ウェルネス産業の隆盛を背景に勢いに乗るスポーツメーカーやサプライヤーは、健康増進に取り組む人々を支援すべく我先にと画期的な製品を開発しています。新しいタイプのスポーツ用品が次々に登場するなか、消費者の関心が次の流行に移る前に素早く新製品を発売する上で、シミュレーションツールが重要な役割を果たしています。
ウェルネスは急速に巨大産業へと成長しています。たとえば、グローバル・ウェルネス・インスティチュートの調査によると、2018年の「ウェルネス エコノミー」の市場規模は4.5兆米ドルに達し、グローバル経済全体の倍近くのペースで成長しています。
活況を呈する市場の需要を取り込もうと、スポーツ用品メーカーは健康維持と幸福度向上のための活動に取り組みたい人々の希望を叶える斬新で面白いアプローチを模索しています。
スペイン・バルセロナを拠点とするエンジニアリング会社であり、自転車とバイクに関する案件を専門に扱うCEROの創設者Cesar Rojo氏は、次のように話します。「スポーツ関連の消費支出は確実に急増しています。案件の数は年々増えており、特に電動アシスト自転車(e-bike)分野の伸びが顕著です」
しかし、スポーツ用品の消費は季節性が強く、需要が高まる時期を逃すと代償が大きいため、メーカーやサプライヤー各社にとって素早く製品を供給できるかどうかは死活問題です。OakStone Partnersの試算によると、製品の発売が遅れることによって正味価額の15〜35%が失われる可能性があります。電化製品の場合、損失は見込まれる収益の50%にも達します。
e-bikeの台頭
スポーツメーカーやウェルネス関連企業が市場のトレンドにどう対応しているのかを示す好例がe-bikeです。e-bikeは漕ぐ力を補助するモーターとバッテリーを搭載した特殊な設計の自転車で、急速に人気が高まっています。
Statista.comの調査によると、2014年には世界で3,170万台のe-bikeが売れ、2023年には販売台数が4,030万台に達すると予想されています。なぜそこまで売れているのでしょうか?その理由は、ユーザーの生活に自然に取り入れられる製品の特徴にあります。
Rojo氏は次のように述べます。「2019年は超小型モビリティが台頭した年でした。通勤者は、仕事のスケジュールにうまく組み込むことで、フィットネス、健康、運動を生活に取り入れやすくなります」
e-bikeは便利で環境にやさしく、維持費が安いだけでなく、運動に関心はあるもののなかなか始められない人がもっと気軽に取り組み、健康を手にいれるきっかけにもなります。
イギリスのオリンピック自転車競技金メダリストVictoria Pendleton氏が、イギリスを拠点とする自転車小売業者Halfordsとの最近のインタビューで次のように語っています。「e-bikeは、通常の自転車で壁となる体力的な問題の克服を助けてくれるため、初心者が自転車を始めるのにも、しばらく乗っていなかった人が再び乗り始めるのにも打って付けです。まさにゲーム チェンジャーと言えるでしょう」
自宅でフィットネス
2020年になると、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延するなか、個人のフィットネスに不可欠なものとして自転車やe-bikeといったスポーツ用品が注目を集めました。世界中でロックダウンが敢行され、スポーツジムやレジャー施設が閉鎖されたため、人々は自宅で健康維持に努めるしかなく、運動を継続したい人にとって家庭用フィットネス用品は必須アイテムとなりました。
消費者とつながる
e-bikeは健康意識が芽生え始めた人々が運動を始めるきっかけになる一方、e-bikeや他のウェルネス商品は主にコネクティビティ機能を使って人々が運動を継続できるよう支援しています。
Rojo氏は次のように話します。「コネクテッド デバイスはもはやトレンドではなく、日常です。ユーザーが求めているため、あらゆるものがつながっていなくてはなりません。ユーザーは走行距離や消費カロリーを簡単に共有できることを望んでいるのです」
ドイツの自転車メーカーBosch eBike Systemsは、他の多くの会社と同様にコネクティビティをフィットネス ソリューションの不可欠な要素として取り入れています。同社のソリューションはスマートフォンを利用することでe-bikeをスマートバイクに変え、デジタル技術により運動の質を向上させます。ユーザーはハンドルバーに搭載された「スマートフォンハブ」にスマートフォンを取り付けることができます。独フランクフルトを拠点とするCOBI.Bikeが開発したアプリを利用すると、ナビや天気などの情報がスマートフォンに表示されるほか、フィットネス データも記録されます。スマートバイクはユーザーに新しい体験をもたらし、運動の習慣化を手助けします。
Bosch eBike Systemsのマーケティング・広報部長を務めるTamara Winograd氏は次のように話します。「消費者トレンドは常に変化するものですが、このデジタル社会においてコネクティビティはほぼ不変な要素です。当社はスマートフォンハブにより、e-bikeユーザーにコネクテッド バイクという新たな体験と多くの便利な機能を提供しています。たとえば、フィットネス愛好家はスマートフォンに入れたCOBI.Bikeアプリを利用し、目標を設定したりパフォーマンス、頻度、消費カロリーなどのデータを自転車に乗りながらリアルタイムで確認したりできます。Bluetoothで心拍数モニターと接続することもでき、Apple Health、Google Fit、Stravaなどのフィットネスやヘルス サービスと連携してトレーニング目標の達成をサポートすることもできます」
熾烈な製品開発競争
消費者が牽引するウェルネス業界では、タイミングが極めて重要です。目まぐるしく変化するトレンドと季節的な要因によって業界が動かされるため、競合に先駆けて適切なタイミングで新商品を発売することが不可欠です。新商品の発売が1カ月遅れただけでも、そのシーズンの収益に壊滅的な影響を与えかねません。韓国のスタートアップ企業Hycore製の画期的なタイヤと内蔵バッテリーを採用し、折りたたみ式e-bikeを開発した韓国企業INNO Designは、市場投入までの期間が自社製品の成功に極めて重要であることを理解していました。品質を損なうことなく短期間で確実に製品を開発するため、同社CEOのYoungse Kim氏は設計チームによる設計アイデアの共有方法と設計プロセスの実行方法の改善に注力しました。
「CAD、エンジニアリング、製造技術によって物事を非常に簡略化できます。今では設計とテストの大部分をコンピューターが行ってくれます。その結果、各工程に要する時間が大幅に削減されており、製品開発のスピードが上がり続けています」
Cesar Rojo氏 CERO Design
彼が選んだソリューションは、バーチャル設計とシミュレーションのプラットフォームです。「バーチャル設計は実際に製造を開始する前に行うべき極めて重要なプロセスです」とKim氏は言います
Kim氏が導入したプラットフォームのおかげで、設計者は手書きのスケッチを素早く3D化し、仮想環境でテストすることができます。このデジタル アプローチにより、設計チームは設計した形状や構造が機能し、デザイン的にも美しいものであるのか、実際に形にする前に直ちに確認することができます。こうしたバーチャル プロトタイピングにより、物理的な試作品のトラブルシューティングを行う必要がなくなるため、製品化に要する期間を40%も短縮することができます。CERO DesignのRojo氏もバーチャル プロトタイピングのこの利点に気づいていました。
同氏はこう述べます。「CAD、エンジニアリング、製造技術によって物事を非常に簡略化できます。今では設計とテストの大部分をコンピューターが行ってくれます。その結果、各工程に要する時間が大幅に削減されており、製品開発のスピードが上がり続けています」
プラットフォームのクラウド ネイティブな機能が最大のメリットの1つであると、INNO Designの製品設計チーム マネージャーのYoungmin Kang氏は言います。「多くの人のアイデアを試してみて、結果を共有し、コラボレーションできます。デザインが成功するためには、多くの人の協力が不可欠です」
バーチャルの利点
ウェルネス ブームが広がるなか、スポーツ用品会社は消費者のニーズを満たし、消費者が自らのフィットネス目標達成に向けてモチベーションを保てるような画期的な製品でトレンドを牽引しようと取り組んでいます。e-bikeはそうした製品の1つに過ぎず、2020年にはウェルネス商品の開発レースに多くの企業が参入すると予想されます。INNO Designのように、優れた業績をあげたい企業にとってバーチャル プロトタイピングは非常に重要な開発ツールになるかもしれません。
Top image: Bosch eBike Systemsのスマートフォン ソリューションは、デジタル技術を利用してユーザーの運動の質を高め、スマート機能で運動の継続をサポートします。(画像 © Bosch)