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サイエンスDecember 11, 2020

バーチャルでひも解く世界 2:英知を蘇らせる「ダ・ヴィンチ リボーン プロジェクト」

ダ・ヴィンチの手稿を3D環境で再現するプロジェクト「OPEN CODEX」から、オルニソプター(鳥形飛行機)をご紹介します。
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Avatar 小林 敦志 (Atsushi Kobayashi)

ダッソー・システムズで産業機械業界のコンサルタントをしております小林 敦志です。世界140か国、2万人が働いている当社では、自動車・航空・海洋・産業機械・医療など様々な業界において多岐にわたるプロジェクトを動かしています。この「バーチャルでひも解く世界」では、主に海外のプロジェクトや日々のニュース、または当社ならではの情報を、私のセレクションでお伝えしながら、日々変容する社会・製造・ITのトレンドを皆様に共有していきたいと思っています。

今回のテーマは、イタリアのルネサンス期を代表する芸術家、技術者であるレオナルド・ダ・ヴィンチです。ダ・ヴィンチが活躍していた15世紀、日本では足利義政が東山慈照寺(銀閣寺)の造営を行い、一休が大徳寺住職になった時代でした。テクノロジーの観点では、手工業が発達し、市場が成立して、農具や織物、紙などの特産品が市場で売られるようになりました。京都の西陣織が、この頃に作られたそうです。日本では西陣織の機械ができたころ、イタリアにいるダ・ヴィンチは、解剖学の知識を活かし今で言う飛行機やヘリコプター、潜水艦、自動車など、工学的な発明をしていました。彼の工学での発明は今日でも使われる技術にも大きく影響を与えています。

500年以上経った今でも、ダ・ヴィンチの作品や研究は世界中で注目されており、昨年には、彼が遺した7,200枚の手稿を基にその生涯と天才性に迫った書籍が発刊されています。特に鳥に関する内容は現在でも学ぶべき研究レベルに達しており、今でいうバイオミミクリー(生物の機能や生体から着想を得ることで、日本では新幹線の先頭車両が有名です)の先駆けとも言えます。ダ・ヴィンチは、高速度撮影がなかった時代にかかわらず、鳥の空中での移動の手段を研究し、ハンググライダーやヘリコプターのような飛行器具の概念図を制作しています。

ダ・ヴィンチのアイデアの中には、現代の工学で検証すると彼の意図どおりに機能しないものや、少しの改善・検証で動作するものもあり、これまで多くの研究者が、彼のアイデアを模型として再現し、実際に飛翔するかどうかを検証してきました。ヘリコプターの起源となった「空を飛ぶ機械(エアスクリュー)」は、全日空のロゴマークとなっていたこともあります。当社でも2012年から、ダ・ヴィンチの手稿を3D環境で再現するプロジェクト「OPEN CODEX」を支援しています。同プロジェクトでは、アメリカやイギリス、メキシコ、フランスなど、世界中の技術者が3DEXPERIENCEプラットフォームを活用して、ダ・ヴィンチのアイデアをバーチャルで検証しようと、取り組んでいます。

バーチャル化したアイデアのいくつかは、当社のYouTubeチャンネルで解説付きで紹介されています。まずは一つ目の「ダ・ヴィンチ・リボーン エピソード1:オルニソプター」をご覧ください。

「オルニソプター」は、見たままとして「鳥形飛行機」と呼んでおきます。この鳥形飛行機の手稿は、ダ・ヴィンチが1488年に最初に描いたとされており、設計にあたり、飛翔できる生物の羽ばたきの仕組みや骨格などを詳しく調べています。Yo動画をよく見るとわかりますが、ダ・ヴィンチが考えた構造は単純に翼を上下させるものではありません。翼自体を中程で変形し、先端部と根元とで異なる羽ばたきをさせ、揚力と推力を同時に得られるような、現代の飛行機とは異なる構造をしています。ダ・ヴィンチの手稿からは鳥のような飛翔できる生物の構造を理解していたことは想像できますが、その際に必要な動力(当時は動力を生成する機械がありませんでしたので人間の筋力になります)をどこまで把握していたかは、読み解くことができません。そこで、手稿をもとにバーチャルの環境で再現することで、ダ・ヴィンチの設計を現代の私たちの視点から工学的に理解することができます。

実際に多くのエンジニアがこの手稿に関心を寄せており、海外のコミュニティサイトでも、SOLIDWORKSのユーザー達がダ・ヴィンチの手稿をもとに、非常に詳細なバーチャルモデル化を実現しています。特に人間が操作したであろう機構部分も正確に再現していて、その精細さにはどれも驚くばかりです。

出典:OPEN CODEXプロジェクト

このような実際にはないモノ、設計できなかったモノ、設計できたであろうモノを、工学的な観点からバーチャルな環境で設計し、その動きを確認できるのは、デジタルが持つ強みかと思います。今まで博物学的に模型やCGで構造を再現するというプロジェクトを見たことはありますが、製造業として、様々なモノをバーチャルで再現して、物理的な試作と同じように構造、材料力学、操作性、実用性などを確認したという話を、これまで耳にしたことがありません。バーチャルな環境で動作まで確認するという試みに、興味を引かれる方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、OPEN CODEXは、当社のオープン・イノベーション・ラボ「3DEXPERIENCE Lab」を通じて実現したプロジェクトであり、3DEXPERIENCE Labでは、世界中から新しいアイデアを募集しています。日本からでも応募可能です。実現したいアイデアをお持ちの方は、是非ご応募ください。

海外の様々なトレンドを紹介する「バーチャルでひも解く世界」、いかがだったでしょうか。次回は、さらに次元を”飛翔”し当社の宇宙に関するプロジェクトをご紹介する予定です。産業機械業界担当コンサルタントの小林でした。

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