フランス海事クラスター(French Maritime Cluster: 略CMF)は約440に及ぶ組織で構成され、業界全体の変化を後押しし、環境やビジネスのサステナビリティを実現します。業界のさまざまな関係者間、および業界・政府関係者との連携を確保しながら仕事を進めることの重要性について、またデジタル化が業界の変化にどのように寄与するかについて、COMPASSマガジンは、CMF会長のフレデリック・モンカニー・ド・サンテニャン(Frédéric Moncany de Saint-Aignan)氏に話を伺いました。
COMPASSマガジン: CMFはフランス経済の驚くほど大きな部分を占めています。CMFがカバーする領域や仕事、目標について教えてください。
フレデリック・モンカニー・ド・サンテニャン氏:CMFは、船主や船舶運航業者、造船所から漁業やエネルギー(石油・ガスを含む)、レジャー、ファイナンス、訓練所に至るまで、フランスの海事産業全体を一つにまとめた海事クラスターです。フランスにはフランス領ポリネシアを中心とする広大な海域があるため、排他的経済水域は米国に次ぐ世界第二の規模です。海事産業は年間の売上高が以上に上り(旅行業を除く)、35万人規模の直接雇用を生み出しています。これはフランスの航空宇宙産業や通信業界の規模を上回ります。
CMFはまた、20以上の主要な業界関係者が参加する海事環境・エネルギー移行連合(Coalition for Maritime Environmental and Energy Transition)も立ち上げました。この連合は、海に関する環境・エネルギー面での移行に向けたビジョン2050の規定や、国際海事機関(IMO)の温室効果ガス削減目標を満たすための鍵となるアクションの策定を目的としています。
我々は業界関係者を一つにまとめるだけでなく、CMFの活動を企業や政治家に知ってもらい、ブルーエコノミーの進展を後押しします。ブルーエコノミーは海洋経済とも呼ばれており、世界銀行はこれを「海の生態系の健全性を維持しながら、より良い暮らしや仕事、経済成長の実現に向けて海洋資源を持続可能な方法で利用すること」と定義しています。
ブルーエコノミーでは開発やサステナビリティ、環境、経済をどのように融合するのか教えてください。
経済協力開発機構(OECD)では、世界のブルーエコノミーの規模は向こう10年間で2兆5,000億ユーロに倍増すると予測しています。従来の海事産業の成長に加え、エネルギー、水産養殖、旅行業、海底の鉱床や鉱物資源、さらに生物や藻類に由来する、新しい食材や医学の進歩を実現する生物多様性などの、新たな分野や現在成長中の分野によって、目覚ましい成長がもたらされるでしょう。つまり、新たな発見が多く期待できる領域なのです。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、海事産業は経済成長を支える大きな柱となり、21世紀は「海の世紀」になると述べています。
テクノロジーはイノベーションの育成やコラボレーションの促進、運用面でのシナジー効果をどのように後押しするのでしょうか。
あらゆる局面で利用できるプラットフォーム上で適切な情報をデジタルな手法で迅速かつ正確に利用・配信し、連携しながら共有することができれば、自動車メーカーや航空機メーカーと協力して新しいタイプの燃料や船の動力、クレーン、輸送手段を迅速かつ効率的に探し出すことができます。我々は海の微生物から代替血液や医療用包帯を開発しています。また、興味をかき立てられるような新しい食材を考案してテストや試食も行っています。他にも、サステナブルなやり方で成長を促進し、環境に対するマイナスの影響を抑えるさまざまな活動が行われています。
海事産業において緊急の対応を要する課題にはどのようなものがありますか。
プラスチックごみや温室効果ガス、種の絶滅、気候変動などに取り組む必要がありますが、他にもたくさんあります。連携しながら仕事を進めることで、我々の業界は環境面やビジネスのサステナビリティをより高める方向を目指して順調に前進しており、多くの果敢な取り組みが進行中です。たとえば企業連合の「Getting to Zero Coalition」では、2030年までに外航航路でゼロエミッション燃料による船舶運航を商業ベースで実現するという海運業界の壮大な構想に全力で取り組んでいます。また「ポセイドン原則(Poseidon Principles)」では、銀行の融資判断に気候への配慮を組み込むためのフレームワークを提供しています。このような融資判断は世界の海運事業の脱炭素化を推進します。これまでのところ、船舶ファイナンスの取扱高の合計が1,280億ユーロを占める18の大手銀行がこの取り組みに注力しています。
我々はより多くのことを実現できます。そして団結すればより聡明になります。ですから我々CMFはNGO(非政府組織)や企業、金融会社、政府と緊密に連携しながら作業を進め、グローバルなサステナビリティ・ソリューションを明らかにし、そうしたソリューションに迅速に移行します。
最大の課題は何ですか?
海が関係するソリューションは常にコストがかかり、多くの場合は時間や資金の面で長期的な投資が必要です。さまざまな情報源やプロジェクトから得られた知見を管理・提供するエンタープライズ版のデジタル・プラットフォームを利用すれば、関係者は状況を大局的に捉え、より多くの情報を把握した上で賢明な判断をすることができます。
イノベーションはどの程度重要なのですか?
我々の信条は、イノベーションこそが未来だということです。一体となって仕事に取り組む人々や組織によって生み出されるイノベーションに後押しされて、海をベースにした「ブルー・テクノロジー」が経済を一変させています。さまざまな業界が協力してデジタルによる相互作用を実現することが非常に重要な要素になります。なぜなら、それによりイノベーションを効率的に加速させつつ、画期的な運営上の相乗効果やパラダイムシフト、新たなビジネスモデルを導入できるからです。
そうした相乗効果が良い成果をもたらしている実例を挙げていただけますか。
たとえば、船のバーチャルツインは、船のライフサイクル全体の精密な再現であり、細部まで正確なものです。港や、陸上で行う作業、そしてより広範な環境ともバーチャルに連携させることができます。バーチャルツインによる正確なモデリングやシミュレーションを活用すれば、超低燃費の船や自動操舵、あるいは環境面で最適化された「業界の枠を超えたオペレーション」が可能になります。このようなやり方でアイデアやデータを共有すれば、高度に最適化された最良のソリューションへと前進することができます。
海事産業の未来はどのようなものになるのでしょうか。
輝かしい未来です。19世紀の中ごろに動力が風力から蒸気に変わって以来、業界はいま最もエキサイティングな時を迎えています。現在ではテクノロジーがはるかに進歩しているため、、新しいアイデアをより簡単に実現できるようになりました。業界はかつてないスピードで前進しており、このペースは間違いなく続きます。そうした才知をフランス海事クラスター(CMF)に取り入れることにより、真にサステナブルな未来のために、業界や社会、我々の海に必要な変革を、人や企業は促進できるのです。
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