1800年代半ば以降、電動機は何世代にもわたり工場内の管理された環境に設置され、動力を生み出してきました。しかし今日、電動機はあらゆる種類のハイブリッド自動車と電気自動車に搭載されています。電動機が自動車とともに様々な場所へ移動するようになったことで、大きな変化が生まれています。
自動車業界誌『ワーズ・オートモーティブ』によると、2018年にメーカー各社が生産するバッテリー駆動電気自動車はわずか18車種にとどまるものの、2025年には85車種に増えると推定されています。電動機(モーター)を自動車に搭載するということは、急激に変化する条件下で稼働しなければならないことを意味します。また、よりコンパクトにしつつパワーと柔軟性は向上させなくてはなりません。
そうしたモーターの未来を英国ブレッチリーにあるIntegral Powertrain社の工場で垣間見ることができます。同社の高性能モーターの1つは、電流レベルが最適な状態から逸脱した場合、1秒間に7万5,000回モーター制御装置に情報を供給し、最適な出力を維持することができます。
Integral Powertrain社のテクニカルディレクター、Luke Barker氏は次のように語ります。「モーターの制御技術は驚くべき進化を遂げています。電気自動車では、制動力の大部分をブレーキではなく、モーターのトルクを逆方向に発生させることによって得られるのはよく知られています。またそれによってバッテリーも充電されます。モーターはトルクを素早く正確に制御できるため、例えば、ギアチェンジをより素早く滑らかに行うことも可能にします。一方向への最大トルクから逆方向への最大トルクに切り替えるのに100分の1秒もかかりません。他の種類のパワートレインではここまでの制御は実現できていません」
洗練されたデザイン
今日の電動機がこれほどまでの進化を遂げられたのは、コンピュータ化された設計システムによるところが大きいでしょう。設計者やエンジニアは、これらのシステムを使用することでデジタルモデルを作成し、実際にモーターを製造するかなり前の段階で、自動車のパワートレインに組み込まれたモーターの動作をシミュレーションすることができます。シミュレーションは、電磁出力、振動、応力といった要素を予測することができ、ソフトウェアはこれらを制御できます。
「当社では、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成しています」
AJAY LUKHA氏 YASA社チーフコマーシャルオフィサー
どの自動車メーカーも走行ダイナミクス、効率性、速度に関するパフォーマンス目標が異なるため、YASA社ではソフトウェアを使用し、車両全体の総合的な効率性について予測を立てています。
Lukha氏は次のように語ります。「当社のシミュレーション技術は、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成できるところまで発展しています。特定の車両から特定のデータを取り出し、システムレベルで効率性をモデル化することにより、最適なモーターの選定を実証することができます」
by William J. Holstein
「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
HELMUT KASTLER氏 KREISEL ELECTRIC社 機械・電気工学部門長
新しい、より強力なモーターが開発された際には、トランスミッションが対応できることを確認することが課題となります。モーターが自動車用途に採用されたばかりの頃、トランスミッションは5,000~6,000rpmに対応していました。現在のモーターは15,000~20,000rpmまで性能が上がっています。トランスミッションに搭載された電気センサーが、中枢神経系のような役割を担う自動車の電子制御ユニット(ECU)に情報を伝達し、それによって摩擦と発熱を抑えるために必要に応じて潤滑油が供給されます。
Kreisel Electric社のリサーチエンジニア、Johannes Pumsleitner氏は次のように語ります。「ソフトウェアによって個々の部品の特性を容易につなぎ、機械的動力、熱出力、電力を組み合わせることによる相乗効果を確認することができるため、システムを構築することができます。パラメータを指定すればシステムのシミュレーションを開始でき、運転行動のシミュレーションも可能です」
走行音対策も重要な課題です。モーターは静寂性が非常に高いものの、トランスミッションは機械部品を多く使用するため、モーターと適切に同期させなければ騒音を発生します。Kastler氏は次のように語ります。「走行音については適切な対応が必要です。何でもシミュレーションできますが、どの属性を最適化しなければならないかを把握する必要があります」
モーターの再発明
設計ツールとシミュレーションツールを活用することで、モーターのトポロジーを刷新し、動力密度と効率性の高い小型モーター実現への道が開けました。
