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設計・シミュレーションAugust 28, 2019

【デザインとシミュレーションを語る】57 : SPDM as Virtual Sensor – 属性データ例と活用目的

【第7章 計算品質標準化から知識化へ】SPDM as Virtual Sensor – 属性データ例と活用目的  
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第7章 計算品質標準化から知識化へ】SPDM as Virtual Sensor – 属性データ例と活用目的

第56回では、属性データとパラメータの違いについて明確にし、特に、属性データがAIに活用されうることを述べました。一方、AIは目的にあらず、何のためにAIを活用するかの目的が明確でないと、蓄積すべき属性データがわからないということも指摘しました。第56回で述べた属性データについて、改めて転載します。

設計業務を定義し、統計的に分析する属性データ(タグ)

  • 定義:ジョブ特徴量のマクロな識別子
  • 役割:設計業務を定義し、統計的に分析する
  • 凡例:タグ付けされるテキストや数値データ、特に担当者、日付、製品、仕様緒元、アプリ名、モデル特性、条件、モデル変更情報、結果、判断など。問題
  • データ量:(横軸)属性空間は数10~数100、(縦軸)ジョブ数は数100~数10万回
  • 用途例:

① データの検索やジョブ特性の統計的分析 ② 過去データから、優れた対策案の特長抽出 ③ トラブル未然回避の設計案、最短経路設計

定義と役割はいいとして、問題は用途例に記されたような活用目的は何かということです。①について考えましょう。「データの検索」だけであれば、全文検索でもある程度十分と思われるかもしれませんが、検索という行為の目的をよくよく考えてみると、そう単純でもないのです、例えば下記のように;

  • テキストで絞り込む=>主要/標準的キーワード
  • 範囲を絞る・比較する=>数値データ(条件、設計変数、性能値)
  • 類似パターンを見つける=>データ分析が必要
  • 変更履歴を見る=>履歴のデータセットを比較

ジョブ特性の分析であれば、何をもってジョブ特性とするのか、例えば、アプリの名前、計算目的、モデル規模、バージョン、計算時間、メモリ使用量、ファイル容量などの情報が必要になってくるでしょう。また、業務の内容に紐づけたいのであれば、適用している製品やプロジェクト名、製品タイプ、仕様緒元なども必要になるかもしれません。使い始めると、検索にかけたいキーワードはさらに出てくるにちがいありません。単なる検索であれば、あえて属性化する手間をかけずに、全文検索を活用し、目的が明確な統計的分析を行うのであれば特に数値データについては、しっかり属性化して収集しなければなりません。例えば、NGの結果要因分析、対策方法の分析、どんな解析や条件のときに苦労しているのか、担当者による違いは何か、設計のどの段階でどのような使われ方がされているのか、考え始まればきりがなく、様々な分析をしたくなるでしょう。

②の「過去データから、優れた対策案の特長抽出」の場合は、もう少しややこしくなりますね。まず、対策案の定義が必要になります。対策は何かを変更して検討したということなので、例えば板厚変更、形状変更、材料変更、条件変更、部品追加など様々でしょう。また、何を目的とした対策なのか、軽量化か、応力削減か、変位削減か、振動数の変更か、温度を下げるのか、現象によって何を改善しようとしたのかを、属性化しなくてはなりません。また、どの結果をどういう根拠で判断してOKだったのか、あるいはNGなのかは必須情報です。最後に、優れた対策の定義です。設計変更の回数か、最終的なOK対策案にたどり着くまでの案の少なさか、計算回数の少なさか、これもさまざまな指標が考えられます。

さらに、③の「トラブル未然回避の設計案」になるとかなり高度な判断をAIに要求することになります。どんなデータがあれば、そのような判断をさせることができるのか、①や②での経験をしてわかってくるのではないでしょうか。地雷を踏まないとか、ここ掘れワンワンのようなアドバイザ機能が出てくる可能性もありますね。その究極の姿として、初期案からOK案に至るまでの試行錯誤を最短にしてくれる“最短経路設計”(筆者の提唱用語)も実現してくるかもしれません。

実は、幸いなことに、ダッソー・システムズが提供している、SPDMの基盤である3DEXPERIENCE PLATFORMには、6Wtagと呼ばれる、タグ情報(属性)を自動的に収集する機能が備わっていて、基本的なWho, When, What, Where, Why, Howの情報をデータに紐づけることができるのです。ただ、何の設定もせずに収集できる情報は限られているので、意図的に紐づけたい属性データは、しっかり設定設定しておく必要がありますから、上記のことをわきまえておくことはとっても大切なことです。

「データ量」で示している、「(横軸)属性空間は数10~数100」の意味は、上記で説明したような属性データの種類が、少なくても数10種類で仮にこれを、50種類としましょう。次に、「(縦軸)ジョブ数は数100~数10万回」は、そうしたデータの数が実行されたジョブ数分だけ蓄積されるわけで、仮にこれを、1万回としましょう。そうすると、50 x 10,000の属性データ空間の情報が集まることになります。あとは、これらのデータをどう料理するか、というAI活用可能な次の段階に移れるわけです。

いかがでしょう、ここまでの準備は少なくとも人間が行わないといけないことで、何もせず、AIさんがそこまでやってくれるわけではありません。昨今AI流行りではありますが、意図したデータを正しく集めるという基本的なことと、属性データの活用をしっかりと考えないといけないことをご理解いただけたでしょうか。今後そういった実績が共有され、どんなデータを集めればいいか、どういう活用ノウハウがあるか一般化されるようになれば、データを収集すること自体は難しくないのです。一言でいうと、自動的に蓄積されるデータ群から属性データを抽出して、構造化されたデータセットにするのが、Virtual SensorとしてのSPDMの役割となります。 “SPDM as Virtual Sensor”としての能力を全面的に発揮する時代がもうすぐに来るはずと確信しています。今後大きな波となって着目されるでしょう。

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

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