完成したシミュレーションを体験したり、結果を見たりすると、再現性が素晴らしいことに驚きますが、人間の感覚は当てにならないので、その中に、たくさんの仮定や近似が含まれていることは、分かってはいても気付きにくいものです。
例えば、携帯電話やパソコンを落とした時に壊れるかどうかのシミュレーションは、落下衝撃解析と呼ばれていて、高度なシミュレーションの一つです。この中にどんな仮定や近似が含まれているか考えて見ましょう。
1.高速な工学現象の方程式を解くための計算アルゴリズム自体が近似を含みます。時間刻みやパラメータを適切に選ばないと、大きな誤差を生む要因になります。
2.金属やプラスチック、防護材などが、大きく高速に変形する場合の、材料モデルを正しく設定する必要があります。間違うと、想定と違う材料になります。通常、材料は、非線形な複雑挙動をします。
3.衝撃時には、部品と部品が極めて高速に接触するという現象が起こります。角度、接側面、摩擦など正しく表現できないと、全く異なる現象になります。
4.構成する部品の形状が正しく表現されていなければ、変形の方向や接触する場所が変ってしまいます。
5.計算アルゴリズムは、離散化されていますので、形状も離散化表現されなくてはなりません。網のようになるので、メッシュを作ると言いますが、これがある程度細かく表現されていないと、精度の低い、もしくは間違った結果になります。
6.速度や角度などの落下条件によって、現象は全く異なります。実験と比較する再には、バラツキがあることを考慮して、シミュレーションの条件をいろいろ変化させて再現することが大切です。
と、このようにリストするだけでも、正しいシミュレーションを行うには、いかに仮定や近似をしっかりと意識して利用しモデル化を行わないといけないかが分かると思います。こういう話をはじめて聞く方は、難しすぎて、とてもシミュレーションやってられないと思われるかもしれません。答えはYesであり、Noです。正しいモデルで正しく解くことは、とても重要なので、その努力を怠ってはいけないのですが、一旦出来上がった正しいモデルは強力な価値を発揮するので、皆努力を惜しまないのです。
大学や研究機関では、新しい現象の方程式を解く方法を研究し、ベンダーは正しく速く解けるようにプログラムを開発し、利用者はモデル化を間違えないようにノウハウを磨くといったように、シミュレーション技術は、各分野の人たちがおのおのの立場で、協力することで成り立っている緻密に組み合わされた総合技術でもあります。
【SIMULIA 工藤】
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