設計・シミュレーションFebruary 4, 2016

【デザインとシミュレーションを語る】21 : 世の中すべてはトレードオフ問題

最適解探索ソフトを売っていた頃は、世の中すべての問題が、最適化問題に見えました。何かを最小にしたり最大にすれば、いいのだ!と。しばらくすると、最適解というのは実は存在しないのだということに気付きました。いい答えが存在しているのではなくて、たくさんの良さそうな答えから選ぶ方法の方が大事なのですね。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

第3章 設計探索とトレードオフ -世の中すべてはトレードオフ問題

最適解探索ソフトを売っていた頃は、世の中すべての問題が、最適化問題に見えました。何かを最小にしたり最大にすれば、いいのだ!と。しばらくすると、最適解というのは実は存在しないのだということに気付きました。いい答えが存在しているのではなくて、たくさんの良さそうな答えから選ぶ方法の方が大事なのですね。

パソコンの設計がいい例です。軽くて、速くて、メモリー容量大きくて、バッテリーの持ちが良くて、底が熱くならなくて、落としても壊れにくい、しかも安くてカッコいい!等々、要求を挙げだすときりがないですね。メモリー容量を大きくし、CPU性能上げると、バッテリー容量が増え、発熱も増えます。冷却性能をあげるには、ファンを高速に回さないといけなくなり、電力がさらに増え、騒音も大きくなるでしょう。ファンを使わないとすると、熱伝導率のよい金属でヒートシンクを設計することになります。排気口の場所も重要になるでしょう。部品の性能・大きさやいろいろな対策のせいで、今度は重量が増えてしまうことになります。したがって、容量大―性能大―冷却大―騒音小―電力小―重量小―コスト小などの性能指標はお互いに相反するするということになり、これらをパソコンの性能を表わす一組の指標と考えると、すべての指標を極限まで満たすパソコンは作れず、どれかを優先して、どれかを我慢できる程度まで妥協しなくてはいけないということになります。

そういう状態にあることを数学的には、トレードオフ問題と言います。英語だとTrade-offなんてエレガントな表現ですが、日本語では何というでしょうか。直訳すると駆け引き問題とでもいうのでしょうが、何か裏取引しているような後ろめたい感じです。実際は、目的が複数あるので、多目的問題あるいは多目的満足解を求めるという言い方もしますけれど、少し込み入ったそうな重ったるい感じがするので、やっぱりトレードオフ問題がしっくりきますね。設計とは、優先度を持つ性能間のバランスを決め、多くの制約の中でトレードオフ問題を解くことだということができます。

これらの性能は、メカニカル的な形状、寸法、板厚、材料、配置や、電気的あるいは制御的な設計パラメータによってすべて決まるわけなので、なるべく多くの設計パラメータの組み合わせを試すことができれば、バランスのとれた性能設計ができるはずです。これをシミュレーションで実施することで、定量的な検討が非常に楽になるのです。

実は、普段私たちは、食事に行く時など、無意識にこのトレードオフ問題を解いています。いろんなことが瞬時に頭によぎります。たとえば、昼休みに、安くて、おいしくて、近場にあって、混んでいないレストランを探すのは無理とわかっているので、その時の気分や状況に合わせて、どれかを妥協して、別の何かを優先して、足を向けているわけです。高々数秒か、友人と話している数分で結論を出しています。たとえ、予想と違って、行ったら混んでいても、おいしくなくても、値段高くても、それを経験にして学習し、明日はよりよい意思決定をするということを行っているのです。

トレードオフ状態にある無数の答えの中からどれかを選ぶことを、数学的には、多目的意思決定問題というオドロオドロしい名前がついているのですけれど、なんのことはない、日常茶飯事のことですよね。難しそうに見えることも、日常の経験で示せるといういい例です。

【SIMULIA 工藤】

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