世界の再生可能エネルギーへの移行には中心的な課題、つまり後で使用するために、余剰の太陽光発電と風力発電をどのように貯蔵するか、について解決策が必要です。一方、エネルギー集約型の産業には、発生するすべての過剰な熱をどう処理するかという独自の課題があります。化学者であり、ドイツを拠点とするKraftblock社のCEOでもあるMartin Schichtel氏は、自身の会社がこれらを解決できると確信しています。その解決策とは、熱ベースの貯蔵システムです。
Schichtel氏にとって、化学、コンクリート、好奇心、そしてサステナビリティへの情熱が、画期的な熱エネルギー貯蔵というソリューションを生み出すきっかけでした。
「私は大学でナノテクノロジーに重点を置いて化学を学んだ後、さまざまな業界でいくつかの仕事に就きました。そのほとんどは、多くのエネルギーを浪費する鉄鋼やセラミックなどの分野でした。その後2008年に、『高温の』コンクリート蓄熱に関するテレビ報道を見ました。コンクリートは安価で広く入手可能で、あらゆる形に成形できます。報道で私はコンクリートが摂氏500度までのものを保管できると知りましたが、一方、私が働いていた鉄鋼やセラミックの業界では摂氏1,000〜1,500度が高温であるとみなされていました。そこで私は、コンクリートをもっと広い範囲の温度に対応できるよう最適化する方法を見つけるため、開発者と情報交換しました」
Schichtel氏にとって興味を興味をそそる化学の謎として始まったものは、氏がアイデアを実現し、その潜在的な用途に目を向けるにつれ、サステナブルなエネルギーシステムのゲームチェンジャーに成長しました。 2014年、彼は経済学の専門家であるSusanne König氏(現在は同社のCFO)とKraftblock社を共同設立しました。会社のミッションは、高温で製造を行う産業や発電を含むさまざまなセクターの脱炭素化を実現する、高性能で持続可能なエネルギーシステムを設計・構築することです。
「私たちの究極の目標は、世界の人々が将来、完全に持続可能なエネルギーシステムを用いて生活することです」とSchichtel氏は述べます。 「私たちのチームと投資家は、自分たちの熱エネルギー貯蔵システムがこの目標を達成するのに不可欠になると強く信じています」
脱炭素化への取り組み
Kraftblock社は核となる技術である、高温で製造を行う産業が熱エネルギーを取得して再利用するために必要な熱伝導率と大きな熱容量を組み合わせた素材の開発からスタートしました。
「世界中で膨大な量のエネルギーが熱として浪費されています」とSchichtel氏は述べます。 「セラミックや鉄鋼のような産業は、非常に高い温度を必要とします。 すべての炉、窯、または熱処理では、通常、大気に直接放出される廃熱があります。 その熱を貯蔵して再利用できれば、クライメイト・ニュートラル(気候中立)なエネルギー源になります」
既存の貯蔵の技術には、これらの業界が必要とするエネルギー密度や高温を処理する能力がなかったため、Schichtel氏と彼のチームがそれを作成しました。
「Kraftblock社の産業廃熱エコシステムは、過剰な熱とガスを放出される前に回収し、さまざまな場面で再利用できるよう、設計されています」とSchichtel氏は述べます。 「熱は、たとえば、炉を予熱したり蒸気を生成したりするために内部でリサイクルすることができます。あるいは、電気を生成するために使用することもできます。当社のストレージはモジュール式で持ち運び可能であるため、保存された熱は外部のサードパーティが使用するために輸送することもできます。どちらの場合も、企業が一次エネルギーを節約し、CO2の発生を回避するのに役立ちます」
また、システムの素材を作成するのに高温にする必要はありません。Kraftblock社の製品の構造そのものがサステナビリティを実現しているのです。
「私たちにとってサステナビリティにはさまざまな側面があります」とSchichtel氏は述べます。 「一つは、お客様が当社のシステムをどう使用すれば将来、よりサステナブルになるかを検討することです。もう一つは、エネルギーシステムに、よりサステナブルな性能を持たせることです。システムには多くのリサイクル素材を使用しており、また、室温下で簡単なプロセスで製造されるため、競合製品よりも製造にかかるエネルギーが少なく済むのです」
未来への力
バーチャルツイン・テクノロジーは、Kraftblock社の設計プロセスの中心です。
「どの企業の場合も、ストレージユニットの充電と放電に対して独自の、また場所特有の要件があります」とSchichtel氏は述べます。「したがってプロジェクトごとに、顧客独自のニーズに沿い、また、一つのモジュラーシステム内で相互にリンクする、充電・放電装置の複雑なセットを設計しなければなりません。企業向けの3DEXPERIENCEプラットフォームを使用することで、熱応力と機械的ストレスのシミュレーションから、システム全体のバーチャルツインの導入まで、製品開発のさまざまな側面を組み合わせることができるようになりました。さらに、バーチャルツインを使い、製品に興味があるお客様やビジネスパートナー候補に、潜在的な問題やその解決方法など、さまざまなシナリオを多少なりともその場で見せることもできます」
システムを物理的に構築する前にシステムのバーチャルツインを作成することは、企業とそのパイロットカスタマーにとって非常に価値があります。
「私たちはシステムとプロセスのシミュレーションを、それがどう影響を及ぼすかの予測も含めて何度も行います。エネルギーを熱に伝達するシステムの性能は、お客様の持続可能性を向上させるのに不可欠です。性能が1%低下しただけでも、多額の費用がかかる可能性があるからです。 バーチャルツインを導入することで、システム全体を高いレベルで構築し続けることができました。 バーチャルツインは性能の問題と改善内容をお客様に容易に説明、実証するのに役立ちます。
このことは、さまざまな場面・用途ですべてが計画どおりに機能することをお客様に示すことができるという点で、非常に高い価値があります。稼働中のエネルギーシステムのバーチャルツインで、予知保全や人工知能の制御システムの構築なども行うことができます」
Kraftblock社の、全ての人のために持続可能なエネルギーを、というビジョンが実現するのは先のことかもしれませんが、Schichtel氏は今、ビジョンを実現し始める好機を得ています。
「再生可能エネルギーの生成と貯蔵の市場は急速に発展しています。 工業先進国では、産業と個人の家におけるエネルギー総需要の50%以上が熱に対する需要であり、熱を供給する技術は常に、次の段階に適応していく必要があります。結果として、REETシステムへの要望が高まっています。ソーシャルメディアなどのチャネルを通じて市場の発展をモニターできることは有益で、バーチャルツイン・テクノロジーは市場の動きに適応するのに役立つのです」
Kraftblock社は、ドイツの Deutsche Messe Technology Academyが運営するインキュベーターパートナー、Industrial Future Hubを通じて、3DEXPERIENCE Labのサポートを受けています。