【第8章 複雑性設計に対応する】 複雑性設計の本質はつなぐことの多様性
設計は複雑である、と文章で書くと、当たり前すぎて何を言いたいんだ?となります。ところが、複雑性設計という名詞表現にすると、複雑性を設計するとはどんな意味なのか、と知りたくならないでしょうか。どんな製品も複雑性にまつわるさまざまな課題に直面してたいへんな苦労を経て設計されています。問題なのは、過去製品と比較して複雑性は積み上がってくるので、次世代の製品になればなるほど、複雑性のレベルがあがり、種類も増えていくわけなのです。科学知見や技術知見が蓄積されていくのと同じ理屈です。
今回から始まった第8章では、“複雑性設計”に対応するための諸技術を眺めていくことにします。そのためにはまず、複雑性にはかならず何等かの“つながり”が媒介になっていることに着目します。つながりがなければ独立して解けばいいわけで困ることはないのですが、つながり性が複雑であるが故に、それらを視覚化したり、解きほぐすための手法が必要になってくるわけです。バーチャル設計を行う上で、さまざまな“つなぎ”を駆使する技術の必要性が表現された面白い例が、航空機設計の分野にありますので、紹介しましょう。2009年から2012年にかけてEUのFP7活動の一環としてAirbusが中心になって実施されたプロジェクトCRESCENDOのHPに掲載されていた文章を紹介します。このCRESCENDOプロジェクトのコンセプトはずばり、Behavioural Digital Aircraft(ふるまいを表現するデジタル航空機)を実現することでした。BDAを実現するために必要な技術が1行の長い英語で、下記のように表現されていたのです。参考のために、私の拙い英語訳も付けました。
英語
It will describe and host the set of simulation models and processes enabling its users to link, federate, couple and interact with different models with seamless interoperatibility, hierarchical, cross-functional and contextual associativity
直訳
シームレスに互換性があり、階層的かつ横断的で、状況的関連性を持たせながら、異なるモデル間で、つなぎ、連動させ、一緒にし、相互作用できるようにするシミュレーション・モデルとプロセスの一式
この英語表現のわかりにくさはさておいて、私が驚いたのは、つなぐという意味の英語の多様さとそれらを駆使して表現しなければならない、複雑性設計のありようでした。無理やりに日本語にしても具体的にイメージするのは難しいのですけれど、このような超難解な表現をしなければならないほどその定義自体が複雑であるにもかかわらず、それでもそれを解決する方法論やしくみや道具立てを、Behavioural Digital Aircraftとして何としても取り込んでしまおうという、ビジョンの明確さと強力な意思を感じたのでした。つながるということを、いかに徹底的に追及しているかお分かりになるでしょう。もはや、執念です、偏執的(パラノイア)ともいえるほどです。2012年なので大分古いように感じるかもしれませんが、おそらくは日本のどの産業もいまだにこのレベルには達していないはずと断言できるほど、内容はいまでも最先端として通用するレベルです。もっと詳しく知りたい方は、まだ様々な公開情報がありますので、例えば下記をご参照ください。
CRESCENDO (Collaborative & Robust Engineering using Simulation Capability Enabling
Collaborative Robust Engine Design Optimization
Simulating from the beginning – CRESCENDO, Adaptive Vehicle Make, Dassault Systèmes Winning Program
【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】