【第7章 計算品質標準化から知識化へ】 計算品質保証の標準化の要求要件
53回では、計算品質の標準化の要求要件を整理し、実装システムへの対応を明らかにするためには、その特質と役割を表現する3つのV&V実装タイプ【記述・管理】、 【手順・実行】、【履歴・承認】が必要であることを述べました。本稿では、要求要件を実装機能にスムーズにマップできるように、6つの大項目とそれに付随するV&V要求リストとして、再整理を試みます。
[1] データ管理の基本要件
- データ一元化の保証:バックアップ以外のコピーを持たず、最新データは一つしか存在しないことを保証
- 利用者別アクセス制御:個人やグループごとにアクセス不可/読み込みのみ/書込み可/等の権限を制御
- データのトレーサビリティと属性付:データの特徴を表現する属性情報の附随と、他のデータ、プロセス、タスクなどへの紐付
- 無断削除の禁止と保管期限の設定:意図的/過誤を問わず、権限外の削除ができないこと、設定した条件のもとでシステムが削除
[2] 要求検証プロセスの妥当性
- 要求検証手順:解析予測と実験検証の実施
- 手続き妥当性:自動化、承認、チェックリスト(抜け漏れ防止)
- 解析依頼書の保管:解析のモデル、目的や条件が明確に記載されたドキュメント
- 適切な担当者のアサイン:解析レベルに見合った担当者であるかの確認とアサイン
[3] 解析プロセスの妥当性
- 解析手順の標準化:雛形ワークフローを作成・共有し、実行するしくみ
- 解析情報のトレーサビリティ:雛形ワークフローへの、解析モデル・実行ソフト・条件データ・入力データ・結果ファイル・報告書等の紐付け
- 再現性確保:解析情報が、再現可能な形で保管されている
- 作業履歴の保管:最終結果に至るデータ更新の履歴とトレーサビリティ
[4] 解析モデルの妥当性
- 採用モデルの明示:数値モデル・物理モデル・材料モデルがわかる記述と参照情報とのリンク
- 条件データの明示:初期条件、境界条件の記述とその根拠情報とのリンク
- 材料データの根拠明示 :材料試験による裏づけ、解析用データ作成までの実施手順明確化と標準化
- メッシュ作成仕様の明示:メッシュ種類や生成基準の記載と実行
- パラメータの同定:解析結果と合致させるための解析モデルに内在するパラメータ同定の手続きと結果保管
- モデル不適合情報の管理:正しくないモデルの保管と共有、解決までの手続きと履歴
[5] 解析結果の妥当性
- 結果信頼性:エラーステータス、収束性の確認を実施
- 結果検討:過去の類似計算と比較検討し、OK/NGの判断をし、その根拠を記録
- 要求検証:性能要求や制約条件を満足していることの確認
- 結果承認:上長もしくは依頼者による確認/承認手続きの明示と記録
- 最終結果の管理:最終結果であることの明記と共有
- 結果不適合情報の管理 :正しくない結果の保管と共有、解決までの手続きと履歴
[6] 不確定性やばらつきの影響検証
- 製品データのばらつき測定:同一製品の物性、寸法・板厚公差などの精密実測データ
- 実験データのばらつき測定:実験結果のばらつきを考慮した精密な実測データ
- 性能品質検証:物性、公差、実験条件などのばらつきの影響による性能安定性の検証
- 仕様冗長性検証:ライフサイクルの未確定仕様の影響による要求への信頼確率の評価
さて、第53回記事でも述べましたが、上記のことを実現するしくみは、PLMと連携したSimulation Process & Data Management (SPDM)というカテゴリーの製品で実現できます。詳細な説明は、日本計算工学会論文集に投稿した以下の論文に記載してありますので、興味のあるかたはどうぞご参照ください。
「工藤啓治:V&Vプロセス実装システムとしてのSimulation Process & Data Managementのしくみと実装例、計算工学講演会論文集、Vol.21、2016」
【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】