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船舶・海洋June 11, 2014

北極海航路を検討する船舶会社【COMPASSマガジン】

北極の氷冠が縮小する中、海運業者は距離の短い北極海航路の経済的な見返りと、技術、物流、法律、政治等のリスクを慎重に検討しています。
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北極の氷冠の縮小に伴い、船主は燃料費、排ガス、輸送時間を削減する手段として北極海航路に注目しています。しかし、北極海の通航量は増えているとはいえ、北極海航路の将来性が世界の海上輸送パターンに大きな影響を及ぼすまでには大きな障害が残されています。


北極の氷冠が縮小する中、航行可能な北極海の航路がかつてないほど増加し、海運業者は、距離の短い北極海航路(NSR)経由で海上輸送を行う場合の経済的な見返りと、技術、物流、法律、政治の各側面におけるリスクを慎重に比較検討しています。

ノルウェーのオスロに本拠を置き、海運、オフショア、物流サービスを専門とするTschudi Groupの4代目オーナーであるFelix H.Tschudi会長は次のように述べています。「これは取り巻く要因が非常に激しく変化する問題ですが、重要なのは時間の節約です。時間の節約は、燃料と用船料の節約につながります」

リスクと見返り

北極海航路を使用すれば、時間、燃料、排出ガスの大幅削減につながりますが、リスクも増加します。

フィンランド、ヘルシンキを本拠とし、船舶の耐氷性能試験を行う世界唯一の民間施設を運営するAker Arctic社の前CEOで、現在は同社の顧問を務めるMikko Niini氏は、次のように述べています。「氷自体が今だにリスクの一つであり、船体と機械類にとって技術的リスクです。誰もが北極の氷が消えることについて話していますが、航行のための開けた海域はすでに不足しています。」

「誰もが北極の氷が消えることについて話していますが、航行のための開けた海域はすでに不足しています」MIKKO NIINI
ADVISER, AKER ARCTIC

運営するAker Arctic社の前CEOで、現在は同社の顧問を務めるMikko Niini氏は、次のように述べています。「氷自体が今だにリスクの一つであり、船体と機械類にとって技術的リスクです。誰もが北極の氷が消えることについて話していますが、航行のための開けた海域はすでに不足しています」

氷に加えて、北極海航路を利用する船会社はこの地域のインフラ欠如に対する計画を立てなければなりません。衛星がカバーする範囲が十分でないため通信事情が悪く結果、気象データが限られる原因となっています。この地域には詳細な海図が存在しないうえ、頻繁に発生する濃霧が航行を難しくしています。極地の日が長い時期には乗組員の睡眠が乱れ、人為的なミスによるリスクが高まります。

さらに、耐氷性を強化した船のコストは、北極海航路以外に向けて建造された同等サイズの船の50%以上に跳ね上がることもあります。Niini氏は「海氷面積は、極端に減少してきましたが、これは単に周期的な現象かもしれず、また拡大する可能性もあります」と語ります。北極海用に設計された船舶は、通常よりも重く、他の航路には不向きな船になるため、もう一度氷結が進めば無用の長物と化す可能性もあります。

Tschudi氏は「結局のところ、輸送する1トン当たりのコストという現実的問題に行き着きます」と指摘しています。液化天然ガス(LNG)のように、運賃が高く、市場の価値が高い貨物の場合、耐氷性強化船の追加コストも正当化されるとTschudi氏は述べています。運賃が低いバラ積み貨物船の場合、あえて北極海航路を使う経済的な魅力は低いです。

協力と注意

船会社にとって、北極海のリスクを軽減するうえで実績のある方法の一つは、砕氷船等のエスコート船を管理するロシア国 営 のAtomflot社と提携することです。

Tschudi氏はAtomflot社を、なくてはならないリソースだと考え次 のように 語ります。「Atomflot社は船舶を曳航することができ、病院の用意もあります。機械的な故障が発生した場合は、助けを呼べるAtomflot船が近くにいます。円滑なコミュニケーションのために、ロシア語を話す氷海水先案内人を乗船させておくのも良い考えです」

Niini氏も同じ意見で、「恐れを知らなければロシアの管轄外の海域を行くことも可能かもしれません。しかし一般に、北極海航路を利用する船はすべてロシア領の航路を通過することになります」

国、企業、科学に関わる利害関係がぶつかり合うため、北極海では協力関係が非常に重要になります。Fulbright Distinguished Scholarで、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)でBren School of Environmental Science and Management(ブレン環境科学・マネジメント研 究 科)の 研 究 教 授 を 努 めるPaul Arthur Berkman博士は、北極海での課題は一つの組織が管理するには多すぎると主張しています。

Berkman博士は次のように述べています。「船舶の安全な運行に関する解決策には、官民の協力が必要になります。政府自身が単独で実施できるレベルを超えているからです。国際海事機関(IMO)の極海コード、船員のトレーニングと資格証明、保険業界、北極海で効果的に運用できる船隊を持つ企業、船級協会、国の対応など、数多くの要素が解決策に含まれることになるでしょう」

Berkman博 士 のUCSBの 同 僚 で あ るOran Young氏は、著名な極地専門家で、国際管理と環境上の制度に関するリーダーの一人です。「個人的には、将来を語る段階は過ぎていると感じます。今や具体的で、実際の収益に類する事柄について検討を始め、現実に実施する段階に移ろうとしています。」とYoung氏と付け加えます。

Berkman博士は、次の10年間に世界の船舶通航量が3倍になるという予測もあると述べています。「比率的に、北極海の通航量はどのくらい増えるでしょうか」とBerkman氏は問いかけます。「それがわかれば、将来の姿をモデル化し始めることができます。その後は、そのモデルを増加した通航量を支えるのに必要なインフラに落とし込んでいきます。この道のりはまだ端緒に就いたばかりで、北極海で運行されるあらゆる商船を支えことになるインフラが、21世紀を通してどのような姿になるかを思い描くには、多くの課題に答えてゆく必要があります」

Image © DNV GL

極海コードの策定

北極海での商業活動が増え続ける一方、国連の機関であり、航海の安全性、沿岸諸国の安全保障、海洋汚染防止に責任を負う国際海事機関(IMO)は、北極海の現状とその将来を注視しています。IMOは、北極海を航行する船舶の設計、建造、設備、運用、船員トレーニング、捜索救助、環境課題を対象とする極海コードの策定を進めています。本稿執筆時点までに、IMOは安全性と汚染防止に関する協定のコード草案のほか、船員トレーニングと人員配置、防火設備、安全設備、救命設備に関する条項のコード草案について合意に達しています。

北極海用船舶のコスト

商用船舶は多額の保守費用を必要とし、25年以上の運用が期待されます。北極海の厳しい自然に耐えるように建造される船舶には、さらならるコストがかかります。

最も重要な北極海航路用の船舶建造プロジェクトの一つは、2016年初頭の就航を目指してDSME(大宇造船海洋)によって進められている、全長300m、積載容量17万㎥の砕氷型LNGタンカー16隻の建造です。

この船の最終的なコストは機密ですが、専門家による見積もりでは1隻当たり約3億米ドルで、同様の大きさの標準的なLNGタンカーをおよそ50%上回っています。より多くの鋼材と電力が必要なのに加え、甲板上の設備の保護、バラストタンクの保温、機器の予熱、ハウジング内の断熱を含め、船舶の複数の重要なシステムを寒冷地仕様にしなければなりません。

Watch the change in Arctic routes : http://www.youtube.com/watch?v=ue59wRpLDRA


著者:Gregory R.Trauthwein氏 は「Maritime Reporter& Engineering News」の編集者兼共同発行人で、20年以上にわたって世界の海運市場に関する報道を行っています。

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