1. 3DS Blog
  2. ブランド
  3. SIMULIA
  4. SIMULIA Operaがオックスフォード大学の超伝導実験の理解を支援

Design & SimulationMay 27, 2026

SIMULIA Operaがオックスフォード大学の超伝導実験の理解を支援

シミュレーションは、「グリーン」エネルギーの代替として核融合を研究している科学者や技術者が超伝導を理解するのに役立っています。
header
AvatarKatie Corey

見出し

※本ブログは、SIMULIA Blog (英語版)で先に公開されたブログの日本語参考訳です。

核融合

気候変動は、科学者やエンジニアが化石燃料による発電に代わる環境に優しいエネルギー生成方法を開発することの必要性を高めています。風力、太陽光、潮力、波力といった再生可能エネルギーは、このニーズを満たす手段となり得ますが、一つ大きな欠点があります。それは、気象や海洋状況に依存することです。

たとえば、風が吹かず曇った日には、太陽光と風力に大きく依存している電力システムは深刻な問題に直面する可能性があります。そのため、電力網に継続的かつ制御可能な電力供給源を提供するには、他の代替手段も取り入れる必要があります。

従来の原子力発電所で使用されている核分裂(fission)も検討可能ですが、これは長期にわたる放射性廃棄物の保管・処理という問題を抱えています。こうした廃棄物は何千年も危険性が残る可能性があります。

現在、最も有望な代替技術の一つが核融合(fusion)です。核融合によって生じる副産物のほとんどは無害であり、仮に放射性物質が含まれていても、その半減期は核分裂廃棄物に比べてはるかに短いのです。

しかし、核融合――つまり太陽が燃え続けるのと同じ反応――には多くの課題があります。融合反応を自立的に維持するには、生成されたプラズマを摂氏約1億~1億5000万度まで加熱し、小さな空間内に閉じ込める必要があります。このような極端な高温では、プラズマを通常の容器で保持することはできないため、非常に強力な磁場によってプラズマを保持しなければなりません。

これまでで最も研究が進められてきた磁場構成がトカマク(tokamak)です。現在、フランスのカダラッシュに建設中のITERが最大のプロジェクトです。次の図1はそのイメージ図で、前景に立つ人間の姿と比較してそのスケールが分かります。

磁場を生み出すコイルは、極低温超伝導体(LTS)で作られ、絶対零度に近い温度では電気抵抗がゼロになります。もし銅製のコイルを使用した場合、必要な磁場強度を維持するための電流によって発生する電力損失が非常に大きく、リアクターで発電した電力のほとんどを使い果たしてしまう可能性があります。

図1 ITERトカマクの想像図(アーティストによるイメージ)

ITERは、次世代の高温超伝導(HTS)材料が広く利用可能になる前に設計されました。HTS材料の最も重要な特性は、低温超伝導(LTS)に比べて、より高い磁場下(通常、温度20Kにおいて20テスラ超)でも超伝導状態を保てるという点です。さらに、60〜70Kという比較的高温でも超伝導コイルとして動作可能であるため、必要な極低温装置(クライオニクス)も大幅に簡素化されます。

これらの材料の登場によって、トカマク型核融合炉に関する研究開発の新たな波が生まれています。多くは小規模なスタートアップ企業によって進められており、ITERのような大規模炉に比べて、より迅速に設置可能な「既製品」型設計を目指しています。

一方で、より大規模なプロジェクトも存在しており、その一例がイギリスで提案されているSTEPトカマク計画です。この計画ではHTS材料の使用が予定されており、2040年までに発電を開始することが期待されています。

中性子照射

HTS材料が、核融合反応中に発生する中性子の継続的な照射を受けた場合にどのように振る舞うかは、依然として大きな未知数です。時間の経過とともに、コイルの性能(特に損失なしに非常に大きな電流を流す能力)が劣化していくと予想されており、設計においては、寿命末期まで運転開始時と同様に稼働できる構造が求められます。

世界的に著名なオックスフォード大学の材料科学応用超伝導センターでは、クリス・グロヴナー教授およびスザンナ・スペラー教授の指揮のもと、このHTS材料が運転中にどの程度耐えられるのかを調べる実験が行われています。

コイルの構造に使用されるHTSテープの試料に対して、イオンビームを用いた照射が行われており、これは核融合炉内での中性子による損傷を、より安全かつ制御可能な方法で迅速に再現することを目的としています。

この照射は段階的に実施され、臨界電流(それを超えると超伝導状態を失う電流)が、照射中およびイオンビーム停止後に測定されます。

オックスフォード大学の博士課程学生カーク・アダムズ氏は、イオンビームがパフォーマンスに影響を与えていることを示す結果を得ており、そのデータが図2に示されています。

図2 実験中の試料の臨界電流およびコールドヘッドセンサーにおける温度

図3は実験の様子を示しており、図4は等価CADモデルで、イオンビームが開口部を通って入射する様子を示しています。試料は、上部プレートの開口部すぐ下に配置されています。

図3 クライオスタットのコールドヘッド上での実験の様子
図4 開口部からイオンビームが入射する様子を示した実験のCADモデル

試料の寸法は非常に特殊です。一般的な幅4mmのHTSテープから25mmの長さに切り出したもので、厚さは約100μm(マイクロメートル)です。厚さ方向には複数の材料が積層されており、その構造が図5に誇張した厚さスケールで示されています。

通常の運転時に電流を流す希土類バリウム銅酸化物高温超伝導体(REBCO HTS)の層はわずか2μmの厚さであり、バリア層(バッファースタック)は0.1μm未満の非常に薄い層となっています。

図5 HTSテープの材料層構造

試料では、上部の銅と銀の部分が5.8mmの長さで除去されており、HTS層が直接イオンビームにさらされるようになっています。また、HTS層はさらにエッチングされており、臨界電流密度に達するために必要な、入力電流を下げるための狭いトラック状の形状が設けられています(図6参照)。

図6 エッチング後のHTS層

温度が超伝導能力に与える影響

図2に示されているように、実験では試料が設置されているコールドヘッドの温度もモニターされています。コールドヘッドの温度は通常40Kに維持されており、測定結果からもこれが達成されていることがわかります。

しかし、試料内部の温度を直接取得することはできず、特にイオンビームがHTS材料(狭いトラックと基板部分)に照射されている箇所の温度を直接観察することはできません。 HTSの臨界電流密度は温度に依存しており、多くのREBCO材料の臨界温度は約80~90Kです。

スペラー教授は、長年にわたり超伝導デバイスのシミュレーションを手がけてきたSIMULIAOperaチームに連絡を取り、イオンビーム照射中のHTS材料のピーク温度を特定するために試料のモデル化が可能かどうかを相談しました。

懸念されているのは、イオンビームによって蓄積される熱が、照射中の測定(図2参照)で観察されるHTSの臨界電流密度低下の原因となっている可能性があることです。つまり、イオン照射の影響が物理的な反応によるものではなく、熱的な影響であるかもしれないということです。 また、オックスフォードの研究チームは、イオンビームのオン・オフに伴って温度がどれくらいの速度で上昇し、また下降するのかという温度変化の速度についても知りたいと考えていました。

Opera-3dによるモデリング

カーク・アダムズは試料の外形形状のCADモデルを提供しましたが、層構造の詳細は含まれていませんでした。
そのCADモデルはOpera-3dのモデラーに取り込まれ、寸法情報を用いて全体モデルが作成されました(図7参照)。

図7(c)に示されているように、モデラーの軸ごとに独立してスケーリングできる機能は、形状のアスペクト比が非常に大きいため、可視化に非常に役立ちました。 また、モデラーはCADモデルに含まれていたが実験試料には存在しなかった2つのジオメトリ(図7(a)のアンバー色で強調表示)を削除するためにも使われました。

図7 (a) CADモデル (b) 実寸スケールのOpera-3dモデル (c) 厚さ方向を20倍に拡大したモデル

熱物性値は温度依存性の関数としてカークから提供され、Opera-3dモデラーに関数テーブルとしてインポートされました。これにより、非線形熱拡散の過渡熱解析(Transient Thermal simulation)で、計算される温度に合わせて各有限要素の物性値が更新される仕組みになっています。

イオンビームからの熱は、イオン照射のパターンに合わせてオン・オフされる表面熱密度としてモデルに適用されました。

厚さがマイクロメートル単位という非常に薄い形状に対して、他の2方向で過剰なメッシュを生成することなく、かつ精度の高い有限要素メッシュを作ることは難しい課題です。
従来の自動四面体メッシュでは、非常にアスペクト比の高い要素ができてしまい、結果の精度が低くなる恐れがあります。

しかし、Opera-3dのモザイクメッシュ(mosaic meshing)は薄い構造物の取り扱いに特化して設計されており、このモデルでは長さ・幅方向の挙動を十分に捉えるために適切な2次元サーフェスメッシュから生成された、2次の六面体と三角柱要素で混成された、合計22,718要素を含むメッシュが用いられています。 図8は、イオンビームがパルスとして約10〜20秒以上照射された後の、エッチングされたHTS部の温度分布を示しています。

この時点で熱は平衡状態に達しており、イオンビームによって加えられた熱が、銅の裏面とコールドヘッドの接触部分を通じて同じ速度で放散されています。ご覧のとおり、最大温度は約60K未満となっています。

図8 イオンビーム照射時の熱平衡状態における温度分布

図9は、過渡熱シミュレーション全体を通した最大温度の推移を示しており、図10は各照射ステップにおける温度の上昇と下降を示しています。
実際には、すべての照射ステップの結果はほぼ同一であり、イオンビームパルス間の間隔で試料がコールドヘッドの40Kの温度に戻っていることも示しています。

図9 シミュレーション全体を通したHTSの最大温度変化
図10 (a) ビーム照射開始後最初の10秒間の最大温度 (b) ビーム照射停止後最初の10秒間の最大温度

Opera-3dの過渡熱解析に用いられるタイムステップアルゴリズムは適応型であり、イオンビームのオン・オフのような急激な過渡現象を正確に捉える際には十分に小さいステップを使い、定常的な挙動を捉える際にはステップを大きくして計算効率を最大化しています。これにより、精度を損なうことなく効率的なシミュレーションが可能となっています。

ただし、Opera-3dの過渡熱解析では、ユーザーが結果を出力する時刻を自由に選択でき、シミュレーション内のすべてのタイムステップで結果を出す必要はありません。図10のトレースを見ると、異なるパルスでオン・オフに対する結果のサンプリングタイミングが変更されていることがわかります。

モデリングは挙動に影響を与える要因についても洞察を与えました。最も大きな影響を与えるのは、銅の底面からコールドヘッドへの熱伝達量であることが判明しました。ここで示した結果は、100 mW/mm²/Kの熱伝達率を用いています。これを半分に減らすと、各パルスでの最大温度は約3.5 K上昇します。

オックスフォードの研究チームは、最大温度が約60〜65 KであればHTS材料の劣化は起きないと考えていますが、今後の実験では良好な熱接触が常に維持されるように追加の対策を講じる予定です。

カーク・アダムズ氏はこう述べています。「改めて、提供していただいたシミュレーションに感謝します。私たちが抱えていた重要な疑問に答えてくれました。今回のことで、チーム全体が自分たちの研究をより深く理解できたと思います。」

スペラー教授はさらにこう付け加えました。「モデリング結果は、私たちの現場での実験データを解釈するうえで非常に役立っており、ビーム加熱の影響を緩和するための実験装置の改良にもつながりました。」

SIMULIA低周波EMAG応用チームのシニアコンサルタント、クリス・ライリー氏は次のようにコメントしています。「将来のエネルギー生成にとって重要なアプリケーションで、このように高く評価されている研究チームと共に仕事ができて大変光栄です。極端なアスペクト比を持つ構造でシミュレーションを行うというチャレンジは、要求に最適なメッシュ技術を提供する価値を示しました。シミュレーションの数値結果は常に重要ですが、この例はオックスフォード大学のチームが実験の熱挙動について深い洞察を得たことも示しています。」

SIMULIAのOperaチームは現在、オックスフォード大学のHTS材料グループと引き続き協力していく方向で話し合いを進めています。シミュレーションがもたらす利点は、単なる実験結果の検証にとどまらず、測定不可能な物理的効果の理解や、将来の実験の実施方法に対する指針を与える点にもあります。

謝辞

実験研究は、オックスフォード大学材料科学応用超伝導センターによって実施され、イギリス工学物理科学研究会議(EPSRC)の助成金 EP/W011743/1 によって資金提供されました。
図2、図3、図4、図5は、オックスフォード大学材料学科応用超伝導センターの提供によるものです。


最新のシミュレーショ ンソリューションにご興味がおありですか?アドバイスやベストプラクティスをお探しですか?他のSIMULIAユーザーやダッソー・システムズの専門家とシミュレーションについてお話しする必要がありますか? SIMULIA Community では、SIMULIA ソフトウェアの最新リソースを検索し、他のユーザーとコミュニケーションを図るためのオンラインコミュニティーです。革新的な思考と知識構築の扉を開く鍵である SIMULIA Communityは、いつでもどこでも知識を広げるために必要なツールを提供します。

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら