BIM(ビルディング インフォメーション モデリング)の普及が進む中、普及の段階は3Dによる見える化、干渉チェックの段階からもう一歩先の段階に進んできています。 カナダに本社があり、ダッソー・システムズの3DEXPERIENCEプラットフォームをベースとしたBIMおよびバーチャル・デザイン・コンストラクションの運用とサービスを行っているCadMakersは世界中で200以上のプロジェクトを展開し製造業などで行われている工業化手法の導入により、過去の手法では達成できなかった素晴らしい効果を上げています。ここでは18階の高層木造ビルを自動設計・製造・施工連携することで9.5週で施工した脅威のROIの事例を紹介します。
カナダのバンクーバー近郊に位置するブリティッシュ・コロンビア大学のBrock Commons – Tallwood House と呼ばれる学生寮は、18 階建ての高層住宅に木材の積層構造材を活用し、バーチャル・デザイン・コンストラクションによるモデリングや、プレファブの建築部材を現場で組み立てる工法を利用し、同じ規模のビルを従来のコンクリート構造で建設するよりも工事期間をおよそ 70% 短縮し、コストも削減できました。
プロジェクト関係者が事前に施工プロセスを検証してから施工を展開。大幅に手戻りを削減。
バーチャルモデルによる建築生産の工業化
CadMakers 社は施工と製造を一体化した技術を提供する企業であり、建設と製造のバリューチェーンを連携して問題を解決し、プロセスを最適化します。Brock Commons – Tallwood House プロジェクトでは、同社はバーチャルなゼネコンの役割を担い、設計を担当した Acton Ostry Architects 社や施工管理会社の Urban One Builders 社、オーナー企業の UBC Properties Trust 社のプロジェクト管理部門など、すべての関係者と緊密に連携しました。ダッソー・システムズの 3DEXPERIENCE® プラットフォームのクラウドを利用して 3D モデルを作成し、施工シミュレーションを実行して建築資材やデザイン・コラボレーション、施工プロセスを改善するイノベーションを後押ししました。
統合された 3D モデルでコラボレーションを加速
CadMakers 社がCATIAで作成したバーチャル 3D モデルは、プロジェクトに携わるさまざまな関係者からのデータを一体化して表示できるため、関係者は理想的な環境で計画を細部にわたって詳細に見直すことができます。CadMakers 社は、クラウドの 3DEXPERIENCE プラットフォーム上の一つの場所にすべてのデータを集めました。アクセス許可されたユーザーは時間や場所を問わずデータを表示でき、データはリアルタイムで的確に更新されます。これにより、建設業界に共通する問題、すなわち一貫性のない情報が原因となり発生する無駄や不整合を解決しました。
CadMakers 社CEOのJavier Glatt 氏は次のように語ります。「設計や施工を早い時期に、完全に統合された 3D モデルに詳細なレベルでまとめることができれば、プロジェクトの可視化という点では全員に同じ情報を提供することができ、調整の難しさやコミュニケーション・ミスのリスクが軽減されます。その結果、全員が一丸となって Tallwood House の作業に取り組むことができました。建築プロジェクトでは関係者が未調整のまま作業を進めることがよくありますが、調整して取り組むほうがずっと効果的なのです」
CadMakers 社のJustin Khabra 氏は次のように付け加えます。「クラウドを利用すると作業がスムーズに流れ、時間やリソースも適切に管理できます。本当に忙しくて手が離せない時は、他の国やロケーションの同僚が作業を引き継ぐことができ、後で私に戻してくれます。」
コアの施工手順を3Dにより検証することでより効率的な施工工程を定義。
3D モデルで工場での組み立て作業を加速
10 分の 1 ミリメートルの精度の CATIA モデルを使えば、配管やシャフト、ケーブルを通す貫通口の場所や大きさを決めやすくなり、クリアランスや必要な空間ボリュームも確保できます。データは現場以外の場所で建築部材を製造する建材メーカーにも提供されました。 Tallwood House のマスティンバーの骨組みには、CLT ( 直交集成板)パネルや積層補強構造木材が使われました。データは工場のコンピュータ数値制御(CNC) の溝かんな(くり抜き加工機) に直接送信され、そこで精密な穴あけ加工が行われました。こうした木質建材は、建設現場に届いた時にはすでに組み立てられる状態になっており、たとえば配管のための貫通スペースがすべて正確に確保された状態で加工されていました。
Urban One Builders 社のKarla Fraser 氏は次のように語ります。「3D モデルを作成してあらゆるデータを表示でき、仕様をすべて確認し、すべての部材がどこで使われるのか正確に知ることができます。床を貫通する配管系統はすべてミリメートル単位の精度で設置できるように調整され、すべてが適正な位置に正確に配置されます。そのため現場では追加作業はいっさい発生せず、労力を大幅に削減できます」
VRを使い施工性を事前確認 施工のプロジェクト管理をシミュレーションで最適化
Tallwood House のバーチャルモデル作成に加えて、CadMakers 社はクラウドのDELMIA を利用して施工プロジェクトの現場プロセスをシミュレーションしました。これによりプロジェクト管理者は、3D 環境で問題を特定できるようになりました。従来の手法では、現場で発生した問題の解決には多くの時間とコストがかかりました。たとえば、木の部材に関わる作業スペース確保と据付け作業のために、他作業のスケジュールとスペースを調整するシナリオを試してみました。これは、木の部材は雨風が当たる環境に置いておけないためです。また、階段の設置工事の遅れは、プロジェクトの他の作業スケジュールに大幅な影響を及ぼすこともわかりました。
Urban One Builders 社の Fraser 氏は次のように語ります。「もともとは階段がクリティカルパスになるとは思っていませんでしたが、モデルを作成してみて確信できました。シミュレーションしていなければ現場で知ることになり、対処方法の検討は簡単ではなかったでしょう」。Khabra 氏は Tallwood House プロジェクトで、4D の干渉チェック作業を行いました。施工プロセスをデジタルで再現することで、干渉箇所がわかります。また、配管部材が現場に搬入されていないのに配管工が来てしまうなど、作業手順の問題が発生することもあります。CadMakers 社は現場で問題が発生する前に、こうしたことをバーチャル環境で把握します。
Khabra 氏はさらに説明します。「私どもでは従来の施工プロセスを製作工程を踏まえた製造プロセスに細分化しています。こうしたシミュレーションの素晴らしいところは、その根本にある各部材の属性情報です。この手法では、クレーンや部材がどのように空間を移動するかお見せできます。そこでは、複数の対象物の位置や移動の軌跡を認識します。クレーンがどのくらいの速さで動くか、トラックの積載量もお見せできます。作業を行う前に現場での設備やリソースの限界も把握しています。シミュレーションは途中で止めることができ、クリアランスを計算し、測定を行い、課題解決の対策を確かめることができます」
将来を見据えた施工モデル
プリファブ工法の資材や工場と連携したプロセス、シミュレーション手法を利用することで、Tallwood House は 9.5 週間という驚異的な工期で完了しました。これは 1 週間で 2 層分を組み立てるペースであり、全体ではおよそ 3 ヵ月、工期を前倒しできました。業界がこの新しいやり方で経験を積んでいけば、以降のプロジェクトでは工期短縮やコスト削減がさらに進むと Glatt 氏は話しています。さらに先を見据え、無駄をなくして工期を短縮し、より環境に配慮した建物の建設を目指す必要があると考えています。
BIMが見える化の段階から設計・製造・施工の効率化にシフトしており、製造業の先進国である日本でも従来の枠組みに取らわれない、新たな建築手法による展開が期待されています。
CadMakersの事例について詳しくはこちら(英語)