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ライフサイエンス&ヘルスケアJuly 7, 2020

VPH技術の普及に向けて:英シェフィールド大学【COMPASSマガジン】

高度なシミュレーション技術に支えられたVirtual Physiological Humanの普及に必要なことを、応用の成功例を交えてご紹介します。
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人体の生理機能を再現したインタラクティブな「バーチャルツイン」が、研究者、臨床医、および患者をサポートするために世界中の組織によって開発されています。これらのプロジェクトの多くは、EUが資金提供する「生理学的(に正しい)バーチャルヒューマン(VPH:Virtual Physiological Human)」というイニシアティブの一環として進められています。VPHイニシアティブは、生体を再現した包括的な統合仮想モデルを開発して研究を促進し、臨床上の決定をサポートすることを長期的な目標として掲げており、患者ケアのための有望なソリューションをすでに生み出しています。

英国シェフィールド大学で医学物理学の上級講師を務めるJohn Fenner氏は、次のように述べます。「生理学的に正しいバーチャルヒューマンは、原子や分子から生体に至るまで、幅広いスケールをカバーします。それに加えVPHは、シェフィールド大学においては本質的な医学物理学の実現を、また現実の問題に対しては真の答えをもたらそうと試みるものです。このことは多くの場合で、最も複雑なモデルから離れ、シンプルなモデルを用いて解決できる、有益なクリニカルクエスチョン(臨床的な疑問)に注力できるということを意味します」

「生理学的に正しいバーチャルヒューマンは、原子や分子から人間の身体そのものに至るまで、幅広いスケールをカバーします」John Fenner氏 シェフィールド大学 医学物理学上級講師

患者の治療にあたる診療所にこれらのモデルを提供するには、学際的なコラボレーションが必要です。同大学で同じく医学物理学の上級講師を務めるAndrew Narracott氏は、次のように述べます。「規制当局、業界、臨床医は、いずれもこのプロセスに参画しています。これらのグループのいずれか一つでもソリューションの開発プロセスに全面的に関与しないと、必然的に長い遅延が生じます」

Narracott氏はVPH応用の成功事例として、現在ヨーロッパとカナダで利用可能な、心臓弁置換術が必要な患者の管理をサポートする FEops HEARTguide を挙げています。

VPH-CaSE研究の結果を欧州議会で報告するために、3Dプリンティングと仮想現実を使用してデータを可視化したもの。この数値流体力学モデルは、ステントが留置された冠状動脈で、壁面せん断応力のコンター図を示しています。このモデルは、ミラノ工科大学の博士課程の学生であるSusanna Migliori氏によって作成され、同大学の生物構造力学研究室に帰属します。詳細は vph-case.euをご覧ください。(画像 © シェフィールド大学)

ただし、この技術の普及を妨げる障壁はまだ残っています。Fenner氏は次のように述べています。「大きな課題がモデリングの技術的な側面にあるとは限りません。データを共有できるかどうかなどの基本的な要素が課題になる場合もあります。たとえば、データのプライバシーに関連した倫理的な問題があります。VPHイニシアティブはソリューションの促進に積極的に取り組んでおり、これによってVPH研究が急速に進展すると考えられます」

また、規制当局との連携は不可欠です。Narracott氏は次のように述べています。「診断につながるソフトウェアや治療に影響を与えるために使用されるソフトウェアは『医療機器』として分類されるため、臨床現場で応用する上で規制機関は重要な役割を果たします。、重要なマイルストーンです。今後数年間は、さらに何をすべきかを理解するため、シミュレーションの専門家と規制機関との間の集中的な審議に重点が置かれるようになります

VPHソリューションは臨床現場で広く認められつつあります。たとえば、シェフィールド大学のイン・シリコ(in silico)医療のInsigneo研究所は、研究環境と臨床環境の緊密な関係を促進し、文化面の変化の種をまく数少ない主要な組織の一つです。

Fenner氏は次のように述べています。「臨床現場で広く受け入れられるためには、トレーニングが重要です。近年になって、若い医師がコンピュータ技術の博士号を取得するケースが増えてきています。私たちは、臨床医が本学の物理学や生物工学のプロジェクトに関与することを引き続き奨励していきます」

高度なシミュレーション技術に支えられたVPHイニシアティブは、長期的なビジョンをサポートするための基盤を構築しています。

Fenner氏は次のように述べます。「30年後にはVPHのなかった時代が信じられないほど、VPHが当たり前のように使われているかもしれません。それまでは、これらの新技術をどのように最適に使用すべきかを考察しながら道を切り開いていきます」


VPHイニシアティブの詳細は、VPH 研究所のウェブサイトに掲載されています

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