1. 3DS Blog
  2. ブランド
  3. SIMULIA
  4. シミュレーション主導のエンジニアリングで、より優れたバッテリーセルを構築

Design & SimulationApril 3, 2025

シミュレーション主導のエンジニアリングで、より優れたバッテリーセルを構築

エンジニアがバッテリーセルの設計を行う上で、シミュレーションは新しい技術を開発するのに役立ちます。このブログ投稿では、3DEXPERIENCE® プラットフォーム上の SIMULIA のバッテリーセル エンジニアリング ワークフローについて触れ、それらを利用して高性能バッテリーシステムを作成する方法についてご紹介します。
header
Avatarダッソー・システムズ株式会社

見出し

はじめに

スマートフォンから電気自動車、大規模な電力網の蓄電器に至るまで、バッテリーは私たちの日常生活においてますます重要なものになっています。車の電動化が一般化するにつれて、高容量、低コスト、低重量、長寿命、そして厳しい動作条件や安全基準を満たす能力を備えたバッテリーが必要となります。これらの要件を満たすことができる企業は、ビジネスにおいて大きな競争力を持つことになるでしょう。

改良されたバッテリーの開発プロセスは、セルレベルから始まります。セルは電極と電解液で構成されるバッテリーの基本単位です。バッテリーパックは複数のセルを接続することによって形成され、多くの場合、構造、熱、および制御のための素子が追加されます。

シミュレーションは、バッテリーセルの設計プロセスを向上させし、エンジニアが新しいセル技術を開発するのに役立ちます。このブログ投稿では、3DEXPERIENCE® プラットフォーム上の SIMULIA のバッテリー セル エンジニアリング ワークフローについて触れ、それらを利用して高性能バッテリー システムを作成する方法をご紹介します。

※本ブログは、SIMULIA Blog (英語版)で既に発表されたブログの日本語参考訳です。

電池工学の課題

バッテリー システムを開発する場合、エンジニアは多くの設計要件を考慮する必要があります。以下の例は電気自動車のものですが、他の業界においても同様のニーズがあります。

  • 容量 (走行距離): デバイスの全体的な寿命を延ばしつつ、再充電の頻度を最小限に抑え可能な限り最大の容量を備えている必要があります。
  • 充電時間: バッテリーの充電が速くなるほど、ドライバーはよりいち早く運転に戻ることができます。
  • 重量: バッテリーが軽いと加速が速くなり、エネルギー効率が向上します
  • 長寿命: 車のバッテリーは高価な部品です。寿命が長いほどメンテナンスコストが削減され、再販価値が高くなります。
  • 温度: 充電と放電によりバッテリー内部にかなりの熱が発生するため、暑い季節にはバッテリーを冷却し、寒い季節にはバッテリーを温める必要があります。
  • 安全性: バッテリーは使用時の負荷や振動に耐え、衝突した場合でも安全性を維持する必要があります。

これらすべての設計目標を達成し、最適なトレードオフを見つけるには、エンジニアはセルがどのように動作するかだけでなく、実際の動作条件下でセルがどのように動作するかを理解する必要があります。

バッテリー業界で起こっている進歩により、バッテリー開発はより困難を増しています。業界が拡大するにつれて、サプライヤーとメーカーはより複雑なサプライチェーンを構築しています。バッテリーセルの開発、大規模な製造、車両やデバイスへの統合には分子からシステムに至るまで、いくつもの異なるレベルにおいて多くの関係者が関与することになります。既存のセルメーカーは新興企業との競争に直面しており、自動車やエネルギーなど他業界との合弁事業がますます一般的になっています。電池メーカーは固体電解質やナトリウムイオン電池などの新技術の研究にとりくんでいます。

