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船舶・海洋June 11, 2014

エコシップ: 下がる運用コストで上がる建造コストを相殺?【COMPASSマガジン】

新たな規制は船舶の効率向上とCO2排出量削減を目指すものですが、運用コストの低減により、設計と建造コストの増加分が相殺されるか否かは専門家の間でも意見が分かれています。
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SEEMP、ECA、EEDI、そしてBWTS。商船の船主や運航業者にとって、規制を表わすこれらの頭字語の意味は、すべて「m-o-n-e-y(お金)」です。新たな規制は船舶の効率向上とCO2排出量の削減を目指すものですが、運用コストの低減により、設計と建造コストの増加分が相殺されるか否かは専門家の間でも意見が分かれています。


世界貿易機関(WTO)によると、世界の貨物輸送の90%は約6万隻の船舶によって行われています。その一方で海運事業者の数は減少傾向にあり、少数の事業者が多くの船舶を管理しています。たとえばデンマークのA.P.Moller-Maerskグループは1,300隻近くの船を運航し、2013年には473億米ドルの収入に対して38億米ドルの利益を上げました。

2008年の世界的経済危機に加え、国際海事機関(IMO)によって制定された燃料効率規制の導入により、海運業界では統合が加速しています。そうした規制には、エネルギー効率設計指 標(EEDI:Energy Efficiency Design Index)、船舶エネルギー効率マネージメント プラン(SEEMP:Ship Energy Efficiency Management Plan)、排出規制海域(ECA:Emission Control Areas)、バラスト水処理システム(BWTS:Ballast Water Treatment Systems)に関する新しい規定などが含まれます。

エコシップ時代の到来

世界の全船舶の総積載量はこの10年間でほぼ倍増しており、ノルウェーのシップ ブローカーRS Platou社は、2024年までにこの数が3倍になる可能性を指摘しています。デンマーク、バウスヴェアにあるボルチック国際海運協議会(BIMCO)は、燃料価格の高騰をうけ、新しい船舶の燃料効率が改善され、運用のコスト効率が高まる一方、購入価格はより高額化すると考えています。

日本の国際船級協会である日本海事協会(ClassNK)の上田德会長兼代表理事は次のように述べています。「より効率的で環境に優しい船舶へと軸足が移っています。これは間違いなく大きな動向の変化です。業界は効率に優れた船舶を目指して本格的な取り組みを始めてから、ほんの数年しか経っていませんが、すでに目覚ましい改善が見られています」

「船舶の効率を高めるのに最も重要なテクノロジーはエンジンです」

JOSE FEMENIA氏 UTILIVISOR

業界最大手のMaersk社は、史上最大のコンテナ船、トリプル-Eクラスを発表しました。20隻建造されるトリプルEクラスの3つのEは、Economy of scale(規 模 の 経 済)、Energy efficiency(エネルギー効率)、Environmentally improved(環境性能の改善)を表しています。コンテナ積載量18,000TEU(20フィートコンテナ換算)のこの巨大コンテナ船には55,000トンの鋼材が使用され、1隻の建造コストは1億9,000万米ドルと推定されています。しかしMaersk社は、トリプル-Eクラスの船舶が消費する燃料は、運ばれるコンテナ当たりで、積載量13,000TEUの船舶に比べ約35%節約できると見積もっています。

温室効果ガスの削減

排出削減規制は、2020年までの間に段階的に実施されます。2016年1月1日以降に建造される新しい船舶については、エンジンの三次規制(Tier III)でNOX排出量80%削減が求められます。また、SOX排出限度に従うには、船主は潤滑系から排ガス処理まで、あらゆる細部を精査することを余儀なくされます。

わずかな利益で運航している船主が反発するのは当然のことです。カナダのモントリオールに本社を置くCSL Groupの社長兼CEOであるRod Jones氏は、2014年3月に米国議会で開かれた北米排出規制海域(ECA)に関する公聴会で次のように証言しています。「1トン当たり400米ドルという未曾有の燃料価格増に対処するには、貨物運賃を35%程度値上げする必要があるというのが、CEOとしての私の予測です」

しかし、200隻の米国船籍の船団を有する売上20億米ドル規模の企業、Crowley Maritime社 の 会 長 兼CEOで あるTom Crowley氏 は、2014年 の『Maritime Professional』誌 で、規制は一種の事業コストだと述べています。「われわれの業界は、業界が環境に及ぼす影響を低減することにより積極的な役割を果たす必要があります。費用がかかり、輸送コストが増加することになりますが、それでも世論の理解を得られると考えています」

規制のとらえ方

SEEMPの有効性も議論の対象となっています。すべての船舶はSEEMPの規定が義務付けられていますが、行政機関と船舶安全検査(ポート ステート コントロール)はいずれも、SEEMPがIMOの指針に準拠しているか、すべての船舶がSEEMPに従って運行しているか調査することができません。

BIMCOの 主 任 海 運アナリストで あるPeter Sand氏は、次のように述べています。「規制の強制力が及ぶのは、SEEMPの存在を確かめるところまでです。さらに、SEEMPが存在し続けているかは直接確認されません。SEEMPの存在は、国際エネルギー効率(IEE)証書によって証明されますが、この証書は船の全耐用期間に対して1回だけ発行されるのです」

「先を見越した船主は、規制が形になる何年も前から、自社船舶の燃料消費量と効率を注視しています」ROBERT KUNKEL氏
PRESIDENT, ALTERNATIVE MARINE TECHOLOGIES

それでも、SEEMPを策定してそれに従えば、業績が向上するだろう、と指摘するのは、かつて合衆国商船大学(USMMA)で工学部部長と船舶工学修士課程の責任者を務め、現在 は コン サ ルタントとして 活 動 するJose Femenia博士です。「改善できる余地は、船と船主に応じて大きく変わります」

しかしながら、米国コネチカット州にある、Alternative Marine Technologies社の社長であるRobert Kunkel氏は、動機としては燃料価格の高騰だけで十分だと考えています。「先を見越した船主は、規制が形になる何年も前から、自社船舶の燃料消費量と効率を注視してきています」

隠れたコスト

Kunkel氏は、最新の動力テクノロジーによって、より多くの成果が実現されると考えています。「燃料消費量を削減し、排出量を削減するには、エンジンを動かさないようにすればいいのです。バッテリー電力とハイブリッド システムでそれが可能になります」

Kunkel氏は、船舶の燃料効率を向上させ、排出量を削減するのに、船舶のコストが20~25%上昇する可能性があると述べています。「ただし、造船会社や船舶設計会社は、建造や引き渡しを遅らせる可能性がある、導入経験のない新しいシステムを扱うため、20~25%近くをリスクの負担分として織り込んでいるということを、皆が知っておく必要があります」


船舶の新規制について

EEDI:「エネルギー効率設計指標」は、船舶に一定のエネルギー/効率比の達成を要求する規制だが、テクノロジーの選択は船主や運航業者に委ねられている。2013年1月1日施行。

SEEMP:「船舶エネルギー効率マネージメントプラン」では、運航業者が船舶のエネルギー効率を改善するためのプロセスを策定する。2013年1月1日施行。

ECA:「排出規制海域」では、船舶の運航海域に基づいて船舶の排出量が規制される。最も規制が厳しいのはバルト海、欧州、北米。

BWTS/BWM:「バラスト水処理システム」と「バラスト水管理条約」(Ballast Water Management)を指す。規制を満たすための装備の後付けには1隻当たり推定200万~300万米ドルのコストがかかる。最終的なルールは現在審議中。

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