壮観な都会の風景にはつい目を奪われてしまいますが、表舞台にはほとんど登場することなく多くの施設を維持・管理しているファシリティマネジメント業界が、静かな変革の時を迎えています(フロスト&サリバンは2025年の市場規模を1兆ドルと予測しています)。COMPASSマガジンでは、アジア最大のファシリティマネジメント会社の一社であるAdenグループの共同設立者兼共同社長、François Amman氏に業界の進化の状況について話を伺いました。
COMPASSマガジン: Adenグループの沿革や目標、現在の業務内容について簡単に教えてください。
François Amman氏: 当社は1997年に設立され、中国と東南アジアで成長を続け、現在のような大企業になりました。従業員数は26,000名、顧客数は2,000を超え、企業やパートナーシップの広範なネットワークを有しています。お客様の非中核事業全般の管理を担っており、運用の最適化や規制対応、建築済み資産の環境に対する影響の削減などを支援しています。
ファシリティマネジメントに対する向き合い方については、ビル所有者にはどのように提言されますか?
Amman氏: お客様は多くの場合、設計・施工に重きを置いて固定資本のライフサイクルを軽視します。しかし、ビル所有者に対しては環境規制や市場原理が重くのしかかり、エネルギーや公共設備(電気・ガス・水道等)の効率的な利用や運用戦略・運用システムの改善が求められます。こうした状況はファシリティマネジメント業界、特に当社にとっては大きなチャンスであり、連結・統合された企業向けプラットフォームを活用してデジタル化によるイノベーションを実現しています。
最も多く利益を生む傾向にあるのはファシリティマネジメントのどの分野ですか?
Amman氏: 特に重要なのがサービスとテクノロジーの組み合わせです。建物の日々の運用作業のさまざまな側面をデジタル化して連結・最適化することにより、極めて大きな価値を生み出すことができます。たとえばエネルギー利用や資産のパフォーマンス、スペース管理、従業員や来訪者の快適さといった要素のそれぞれを専用のツールで管理する代わりに、当社のプラットフォームのようなツールを使うと、建物で起こっている状況を確かな数字やデータでより総合的に把握することができます。それさえあれば、より生産性や効率性、持続可能性に優れた作業スペースを実際に作り始めることができます。
プラットフォームは建物の保守・運用をどのように改善するのですか?
Amman氏: 当社ではすべての資産、建物の機能をバーチャルに統合していますが、それを有効に利用するためには一つに統合されたプラットフォーム上にまとめる必要があり、そうすることで全体像だけでなく細部もすべて見ることができます。
構想段階で3Dのバーチャルツインを作成すれば、建物全体をシミュレーションして施工前に運用を微調整することができます。効率性と生産性に優れたシステムと運用方法を詳細に指定し、最適化・維持することができ、一方では建物のライフサイクル全体を対象にして、そうしたシステムや運用方法がエネルギー消費量や保守の生産性にどのように影響を及ぼすのかを正確に把握することができます。既存の建物の場合はレトロフィット(目的に応じた修繕、改良)を行います。
最も多くメリットを享受しているのはどのタイプの顧客ですか?
Amman氏: 商業用不動産や国有財産、製造施設、医療機関など、さまざまなお客様がいらっしゃいます。エネルギー消費量だけでも、2割から最大8割程度は節約できます。建て方がよくなかったり、管理が行き届いていなかったりすると、節約効果はさらに高くなります。統合・最適化されているシステムはいずれも、同じような生産性と効率性の向上をもたらします。
どのようなデータを収集・参照しているのですか?
Amman氏:たとえばエレベーターやポンプ、その他の技術的資産など、すべての設備を監視し、エネルギー消費量や温度、気流、ごみ排出量も管理しています。また、どのタスクを最適化すれば時間を節約し、作業者の疲労を軽減できるのかを把握するために、従業員の追跡も行っています。こうすることで作業の流れがスムーズになり、機械等のさまざまな資産をより適切に使用してコストを削減することができます。
データはどのように保守・運用の予測可能性を高めるのですか?
Amman氏:リアルな3Dシミュレーションによって、目に見えずに把握できていなかった多くの「建物の真実」、たとえば設備の寿命や保守の履歴・状況などがつぶさに明らかになります。これによって、ので、保守作業の正確な予測・計画が可能になります。以前は保守が不規則になることが多かったところでも、今は何を修理する必要があるのか、いつどのように実施すると効率的なのかを把握できるので、効率性と生産性が高まります。
どのプロセスを自動化できるのですか?
Amman氏: どの設備にも自動監視・制御機能を追加することができ、従来は人手で行っていた多くの作業をロボットやドローンに引き継げます。
たとえば病院の場合、補給品や医療用消耗品は、モノのインターネット(IoT)を介してロボットを展開し、身体的接触を必要としない方法で配達することができます。こうしたロボットは、消毒作業の状況や在庫水準、建物の状態などに関するデータも収集します。人との接触を抑えることで新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることができるので、とても有用です。空気の流れを監視・制御してウイルスを無力化できるのも非常に大きなメリットです。
他にも何か世界的な感染拡大から学んだ教訓を実践しているのですか?
Amman氏: 中国の武漢で、感染が拡大する中、2020年2月に10日で建設された2つの病院のデジタルツインは、病院のすべての設備や作業の流れ、チームのノウハウが組み込まれています。このテクノロジーは3Dシミュレーションを可能にするもので、病院の長期的なし、それを医療機関の迅速な建設・運営に関心のある世界25地域に提供されています。新しい病院の建設にはそれぞれ150日間を要し、最初の病院は2021年に完成します。
ファシリティマネジメント業界は、他にはどのようなメリットを社会に提案できるのでしょうか?
Amman氏: ファシリティマネジメントに対して人間を中心に据えたアプローチを取ることで、建物を人々にとってより良いものにすることができます。つまり、建物の内部環境や遮音性、アダプティブ・ライティング(適応型照明)、正確な温度・気流等を制御することで、より安全で健康的な、そしてより快適な建物にすることができます。こうしたテクノロジーはまた、水やエネルギーの使用量を抑えることで環境への影響を即座に軽減してくれます。
ファシリティマネジメント業界の未来に関してはどのようにお考えですか?
Amman氏: 高度なシミュレーション機能を導入することで、ファシリティマネジメント業界の未来は大きく変わります。製造業で使われているのと同様の、すでに確立されたプロセスやデータ操作機能を採用することで、我々はデジタルな手法が後押しする変革と共に歩むことができます。
建物から収集された大量のデータを扱うことができる連結・統合された企業向けのプラットフォームを導入することで、保守的な業界を今の時代にふさわしい業界に変えることができます。業界が長く必要としてきた統合思考、意思決定力や行動をようやく実現するテクノロジーに後押しされ、ファシリティマネジメントのプロセスは今後数年でさらに可視化、統合されるでしょう。
トップ画像:中国の武漢で、感染が拡大する中2020年2月に10日間で建設された2つの病院のデジタルツイン。病院のすべての設備や作業の流れ、チームのノウハウが組み込まれています。(画像 © Aden Group)