2006年、英オックスフォード大学の研究者らが永久磁石モーター設計に用いられるヨークと呼ばれる大きな成形鉄が不要なモーターの開発に成功しました。重たい構造部材であるヨークは通常、モーターの磁石から電流を伝導する銅線に磁束を運びます。オックスフォード大学の研究者らは、より少量の特殊な鉄鋼材料をヨークの代わりに使用することで、大幅な軽量化と小型化を図りつつ、動力とトルクを増大させられることを発見しました。新しいトポロジーはYASA(Yokeless And Segmented Armature:ヨークを持たないセグメント化アーマチュア)と命名されました。
この画期的な発見により、車両の軽量化と正味熱効率の向上が可能になりました。オックスフォード大学の研究チームが独立して2009年に設立したYASA社のチーフコマーシャルオフィサー、Ajay Lukha氏によると、例えば、YASAモーターを2速ギアと使用した場合、第一世代バッテリー電気自動車(BEV)で一般的なラジアル型モーターと1速ギアのドライブトレインに比べ、バッテリーを10%以上小さくできる場合があるとのことです。
YASAモーターがもたらす恩恵は、電気自動車の設計とコスト面で大きな影響があるとLukha氏はいいます。YASAモーターは同等のモーターに比べ、電気損失を約25%削減するため、効率性が向上します。また、YASAモーターの構造上、動力/トルク密度が3倍以上改善されるため、大幅な小型化と軽量化が可能になります。また、YASA社ではコンピュータ化された設計とシミュレーションにより、特定の車両におけるモーターのパフォーマンスを予測しています。
「すべてはモーターと、モーターを動かすことから始まります。車両の動的パラメータを指定し、動力とトルクを最適化した状態でシミュレーションを行って、機械のパフォーマンスへの影響を予測します」と、Lukha氏は説明します。
「当社では、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成しています」
AJAY LUKHA氏 YASA社チーフコマーシャルオフィサー
どの自動車メーカーも走行ダイナミクス、効率性、速度に関するパフォーマンス目標が異なるため、YASA社ではソフトウェアを使用し、車両全体の総合的な効率性について予測を立てています。
Lukha氏は次のように語ります。「当社のシミュレーション技術は、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成できるところまで発展しています。特定の車両から特定のデータを取り出し、システムレベルで効率性をモデル化することにより、最適なモーターの選定を実証することができます」
by William J. Holstein
「モーターを動かす前に[シミュレーションソフトを使って]その動作を分析する能力は非常に高度になっています」
LUKE BARKER氏 INTEGRAL POWERTRAIN社テクニカルディレクター
Barker氏は次のように語ります。「モーターを動かす前にその動作を分析する能力は非常に高度になっています。従来のモーターから得た相関データによってシミュレーションツールを検証するので、かなり精度の高い予測ができます。モーターのスケーラビリティが高いこともその要因の一部です。実際のモーターが従来よりも5倍大きくても、電磁的にはほとんど変わりません」
Integral Powertrain社では、シミュレーションソフトとデジタルモックアップを使用し、製造性を考慮した設計とサプライヤーの選定を行っています。「ルールベースの設計で知識を蓄積できるため、新しいモーターを開発するたびに毎回学習プロセスを繰り返す必要がないのです」と、Barker氏は説明します。
エレクトリックパワートレイン
オーストリアに本社を置くKreisel Electric社は、サプライヤーからモーターを仕入れてトランスミッション、バッテリー、バッテリーマネジメントシステムと組み合わせ、完全な電気自動車システムを構築しています。同社は世界で初めてハマーH1の電動化にも成功しています。俳優で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏から依頼を受け、2017年に製作された電動ハマーH1は、100kWhのバッテリーを搭載し、360kWの出力と300km近い航続距離を実現しています。
同社はIntegral Powertrain社と同様、高度なモデリングソフトとシミュレーションソフトを使用してモーターの性能を最適化するとともに、エレクトリックパワートレインの各コンポーネントのバランス調整を行っていると、Kreisel Electric社の機械・電気工学部門を率いるHelmut Kastler氏は説明します。
Kastler氏は次のように語ります。「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
HELMUT KASTLER氏 KREISEL ELECTRIC社 機械・電気工学部門長
新しい、より強力なモーターが開発された際には、トランスミッションが対応できることを確認することが課題となります。モーターが自動車用途に採用されたばかりの頃、トランスミッションは5,000~6,000rpmに対応していました。現在のモーターは15,000~20,000rpmまで性能が上がっています。トランスミッションに搭載された電気センサーが、中枢神経系のような役割を担う自動車の電子制御ユニット(ECU)に情報を伝達し、それによって摩擦と発熱を抑えるために必要に応じて潤滑油が供給されます。
Kreisel Electric社のリサーチエンジニア、Johannes Pumsleitner氏は次のように語ります。「ソフトウェアによって個々の部品の特性を容易につなぎ、機械的動力、熱出力、電力を組み合わせることによる相乗効果を確認することができるため、システムを構築することができます。パラメータを指定すればシステムのシミュレーションを開始でき、運転行動のシミュレーションも可能です」
走行音対策も重要な課題です。モーターは静寂性が非常に高いものの、トランスミッションは機械部品を多く使用するため、モーターと適切に同期させなければ騒音を発生します。Kastler氏は次のように語ります。「走行音については適切な対応が必要です。何でもシミュレーションできますが、どの属性を最適化しなければならないかを把握する必要があります」
モーターの再発明
設計ツールとシミュレーションツールを活用することで、モーターのトポロジーを刷新し、動力密度と効率性の高い小型モーター実現への道が開けました。
2006年、英オックスフォード大学の研究者らが永久磁石モーター設計に用いられるヨークと呼ばれる大きな成形鉄が不要なモーターの開発に成功しました。重たい構造部材であるヨークは通常、モーターの磁石から電流を伝導する銅線に磁束を運びます。オックスフォード大学の研究者らは、より少量の特殊な鉄鋼材料をヨークの代わりに使用することで、大幅な軽量化と小型化を図りつつ、動力とトルクを増大させられることを発見しました。新しいトポロジーはYASA(Yokeless And Segmented Armature:ヨークを持たないセグメント化アーマチュア)と命名されました。
この画期的な発見により、車両の軽量化と正味熱効率の向上が可能になりました。オックスフォード大学の研究チームが独立して2009年に設立したYASA社のチーフコマーシャルオフィサー、Ajay Lukha氏によると、例えば、YASAモーターを2速ギアと使用した場合、第一世代バッテリー電気自動車(BEV)で一般的なラジアル型モーターと1速ギアのドライブトレインに比べ、バッテリーを10%以上小さくできる場合があるとのことです。
YASAモーターがもたらす恩恵は、電気自動車の設計とコスト面で大きな影響があるとLukha氏はいいます。YASAモーターは同等のモーターに比べ、電気損失を約25%削減するため、効率性が向上します。また、YASAモーターの構造上、動力/トルク密度が3倍以上改善されるため、大幅な小型化と軽量化が可能になります。また、YASA社ではコンピュータ化された設計とシミュレーションにより、特定の車両におけるモーターのパフォーマンスを予測しています。
「すべてはモーターと、モーターを動かすことから始まります。車両の動的パラメータを指定し、動力とトルクを最適化した状態でシミュレーションを行って、機械のパフォーマンスへの影響を予測します」と、Lukha氏は説明します。
「当社では、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成しています」
AJAY LUKHA氏 YASA社チーフコマーシャルオフィサー
どの自動車メーカーも走行ダイナミクス、効率性、速度に関するパフォーマンス目標が異なるため、YASA社ではソフトウェアを使用し、車両全体の総合的な効率性について予測を立てています。
Lukha氏は次のように語ります。「当社のシミュレーション技術は、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成できるところまで発展しています。特定の車両から特定のデータを取り出し、システムレベルで効率性をモデル化することにより、最適なモーターの選定を実証することができます」
by William J. Holstein
「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
HELMUT KASTLER氏 KREISEL ELECTRIC社 機械・電気工学部門長
新しい、より強力なモーターが開発された際には、トランスミッションが対応できることを確認することが課題となります。モーターが自動車用途に採用されたばかりの頃、トランスミッションは5,000~6,000rpmに対応していました。現在のモーターは15,000~20,000rpmまで性能が上がっています。トランスミッションに搭載された電気センサーが、中枢神経系のような役割を担う自動車の電子制御ユニット(ECU)に情報を伝達し、それによって摩擦と発熱を抑えるために必要に応じて潤滑油が供給されます。
Kreisel Electric社のリサーチエンジニア、Johannes Pumsleitner氏は次のように語ります。「ソフトウェアによって個々の部品の特性を容易につなぎ、機械的動力、熱出力、電力を組み合わせることによる相乗効果を確認することができるため、システムを構築することができます。パラメータを指定すればシステムのシミュレーションを開始でき、運転行動のシミュレーションも可能です」
走行音対策も重要な課題です。モーターは静寂性が非常に高いものの、トランスミッションは機械部品を多く使用するため、モーターと適切に同期させなければ騒音を発生します。Kastler氏は次のように語ります。「走行音については適切な対応が必要です。何でもシミュレーションできますが、どの属性を最適化しなければならないかを把握する必要があります」
モーターの再発明
設計ツールとシミュレーションツールを活用することで、モーターのトポロジーを刷新し、動力密度と効率性の高い小型モーター実現への道が開けました。
2006年、英オックスフォード大学の研究者らが永久磁石モーター設計に用いられるヨークと呼ばれる大きな成形鉄が不要なモーターの開発に成功しました。重たい構造部材であるヨークは通常、モーターの磁石から電流を伝導する銅線に磁束を運びます。オックスフォード大学の研究者らは、より少量の特殊な鉄鋼材料をヨークの代わりに使用することで、大幅な軽量化と小型化を図りつつ、動力とトルクを増大させられることを発見しました。新しいトポロジーはYASA(Yokeless And Segmented Armature:ヨークを持たないセグメント化アーマチュア)と命名されました。
この画期的な発見により、車両の軽量化と正味熱効率の向上が可能になりました。オックスフォード大学の研究チームが独立して2009年に設立したYASA社のチーフコマーシャルオフィサー、Ajay Lukha氏によると、例えば、YASAモーターを2速ギアと使用した場合、第一世代バッテリー電気自動車(BEV)で一般的なラジアル型モーターと1速ギアのドライブトレインに比べ、バッテリーを10%以上小さくできる場合があるとのことです。
YASAモーターがもたらす恩恵は、電気自動車の設計とコスト面で大きな影響があるとLukha氏はいいます。YASAモーターは同等のモーターに比べ、電気損失を約25%削減するため、効率性が向上します。また、YASAモーターの構造上、動力/トルク密度が3倍以上改善されるため、大幅な小型化と軽量化が可能になります。また、YASA社ではコンピュータ化された設計とシミュレーションにより、特定の車両におけるモーターのパフォーマンスを予測しています。
「すべてはモーターと、モーターを動かすことから始まります。車両の動的パラメータを指定し、動力とトルクを最適化した状態でシミュレーションを行って、機械のパフォーマンスへの影響を予測します」と、Lukha氏は説明します。
「当社では、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成しています」
AJAY LUKHA氏 YASA社チーフコマーシャルオフィサー
どの自動車メーカーも走行ダイナミクス、効率性、速度に関するパフォーマンス目標が異なるため、YASA社ではソフトウェアを使用し、車両全体の総合的な効率性について予測を立てています。
Lukha氏は次のように語ります。「当社のシミュレーション技術は、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成できるところまで発展しています。特定の車両から特定のデータを取り出し、システムレベルで効率性をモデル化することにより、最適なモーターの選定を実証することができます」
by William J. Holstein
「モーターを動かす前に[シミュレーションソフトを使って]その動作を分析する能力は非常に高度になっています」
LUKE BARKER氏 INTEGRAL POWERTRAIN社テクニカルディレクター
Barker氏は次のように語ります。「モーターを動かす前にその動作を分析する能力は非常に高度になっています。従来のモーターから得た相関データによってシミュレーションツールを検証するので、かなり精度の高い予測ができます。モーターのスケーラビリティが高いこともその要因の一部です。実際のモーターが従来よりも5倍大きくても、電磁的にはほとんど変わりません」
Integral Powertrain社では、シミュレーションソフトとデジタルモックアップを使用し、製造性を考慮した設計とサプライヤーの選定を行っています。「ルールベースの設計で知識を蓄積できるため、新しいモーターを開発するたびに毎回学習プロセスを繰り返す必要がないのです」と、Barker氏は説明します。
エレクトリックパワートレイン
オーストリアに本社を置くKreisel Electric社は、サプライヤーからモーターを仕入れてトランスミッション、バッテリー、バッテリーマネジメントシステムと組み合わせ、完全な電気自動車システムを構築しています。同社は世界で初めてハマーH1の電動化にも成功しています。俳優で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー氏から依頼を受け、2017年に製作された電動ハマーH1は、100kWhのバッテリーを搭載し、360kWの出力と300km近い航続距離を実現しています。
同社はIntegral Powertrain社と同様、高度なモデリングソフトとシミュレーションソフトを使用してモーターの性能を最適化するとともに、エレクトリックパワートレインの各コンポーネントのバランス調整を行っていると、Kreisel Electric社の機械・電気工学部門を率いるHelmut Kastler氏は説明します。
Kastler氏は次のように語ります。「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
「モーターからの熱伝達などのパラメータを組み込むことも、温度制限を設定することもできます。基本的には何でもシミュレーションできます」
HELMUT KASTLER氏 KREISEL ELECTRIC社 機械・電気工学部門長
新しい、より強力なモーターが開発された際には、トランスミッションが対応できることを確認することが課題となります。モーターが自動車用途に採用されたばかりの頃、トランスミッションは5,000~6,000rpmに対応していました。現在のモーターは15,000~20,000rpmまで性能が上がっています。トランスミッションに搭載された電気センサーが、中枢神経系のような役割を担う自動車の電子制御ユニット(ECU)に情報を伝達し、それによって摩擦と発熱を抑えるために必要に応じて潤滑油が供給されます。
Kreisel Electric社のリサーチエンジニア、Johannes Pumsleitner氏は次のように語ります。「ソフトウェアによって個々の部品の特性を容易につなぎ、機械的動力、熱出力、電力を組み合わせることによる相乗効果を確認することができるため、システムを構築することができます。パラメータを指定すればシステムのシミュレーションを開始でき、運転行動のシミュレーションも可能です」
走行音対策も重要な課題です。モーターは静寂性が非常に高いものの、トランスミッションは機械部品を多く使用するため、モーターと適切に同期させなければ騒音を発生します。Kastler氏は次のように語ります。「走行音については適切な対応が必要です。何でもシミュレーションできますが、どの属性を最適化しなければならないかを把握する必要があります」
モーターの再発明
設計ツールとシミュレーションツールを活用することで、モーターのトポロジーを刷新し、動力密度と効率性の高い小型モーター実現への道が開けました。
2006年、英オックスフォード大学の研究者らが永久磁石モーター設計に用いられるヨークと呼ばれる大きな成形鉄が不要なモーターの開発に成功しました。重たい構造部材であるヨークは通常、モーターの磁石から電流を伝導する銅線に磁束を運びます。オックスフォード大学の研究者らは、より少量の特殊な鉄鋼材料をヨークの代わりに使用することで、大幅な軽量化と小型化を図りつつ、動力とトルクを増大させられることを発見しました。新しいトポロジーはYASA(Yokeless And Segmented Armature:ヨークを持たないセグメント化アーマチュア)と命名されました。
この画期的な発見により、車両の軽量化と正味熱効率の向上が可能になりました。オックスフォード大学の研究チームが独立して2009年に設立したYASA社のチーフコマーシャルオフィサー、Ajay Lukha氏によると、例えば、YASAモーターを2速ギアと使用した場合、第一世代バッテリー電気自動車(BEV)で一般的なラジアル型モーターと1速ギアのドライブトレインに比べ、バッテリーを10%以上小さくできる場合があるとのことです。
YASAモーターがもたらす恩恵は、電気自動車の設計とコスト面で大きな影響があるとLukha氏はいいます。YASAモーターは同等のモーターに比べ、電気損失を約25%削減するため、効率性が向上します。また、YASAモーターの構造上、動力/トルク密度が3倍以上改善されるため、大幅な小型化と軽量化が可能になります。また、YASA社ではコンピュータ化された設計とシミュレーションにより、特定の車両におけるモーターのパフォーマンスを予測しています。
「すべてはモーターと、モーターを動かすことから始まります。車両の動的パラメータを指定し、動力とトルクを最適化した状態でシミュレーションを行って、機械のパフォーマンスへの影響を予測します」と、Lukha氏は説明します。
「当社では、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成しています」
AJAY LUKHA氏 YASA社チーフコマーシャルオフィサー
どの自動車メーカーも走行ダイナミクス、効率性、速度に関するパフォーマンス目標が異なるため、YASA社ではソフトウェアを使用し、車両全体の総合的な効率性について予測を立てています。
Lukha氏は次のように語ります。「当社のシミュレーション技術は、YASAモーターと他の種類のモーターを車両システムレベルで比較可能なモデルを作成できるところまで発展しています。特定の車両から特定のデータを取り出し、システムレベルで効率性をモデル化することにより、最適なモーターの選定を実証することができます」
by William J. Holstein