計構成要素の複雑性」についてお話します。カテゴリーの全体像については、こちらをご覧ください。

設計構成要素の複雑性(本章で解説)

What:大量の要件と実現すべき機能と性能の関係性が複雑なため、それらをすべて記述したうえで変更時の影響範囲や決定すべき優先度を決めなければならない問題

How:Model Based Systems Engineering (MBSE)、Requirement Engineering

“設計構成要素”という日本語の表現は、難し過ぎですね。ここでいう設計構成要素とは、設計仕様とその実現結果である製品のつながりと言い換えてもいいでしょう。いまや巷にある製品で、“複雑”でないものはないと言っていいでしょう。スマートフォンはその最たるもので、あの小さな器の中に一体どれだけの機能が詰まっているのか、驚くほかありません。ハードウエア的な基本機能だけでも、タッチ・ディスプレイ+通信+電話+動画+音+カメラ+GPS+多様なセンサ、さらに膨大なアプリで活用の仕方はいかようにも増えていきます。あのスマートフォンを、「多機能で、高性能で、薄くて軽く、コスト安く、不具合なく、素早く開発する」という難題はどのようにして解決されているのでしょうか。これは、設計情報を正しく管理して活用するにはどうするのかという問題に帰着します。これが正しくなされないと、たとえば下記のような問題が生じるでしょう。

  • 機能部品がどの要求性能を実現しているかを把握していないと、機能設計の変更でおもわぬ性能に影響が出る
  • 想定条件をすべて網羅していない可能性があると、劣化や“想定外”の使われ方で、故障や事故が起きる
  • 要求仕様が増えたときに、既存の機能を利用できることに気づかなければ、無駄に機能を付加することになる

上記の問題は、個々の部品の機能や使い方としては正しく設計され、検証されているとしても、その組み合わせに不具合や欠落があれば、製品全体に影響を及ぼすということを示しています。これこそが、Model Based Systems Engineering (MBSE)が必要とされている課題です。

もう4~5年前になりますが、サムスン製のスマートフォンの発火事故が相次いだことは大きなニュースになりましたし、ネットで検索するとその後も実はメーカーは不明ですが、あちこちで、発火や爆発、死亡事故さえ起きているのです。また、失敗学会には、古今東西の失敗知識データベースがあって、それらの事例を見るといかに設計は難しいか、あるいは人間はミスをしてしまうかが具体的によくわかります。MBSEは、そうした事態を避けるために、複雑な製品の設計情報の関連性を明確に記述することで正しい設計仕様を定義し、設計ミスを防ぐ方法論であると言えます。MBSEのより詳しい概念、機能、製品については調べればすぐにわかるので、ここでは触れませんが、弊社の関連情報をいくつか下記に記しますので、どうぞご参考にされてください。

【発展期にあるMBSE】多層システムの仮想シミュレーションで、 複雑さを軽減できるのでは

CATIAオンラインセミナー | MaaS時代のMBSE

ベテランの設計者であれば、この要求とこの部品のこの機能は影響しているから、注意しないといけないといった経験知識をもっているのだけれども、そのノウハウが継承されていないがために、異なる部品で設計したために思わぬ不具合が生じるといったことは、特段複雑な製品でない場合でも発生しています。ベテラン設計者の頭の中のリンク情報が形式知化されていれば防げたはずなのですが、そうしたノウハウの形式知化は言うは易く行うは難しの典型例でしょう。ですので、MBSEに着手すると、MBSEの方法論や枠組みに当てはめる以前に、現状知識をどのように整理すべきかという課題にぶつかります。人間は必ずしも、MBSE的に情報整理された形で、ノウハウを構築しているわけではないので、そのGAPを埋めるのに最初は時間がかかります。ただ最初のそうした生みの苦しみの状況を超えて、MBSE的表現ができるようになれば、大いなる景色が待ち受けています。

従来製品ではなく、設計自由度が非常に高い、ドローン、電気自動車、自動運転、自律運転機器などは、これまでの設計経験がないぶん、MBSEを適用することで大きな効果を発揮するでしょうし、そうした事例がすでに多く登場しています。MaaSやVirtual City、といった、あらゆる情報を連携していくタイプの新しいサービスやビジネスモデルにもMBSEを適用することでしか解決できない問題が出てくるにちがいありません。MBSEの概念は、狭義のツールレベルから、広義の設計方法論の領域まで幅広いので、どのスコープで、何を目的としてMBSEを活用しているかを明確にして活用することが肝要です。

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら