設計・シミュレーションMay 16, 2017

【デザインとシミュレーションを語る】45 : Model Based Design (MBD)手法に隠されている本質とは

【第6章 想定設計を実現する】 Model Based Design (MBD) 手法に隠されている本質とは   ============================================ 2017年3月7日に「第3回 自動車技術のためのCAEフォーラム」にて、「
header
Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第6章 想定設計を実現する】 Model Based Design (MBD) 手法に隠されている本質とは

============================================

2017年3月7日に「第3回 自動車技術のためのCAEフォーラム」にて、「 手戻りゼロに向けたMBD活用による想定設計の実現」 というタイトルで講演いたしました。 本章ではしばらくこの講演内容をまとめるという形で記事を紹介し ていきます。

============================================

添付の図をご覧ください。私が定義する、Model Based Designの実施手順について示しました。

①    モデルの標準化

過去設計の典型モデルを、 パラメータ駆動のための初期モデルとして定義することが出発点と なります。過去設計のDBから類似性のパターンを調べ、 共通しているデータ群をグループ化し、 パターンの変化を可変設計パラメータとして数値化することで、 パラメータ駆動可能な標準モデルを、CADあるいは、1D/3D CAEモデルの形で定義することができるのです。 モデルの標準化は言い換えれば、 過去設計のノウハウを形式知化し、分析し、 未来設計に再利用できる形にした設計情報といえるので、 モデル標準化の試み自体が高度な設計行為であることをあらためて 強調しておきます。

②    手順の標準化

設計性能解析の手順をワークフロー化し、 可変パラメータの組み合わせを自動的に設定し、 計算も自動的に実行可能な形にします。問題を解く手順を、 ワークフローという標準化された形式知に表現したという意味で、 再利用性のある高度な設計情報となっています。 従来は人によって異なる手順が標準化されるということは、 モデルの標準化と対になる形で、 属人的ノウハウから組織として活用可能なノウハウに転換できると いうことでもあるのです。

③    サンプリング計算

設計変数、制約条件、要求性能に想定可能な上下限値を与えて、 実験計画法などを用いたサンプリング計算 を実施します。このデータ群は仮想経験DBと言い換えることもで きます。計算回数は、 設計変数と制約条件や要求数の総数次元を勘案しながら、 数百回から数万回程度のサンプリング数を実施することで、 可能な限りの組み合わせ数の新たな設計案を生成します。

④    想定要求と意思決定

設計方針に沿った要求性能と制約条件を想定して、限界仕様・ バランス性の高い仕様・ 特化仕様といった設計方針を想定しながら、仮想経験DBから設計 案を絞り込む思考と判断をする段階になります。 様々な状況を想定しながらデータ分析をするこの手順こそが、 想定設計の本質であり、 従来の設計プロセスにはなかった考え方なのです。

もう一度上記の手順を十分に解釈し直してほしいのですが、 サンプリングデータには、 モデルの標準化と手順の標準化の成果として、 対象とする製品の過去学習情報と未来想定データが詰まっているの です!このようにサンプリングデータの意味を理解すれば、 どうやって使えば最大の価値が得られるのか、 徹底的に吟味したくなるでしょう。それこそが、 想定設計で実現したいと思っていることなのです。もう一度、 想定設計の定義を記しておきます。

“様々な設計情報の変動可能性を想定しておき、 そのための多様な設計案の組み合わせをシミュレーションで事前検 討しておくことで、実現可能な設計案を常に選択できる状態”

さて、次回は、サンプリング計算結果を使って、 どのように想定要求と意思決定を行うか、 ケーススタディでご紹介します。

【SIMULIA 工藤】

バックナンバー

【デザインとシミュレーションを語る】第一回:イントロダクション 【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類 【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい? 【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術 【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第七回:3D-CADは何のため? 【デザインとシミュレーションを語る】第八回 : CAE を志す人へのメッセージ(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第九回 : CAEを志す人へのメッセージ(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第十回: ソフトウエア・ロボットの誕生 【デザインとシミュレーションを語る】第十一回: 作業を自動化すること、その真の価値とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十二回: “自動化を進めると設計者が考えなくなる?"への回答 【デザインとシミュレーションを語る】第十三回 : パラメトリック性の本質は新しい組み合わせ 【デザインとシミュレーションを語る】第十四回 : Zero Design Cycle Timeの衝撃 【デザインとシミュレーションを語る】第十五回 : 「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者 【デザインとシミュレーションを語る】第十六回 : スーパーコンピュータで行われていた大量の計算とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十七回 : 最適設計支援ソフトウエアの衝撃的な登場 【デザインとシミュレーションを語る】第十八回 : サンプリングって、偵察のことです 【デザインとシミュレーションを語る】第十九回 :  設計空間でシミュレーションを考える 【デザインとシミュレーションを語る】第二十回 : 安易に使うと誤解を招く言葉“最適化 【デザインとシミュレーションを語る】第二十一回 : 世の中すべてはトレードオフ問題 【デザインとシミュレーションを語る】第二十二回 : Optimization、Trade-off、Synthesis 【デザインとシミュレーションを語る】第二十三回 : 最適解は失敗の学習結果 【デザインとシミュレーションを語る】第二十四回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(1)-森を見る利点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十五回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(2)-解空間から設計空間を絞り込む 【デザインとシミュレーションを語る】第二十六回 : 100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十七回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその1 【デザインとシミュレーションを語る】第二十八回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその2 【デザインとシミュレーションを語る】第二十九回 : ”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十回 : 1D-CAEの価値とパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十一回 : Fidelityという概念とModel Based Designの関係 【デザインとシミュレーションを語る】第三十二回 : 品質に求める最高と安定と安心と 【デザインとシミュレーションを語る】第三十三回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十四回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十五回 : シックスシグマの意味 【デザインとシミュレーションを語る】第三十六回 : ロバスト設計の価値と方法論 【デザインとシミュレーションを語る】第三十七回 : タグチメソッドとシックスシグマ手法の使い分け 【デザインとシミュレーションを語る】第三十八回 : Simplicityという製品哲学 【デザインとシミュレーションを語る】第三十九回 : ミケランジェロは機能美を理解していた! 【デザインとシミュレーションを語る】第四十回 : 設計者の感性とは美しい設計=機能美-「風立ちぬ」を観て 【デザインとシミュレーションを語る】第四十一回 : 自然と工芸、科学と工学 【デザインとシミュレーションを語る】第四十二回 : 仕事の美しさと最適設計の美しさ 【デザインとシミュレーションを語る】第四十三回 : なぜ想定設計か、何を想定するのか? 【デザインとシミュレーションを語る】第四十四回 : Model Based Design (MBD)手法に隠されている本質とは

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら