自動運転技術は輸送効率や安全性の向上に寄与しますが、一方でドライバー自身から運転操作を取り上げてしまうというトレードオフもあります。車を単なる移動手段を超えたものへ、という理由から、Rob Parsons氏とAndy Blood氏は身障者がハンドルを握ってコントロールできるよう取り組んできました。下半身不随の人々にとって、運転とはどこかに行くということだけでなく、自力で行けるということなのです。
2016年12月、Rob Parsons氏はカリフォルニアからイギリスのバースに出張しました。19歳のBen Conolly氏のドリフトレースカーに、ハンドコントロールシステムを自ら取り付けるためです。ドリフト用のハンドコントロールシステムは、はイギリスでは前例のない仕組みでしたが、Parsons氏が取り組んだ理由は他にあります。Conolly氏は癌によって車椅子生活になりましたが、レースのおかげで大きな夢を見る気力を取り戻していました。
Parsons氏はConolly氏の苦闘をこう語りました。「病は彼をむしばみ、苦しめていました。彼は自分を責めがちでしたが、レースカーに乗ると元気になります」
30歳のParsons氏にはその気持ちがよく分かります。自分自身もアドレナリン全開のレースに夢中なのですから。2011年にモトクロスレースのクラッシュ事故で脊髄を損傷したParsons氏は、リハビリ中に軌道をリセット。車を高速で横滑りさせながら正確にコントロールするドリフトレースに活躍の場を移すことにしました。
ドリフトレース用のハンドコントロールシステムを設計する人など、それまで誰もいませんでした。そこでParsons氏は、まだ事故で入院しているうちから3次元CADソフトウェアのSOLIDWORKSを使って3D設計を独学で学び、自分がドリフトレースに利用できるほど高精度な独自のハンドコントロールシステムを開発。その後、車椅子生活を送りながら1991年式の日産S13(日産シルビアS13型)をドリフトカーに改造しました。
Parsons氏は、再び運転できるようになるだけでは満足しませんでした。下半身不随になった他の人々が、モータースポーツの力を借りて車椅子生活の制約を打破できるよう、Chairslayer Foundationという財団を設立したのです。
共有体験から生まれた絆
Parsons氏が脊髄を損傷したのと同じ頃、架線作業員のAndy Blood氏は木製の電柱が倒れて12メートルの高さから落下し、車椅子生活になっていました。Blood氏もParsons氏のように新たな未来に目を向け、こじんまりとまとまるのはやめよう、と決意します。彼は苦労して勝ち取った保険金を元手にBlood Brothers Foundation を立ち上げ、身障者用に車両を改良する資金を集めることにしました。
Parsons氏がコロラド州のグランドジャンクションに機械工場Runnit CNCを開業した当初は、Blood氏(37歳)との面識はありませんでしたが、ほどなくして二人はオンラインで知り合い、手を組みました。二人が共同経営する工場は、多大な時間とリソースを投じて、車椅子利用者に合わせた改造車両の設計と製造に取り組んでいます。
「ドライブが好きな人はいつでも自分で車を運転したいと思っています」とBlood氏は言います。
ノーザン・コロラド・リハビリテーション病院(米国)の元医長でBlood氏の主治医であり、No Barriers USAの理事でもあるIndira Lanig博士は次のように語っています。
「脊髄を損傷した人は、移動がとても不便ですね。送迎サービスはありますが、こうしたサービスは自発性、つまり大人なら誰もが望む自立した暮らしに対応するものではありません。移動面で制約があれば、生産性や生活の質の低下といった間接的な損失はもとより、自宅に引きこもり、自分の殻に閉じこもってしまうという精神的な問題も生じます」
自分でコントロール
自他のこうした制約を受け入れたくないと考えたParsons氏とBlood氏は、もっと手ごろな適応技術を開発しようと決心しました。
「自分たちだからできることをやる、というのがいいですね」とBlood氏は言います。「今はオフロード用のハンドコントロールシステムを開発中で、いずれはオフロードに特化したドライビングスクールを始める予定です。ハンドコントロールシステムが3~4バージョンできたので、どんな人がどれを一番気に入るかを確認しています。自分に合ったものを作らなければなりません」
「ドライブが好きな人はいつでも自分で車を運転したいと思っています」Andy Blood氏
Blood Brothers Foundation創業者 RUNNIT CNC経営者
ドライバー一人一人の能力に応じた設計に興味を持っているのはBlood氏とParsons氏だけではありません。昨年、ネバダ州は他の州に先駆けて、一人の障がい者――ベライゾン・インディカー・シリーズに参加するチームのオーナーで、2000年に起きたレース中の事故で首から下が麻痺しているSam Schmidt氏――に、制限付きの運転免許証を発行しました。Schmidt氏の愛車である2014年式のコルベットZ7スティングレイは、特別な改造によって「Arrow SAM Car」となりました。声の命令でギアチェンジし、頭の動きに応じてハンドルが回り、呼吸管を通じてアクセルやブレーキの操作が行われるのです。
Arrow Electronics社の主任技術者としてSamの車を手掛けたWill Pickard氏はこう話しています。「最近の話題は自律走行車や自動運転車ですが、技術的観点から見ても哲学的観点から見ても、自動運転車では人間のドライバーを蚊帳の外に追いやります。そこで、私達がやろうとしているのは、どれもドライバーを運転席に戻すための試みです。
「Samはクラッシュ事故に遭ってもSamのままでした。彼は依然としてレーシングカードライバーですし、優勝した実績もありました。乗る車がなかっただけです。でも今は、乗り手の能力に応じたシステムがデザインできるようになりました。まるでアスリートのようです」
著者:Dan Headrick
Discover how the Chairslayer Foundation uses SOLIDWORKS to create modified race cars:
http://3ds.one/Chairslayer
Top image: Rob Parsons, left, and Andy Blood operate Runnit CNC, a machine shop in Grand Junction, Colorado, that devotes much of its time and resources to designing and fabricating adaptive vehicle modifications for wheelchair users. (Image © Rob Parsons)