【第6章 想定設計を実現する】 なぜ想定設計か、何を想定するのか?
=========== 2017年3月7日に「第3回 自動車技術のためのCAEフォーラム」にて、「手戻りゼロに向けたMBD活用による想定設計の実現」というタイトルで講演いたしました。本章ではしばらくこの講演内容をまとめるという形で記事を紹介していきます。 ===========
当初第6章を、“計算品質の標準化”というテーマでまとめる予定でしたが、はてと?手段と目的を間違えてはいけないとはよく言われていることですが、“計算品質の標準化”は手段であって、決して目的ではありえないな、と気づきました。このあとちょっと禅問答的な言葉が続きますが、少し我慢してお付き合いください。
計算品質の標準化が、何を目指しているのかとよくよく考えなおしてみますと、標準化を実現するシミュレーションの結果を保証し、設計者に正しい判断をしてもらうためだということだ、ということになります。結果を保証するというのは必ずしも精度が高いということばかりではなく、仮に多少精度に甘さがあったとしても、結果として正しい判断の根拠を与えればいいのです。
特に開発プロセスの早期段階での正しい判断とは、後工程での手戻りを発生させない素性の良い基本設計案を設計者が保障するということです。さらりと書きましたが、現状はここがうまくいっていないために、さまざまは不具合が後工程で生じています。たとえば、
- 検討漏れにより、試作段階で何度も手戻り
- 後工程での設計変更により、想定外の基本設計見直し
- 目標性能が高すぎて、無駄な試行錯誤
- 特定の性能達成を優先し、振動騒音問題が解決できず、無駄な重量付加
- 市場や顧客の要望変更に対応できずに、競争力のない製品に
このような後工程でのトラブルは、基本設計の品質が悪いことが原因となっており、開発工程にもコストにも大幅な影響を及ぼします。すなわち、 “決定された設計情報のみを前提にして、状況把握と変更に対応できなかった想定の失敗”ということができます。
こういった不具合を生じさせないための素性のよい基本設計のあり方とは、たとえばこういうことではないでしょうか。
- 抜け漏れのない要求検証を行う
- 後工程での変動要因を想定しておく
- 目標性能の割り付け案を幅広く検討しておく
- 複合性能のトレードオフ性を事前検討しておく
- 要求変更の可能性を想定しておく
これを実現するためのあるべき姿を、“様々な設計情報の変動可能性を想定しておき、そのための多様な設計案の組み合わせをシミュレーションで事前検討しておくことで、実現可能な設計案を常に選択できる状態”と定義し、「想定設計」と名付けたいと思います。この想定設計が正しく実現できれば、後工程での手戻りを限りなく減らすことが可能な、素性のよい基本設計案を提供できることになるでしょう。
今回は、私どもが提唱する「想定設計」という新しい概念を紹介しました。次回以降は、どうすれば実現できるのかという話になっていきますが、このブログをずっと読み続けてきた方々には、何が書かれるかだいたい想像(想定?)できるのではないでしょうか。
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