デザインの目的は、世界やそこに含まれるすべての物事と私たちを、より密接に結びつけることによって生活を向上させることにあります。パンデミックがもたらした脆弱性に人々が直面する今、人間主導のデザインが、いまだかつてない重要性を持ちます。サステナブルなデザインにおいてテクノロジーとイノベーションを迅速に結びつけるためには、ツール、プロセス、環境が必要です。
いつか世の中に危機がやって来ることは予想されていましたが、パンデミックによって、それがまさに喫緊の課題となりました。私たちは脆弱性に直面し、生命と生活を維持する行動を直ちに取ることを突然迫られました。
私たちは、技術を持っているし、その使い方も知っていると自負していました。しかしパンデミックによって、それがひっくり返ってしまったのです。生存と肉体的・精神的な安心という人それぞれで究極に個別化された人間としての問題が出現しました。このような問題に対処するには、テクノロジー等の人造の物に頼るだけではなく、現実的で自然な観点から人間を把握する必要があります。 これをデザイナーの場合で考えると、人間に共感し人間を中心に据えたアプローチでデザインすることがかつてなく重要であることを意味します。
デザインの目的はいつの時代も、テクノロジーや構築環境に、物理的な面だけでなく感情、心理、象徴という面でも人間味を持たせて、人々の生活を向上させることにあります。デザイナーは、私たちの人間らしさ、矛盾性、複雑性をつぶさに観察するところまで踏み込みます。デザイナーにとって、人間とは変化しつづける観察対象であり、またデザイナー自身を変革させてくれるものでもあるのです。
私が率いるダッソー・システムズのDESIGNStudio(デザインスタジオ)は、Design for Life(デザイン・フォー・ライフ)というイニシアチブのもと、デザインの研究、知見、ベストプラクティスを集約して、新たな形の、よりサステナブルなデザイン手法の創出を図る取り組みを行っています。
私達は、ツールキット、方法論、社会的指針を用いて新たな視点を構築し、その新たな視点をコラボレーティブなバーチャルデザイン用のプラットフォームに適用することで、デザイナーの変革を後押しします。 コラボレーションのための豊かでインクルーシブな場を備えたプラットフォームは、デザインと科学の効果的な対話を生み出し、よりサステナブルな影響をもたらす人間中心のデザインアプローチを強化します。
デザインにはすでに相当の方法論が導入されていますが、デザイナーは、新たなツールを試してその価値を自ら確認することを好みます。彼らはまた、他のデザイナーとともに集団で共同デザイン活動に取り組むこともありますが、そのためにはより多様なワークフローが必要であり、このことがしばしば予想外の新たな成果をもたらします。
現時点で欠けているのは、デザインが社会や環境に与えるインパクトをデザイナーに提示できて、かつ利用しやすい日常使いのツールです。人間と、コラボレーションにフォーカスした、このバーチャルデザイン用のプラットフォーム は、知覚を活用し(人間の知覚特性を基盤とする)、サステナブルなデザインに適した環境へと私たちをいざないます。このプラットフォームでは、感覚が正確かどうかを経験的に証明する科学とエンジニアリングに加えて、感情マッピングやムードボード等を含む、感情を見通すツールを利用できます。
テクノロジーと人間を結びつける際に空白や断絶が見つかった場合は常に、人間の行動 – 人はどう考え、感じ、行動するか – を指針として対処しなければなりません。そうすることで、不正確な情報や曖昧なロジックを、スマートでクリエイティブなデザイン判断のための明確に定義された行動に変える、驚くべき接点が新たに見つかります。
これはサステナブルなデザインの実践者、すなわち人間主導のデザインのコンセプトをまとめ、デザインの是非を、「もし」や「なぜ」など様々な視点から考察する役割を担う人々にとって、新しい分野であり遊び場です。このような問いはとても重要です。なぜならこのような問いはデザインを生み出す基であるというだけでなく、サステナブルなデザインを生み出すためのツールキットや方法論に非常に深く関連するものだからです。
Anne Asensioは、ダッソー・システムズのデザイン・エクスペリエンス担当バイスプレジデントです