バッテリーセルをシミュレーションする理由

プロトタイプを必要としないVirtual Twin上のテスト

シミュレーションにより、エンジニアは様々な課題に対処することが可能となります。シミュレーションを使用すると、エンジニアはバーチャルツインを使用しプロトタイプを使用せずにバッテリーのパフォーマンスを解析することができます。このデジタル化されたバッテリーには、形状、電極、電解質の特性とそれらの相互作用など実世界の挙動を正確に表現するために必要な関連データがすべて含まれています。

バーチャルツインでは、層状の円筒形 (「ジェリーロール」) 設計など、バッテリーセルの複雑な形状を捉える必要があります。 3DEXPERIENCE バッテリー セル エンジニアリング ソリューションは、層状の3Dバッテリー セル ジオメトリを設計し、詳細で現実的なシミュレーション対応モデルに変換するのに役立ちます。シミュレーション後、温度分布やイオン濃度などのセルのあらゆる側面を3Dで視覚化できます。

バーチャルツインは設計段階の非常に早い段階から物理プロトタイプを構築する前まで、開発のどの段階でも使用することができます。これにより、さまざまなコンセプトを比較し、設計パラメータを最適化して、特定の設計に着手する前に設計が要件を満たしていることを確認することができます。潜在的な失敗、コストのかかるやり直し、プロジェクトの遅延のリスクを最小限に抑えることが可能です。

電気化学を最適化して効率的なパフォーマンスを実現

バッテリーにおける、充電、容量、放電のパフォーマンスは電気化学によって決まります。この複雑なマルチフィジクス、マルチフェーズ象はセルの 3D 構造と電極と電解液の相互作用によって支配されています。これらをテストで分析するには時間がかかり、測定の制限によって得られる洞察も制限されます。

Battery Cell Engineering ソリューションは、ニューマンモデル(Newman model)に基づいて3Dに拡張した 多孔質電極理論 (PET) を提供し、実環境におけるセルの性能をシミレーションします。これは、ミクロスケールとマクロスケールの両方の詳細を考慮してセル内の電気化学をモデル化します。 そして、構造、熱、電気化学、間隙圧などの物理学のさまざまな要素が同時に考慮されます。エンジニアは異なる機械的および熱的条件下で、さまざまな充電レートにおける充放電挙動などの要因を解析することができます。シミュレーションは3Dで行われるため、ユーザーは厚みの変形や膨張によって生じる応力などの 3次元の挙動を評価および予測することもできます。

現実世界のシナリオでの安全性確保

バッテリーセルは、スマートフォンや電気自動車の内部など、持ち運び可能な形状で高いエネルギーを貯蔵するように設計されています。その結果、極端な暑さや寒さ、曲げ、衝撃や貫通など困難かつ危険な状況にさらされます。バッテリーセルはこれらの危険に耐える必要があり、万が一故障した場合でも「安全に故障」する必要があります。

シミュレーションでは、仮想環境内で危険な現実世界のシナリオを安全に再現することもできます。釘刺し、自動車事故、熱暴走などの事象をプロトタイプの作製や破壊によるコストやリスクを負うことなく確認することができます。

バッテリーの寿命と信頼性を向上し、より良い投資に

バッテリーは、時間の経過(カレンダー劣化)や繰り返しの使用(サイクル劣化)によって劣化します。カレンダー劣化は、たとえばバッテリーが使用されずに保管されている場合に発生しますが、周期劣化はバッテリーが充電または放電されるたびに発生します。バッテリーの費用は電気自動車のコストに大きく影響し、バッテリーの老朽化は電気自動車の急速な減価償却と所有コストの増加の主要な原因の一つになっています。バッテリーセルの寿命が長くなれば、電気自動車はドライバーや車両管理者にとってより魅力的な投資となるでしょう。

3DEXPERIENCE プラットフォーム上のバッテリーセル エンジニアリングソリューションは、これらの老化プロセスをシミレーションするための包括的なワークフローを提供しています。 SEI被膜の形成と成長、リチウム メッキ、カソードの溶解など、さまざまなバッテリーの老化メカニズムをモデル化することができます。これらによる影響を解析することで、エンジニアはバッテリーの寿命を最適化し、顧客が求めるより信頼性の高いバッテリーを製造することができます。

セルの化学最適化に至るまでバッテリー科学を探求する

3DEXPERIENCE プラットフォーム上のバッテリーセルエンジニアリングは、SIMULIA マルチフィジックス シミュレーションワークフローと、科学・化学および材料工学用ソフトウェアの BIOVIA、設計とモデリング用のソフトウェアの CATIAの主要機能を組み合わせたものです。これらは共に3D バーチャルツインを使用したバッテリーセルの設計、解析、最適化、検証においてバッテリーエンジニアをサポートします。

すべてのプロセス段階は同じ環境、つまりすべてのバッテリーセル エンジニアリング データの信頼できる唯一の情報源を提供する 3DEXPERIENCE プラットフォームで行われます。設計者、解析者、その他のプロジェクト関係者は情報を共有し、確実かつ安全にコラボレーションが可能となります。統合モデリングとシミュレーション (MODSIM) は、セル設計を早期に最適化し、潜在的な可能性を特定して解決できるよう、解析プロセスのシフトレフトに役立ち、より一貫性があり、エラーのない、加速された設計サイクルを保証します。

3DEXPERIENCE プラットフォームのバッテリー セル エンジニアリング ツールでの非常に詳細な 3D ニューマンモデリングは、セルの熱および電気化学的挙動の現実的なシミュレーションを作成するうえで極めて重要です。これらのシミュレーションはさまざまな条件での使用による影響を含む、セルの性能と経年変化に関する高い精度の予測を可能にします。ミクロ構造シミュレーションにより、電極内の材料特性を詳細に解析できます。一方、機械的シミュレーションで熱応力、機械的圧痕、釘刺しなどの事象におけるセルの動作をテストすることで、エンジニアはセルの寿命全体にわたって最適な安全設計を行うことができます。

まとめ

スマートウォッチ、スマートフォンから電気自動車やグリッド・ストレージに至るまで、対象物の大小を問わずバッテリー性能が非常に重要です。この性能は、バッテリーセルレベルで、内部の電気化学と複数の物理的相互作用によって左右されます。効率的で安全かつ競争力のあるバッテリーを開発するには、セルの複雑な三次元的挙動を理解する必要があります。

ダッソー・システムズは、3DEXPERIENCE プラットフォーム上でバッテリーセル エンジニアリングソリューションを提供しています。このソリューションは、最適な設計およびシミュレーションのソリューションをワークフローに統合したものです。これらのツールを使用すると、バッテリー設計者はプロトタイプを作成することなく、デスクにいながらバッテリーの性能を正確に解析できるようになります。

3DEXPERIENCE プラットフォーム上のバッテリーセル エンジニアリング ソリューションを使用すると、バッテリー セル メーカーは、すべての関係者間のコラボレーションと、開発サイクルにおける解析業務でシフトレフトが可能です。遅延やコスト超過の原因となる大規模な再設計を行うことなく、潜在的な安全性や効率性の問題を早期に解決できます。シミュレーションにより、バッテリーセルメーカーは、革新的で競争力のある新製品を開発しながら、研究開発コストと市場投入までの時間を削減することができます。


詳細についてはウェビナー(オンデマンド)をご覧ください。(ビデオは英語となります)

https://events.3ds.com/battery-cell-engineering-faster-modsim
https://events.3ds.com/future-aircraft-development-modsim


最新のシミュレーショ ンソリューションにご興味がおありですか?アドバイスやベストプラクティスをお探しですか?他のSIMULIAユーザーやダッソー・システムズの専門家とシミュレーションについてお話しする必要がありますか? SIMULIA Community では、SIMULIA ソフトウェアの最新リソースを検索し、他のユーザーとコミュニケーションを図るためのオンラインコミュニティーです。革新的な思考と知識構築の扉を開く鍵である SIMULIA Communityは、いつでもどこでも知識を広げるために必要なツールを提供します。

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら