昨今、消費者はスパリゾートのようなバスルーム(トイレ、洗面台、浴槽、シャワーを含む水回り全般)を求めていますが、単に美しさだけでは十分ではありません。新型コロナウイルスの感染拡大以降、環境悪化に対する意識が高まり、消費者はより衛生的でありつつ、環境負荷のかからない製品を求めるようになっています。このような製品に関わる革新的技術の発見・実現に向けて、メーカー各社はますますテクノロジーに着目しています。
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ある調査では、人が一生の間にバスルームで過ごす時間を累計すると2年以上にのぼるという試算がでており、バスルームは家の中でも重要な場所の一つです。新型コロナウイルスの拡大以降、気候変動などの環境問題に対する意識の高まりも相まって、消費者はより衛生的で環境に配慮した製品を求めるようになりました。
米国テキサス州を拠点とするYounique Designsのオーナー兼主任インテリアデザイナーであり、米国のNational Kitchen & Bath協会のメンバーでもあるシア・プマレホ氏は次のように語ります。「新型コロナウイルスの影響で、多くの人が潔癖症になったように思います。物に触れると細菌が付着してしまうため、接触機会を失くせば感染の可能性を減らせます。この解決策として、例えば非接触技術によって自動化された蛇口や水洗トイレ、ソープ・ディスペンサー、ハンドドライヤーなどがあります。また、米国ノースカロライナに本社を持つMicrobanの製品のように、タイルや天板に抗菌加工を施す技術も急速に普及しています。こうした製品は、従来は病院などで採用されていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大後は住宅市場でも普及しつつあります」
また、サステナビリティの観点では、水やエネルギー、トイレットペーパーを節約することで、家庭における環境フットプリントを大幅に削減させることができます。例えば、米国地質調査所による概算では、一つの蛇口から1分間に10滴の水が落ちた場合、1日に約3.8リットル、1年で約1,300リットルの水が無駄になると推定しています。しかし、蛇口の水漏れを検知する技術を搭載することで、蛇口が完全に閉められていないことを利用者に伝え、無駄を減らすことができます。
トイレ周りのデザインや製品を扱うフランスの企業、Troneの設立者兼CEOであるユーゴ・ボルペイ氏は「単純に目新しい機能を追加するのではなく、テクノロジーをしかるべき理由の下で活用すれば大きな効果をもたらします」と語ります。ボルペイ氏は、日本の多くのトイレで採用されている温水洗浄便座は、トイレットペーパーの消費量を減らすことができると指摘しています。また、シャワーヘッドの噴霧ノズルをナノバブル対応に改良することで、水流の分散や拡散を制御し、無駄の削減につながります。
シミュレーションを活用して効率性に優れたデザインを実現
前述のようなイノベーションには、設計段階からユーザーエクスペリエンスに至るまで、テクノロジーが重要な役割を果たします。例えば、バスルームで使用されるデジタルテクノロジーによりバスルームやサーモスタットを制御してエネルギーを節約したり、蛇口から出る水量を管理したりできます。また、バスルームの中の鏡に様々なエンターテインメント・コンテンツや情報を投影することも可能になります。
バスルーム設備をより効率的に設計する上で重要な役割を担うのが、シミュレーション・ソフトウェアです。セラミック製品の構造耐力1、トイレの水流のシミュレーション、いくつものスマート家電の電磁場が互いに干渉することはないか、各種規格への準拠状況に至るまで、シミュレーション・ツールは多くの場面で活用できます。この活用により、メーカーは製品開発プロセスの早い段階で設計を最適化・改善し、市場投入までの期間を短縮し、コスト削減を実現できます。例えば、バーチャルモデルを使ってトイレの洗浄水やシャワーノズルの水流のシミュレーションをすることで、メーカーは、設計において効率性を阻害している部分を特定し、改善することができます。
バーチャルモデルを活用することで、メーカー各社は、サステナビリティを重視できるようになります。例えば、トイレや洗面台などのバスルームに使われるセラミック製品の、焼成時の収縮率を予測することができます。この工程では通常、2~3回ほど型枠を製作する必要があります。しかし、バーチャル環境でモデルを作成して収縮率のテストを実施すれば、設計プロセス全体のコスト削減だけでなくプロトタイプを制作する工程が不要となり、材料の無駄を減らすことができます。
日常生活で直面する課題に取り組み、快適さを追求する
消費者にとって重要なのは、テクノロジーを駆使した便利な機能をバスルームに搭載することだけではありません。バスルーム消費者は、そうした機能が目立たないように備え付けられていることも望んでいます。
ボルペイ氏は次のように説明します。「バスルームで過ごす時間は、テクノロジー中心の日常から逃れられる、一日の中でも特別な時間です。いっぽうでテクノロジーを活用すれば、こうした束の間の「つながらない」安らぎを大切にしながら、より快適なバスルームを実現できるでしょう。例えば当社では、オゾンのわずかな匂いさえも取り除くオゾン脱臭の特許技術をトイレに組み込むことを検討しています。目新しい仕掛けから入るのではなく、私たちが日常的に直面している課題にまず取り組むことで製品を生み出そう、という発想です」
もう少しテクノロジーが目立っているほうが好みだ、という消費者向けの製品もあります。キッチン&バス業界を代表する米国Kohlerが販売する「Numi 2.0 Intelligent Toilet」には、暖房便座やBluetoothスピーカー、カラフルな間接照明、さらにはAmazon Alexaが搭載されています。また、TOTOの「Flotation Tub」は入浴中に体重を意識させない「無重力状態」を再現する製品で、エアジェットや幻想的なLEDライト、軽く触れるだけで作動するコントローラーも搭載されています。世界のスマートバスルーム市場は2020年には44億6,000万ドル規模に達しており、今後5年間は力強い成長が予想されています。
スマートバスルームのテクノロジーは、住宅所有者に向けて環境に配慮した様々な選択肢を提示するだけでなく、より衛生的でリラックスできる空間を提供します。シンプルなバスルームから、様々な機器が搭載された近未来的なバスルームまで、理想のバスルームを設計するための選択肢はかつてないほど広がっています。
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本記事はダッソー・システムズのCompass Magazineからの抄訳です。オリジナル記事(英文)はこちら
1建物の構造部が、建物・家具の重さや地震・風圧などの垂直、水平方向の力に耐える力のこと。