第2章 自動化とパラメトリック性 -最適設計支援ソフトウエアの衝撃的な登場
(前回からの続き) スーパーコンピュータメーカーで、最適設計というものに大きな関心と将来性を感じていた私の同僚と私にとって、何か次ぎのブレイクスルーがないことには、先が見えない状態であったところに、“15 : 「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者”で紹介したように、NASAの最適化技術の第一人者であったDr. Hiro Miura氏が、面白いソフトがあるからということで、ソフトウエア会社のエンジニアと一緒に訪れることになりました。
そのデモをはじめて見た時の衝撃的な驚きは、いまでも忘れることはありません。私たちが、こんなしくみがあったらなと思い描いていたまさにそういう姿の機能とデモが突然目の前で紹介されたのですから!どんなシミュレーション・ソフトとでも連結でき、入力データを自動で変更して生成し、ジョブを投入してくれて、結果データから見たい値を自動的に抽出して、その履歴から最適な設計解を探索してくれるというのです。今は当たり前すぎて、なんら新鮮味はありませんが、その当時1996年ぐらいは、そうした技術も製品も全く出回っていなかったのですから、驚くべき機能だったのです。まさに、一つの技術の黒船というべき製品であったと思います。
GEでの”Engineous”プロジェクトから生まれたIsightという画期的な製品は、アメリカでもようやく使われ始めたばかりであり、これから日本の企業に紹介したいという目的の訪問でしたので、私たちにも利用企業の反応を見たいということもあり、スーパーコンピュータ屋なのにも関わらず、自社製品でもないそのIsightを精力的にお客様に紹介して回ったのです。その反応もまた素晴らしいものでした。自分と同様の感動を大概のお客様も感じていることがわかり、待ち望まれている技術だということを確信することができたのです。それら一連の出来事は、本当に運命的な出会いとも言うべきものでしたし、将来性も十分に確信できるものでしたので、この機会を逃すことは考えられず、新しい世界に飛び込むことに決めたのでした。
多少人生訓的な話になりますけれど、強い関心や興味を持って活動していると、人間関係がいろいろな相互作用を興し、相応しいチャンスが訪れるというのは、本当だということを身をもって体験できたと思っているのです。最近の一連の記事は、かなり私の個人的な話になってしまいましたが、日本のIT技術の一角に、最適設計支援ソフトという新しい世界を切り拓いた端緒を一度書き記しておければとの想いにて、ご了解いただければと存じます。
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