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Design & SimulationOctober 2, 2025

タイヤの構造アンテナエンジニアリング

この高度に統合されたMODSIMワークフローは、パラメトリックCADと高忠実度のマルチフィジックスシミュレーションの間に関連性をもたらし、タイヤの理解を深めるために役立ちます。
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Avatarダッソー・システムズ株式会社

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※本ブログは、SIMULIA Blog (英語版)で既に発表されたブログの日本語参考訳です。

ある特定の顧客層向けに、タイヤメーカーは毎年新しいタイヤを販売するだけのビジネスモデルから離れつつあります。多くの大規模なフリートプロバイダーが、「タイヤ・アズ・ア・サービス」の考え方を採用し始めています。これは、歴史的に顧客と単一の接点しか持たなかった非常に古い業界における重要な変化です。

タイヤ・アズ・ア・サービス(Tire as a Service):タイヤのOEMは、単にハードウェアを販売するのではなく、モビリティの稼働時間を提供するモデルに移行しています。このサービスを効率的かつ価値のあるものにするために、タイヤは単に定期的なスケジュール(例えば、12ヶ月ごと)で交換されるのではなく、実際に摩耗が進んだ時点で交換されます。

この新しいビジネスモデルでは、各タイヤの状態を継続的に監視する必要があります。この情報を収集することで、意思決定の基盤が形成されます。タイヤ内部および周囲には、稼働時間、圧力、過渡的な負荷などを測定する為の様々なセンサーを設置することができます。このデータを読み取るには、ワイヤをタイヤに接続することが現実的でないため、ワイヤレス通信が不可欠です。タイヤの内部に戦略的に配置されたアンテナは、迅速で非侵襲的にデータ収集することを可能にします。車両が携帯型読み取りデバイス所持者や、または頻繁に利用されるガソリンスタンドに設置された固定型の読み取りステーションを通過するたびに、タイヤからクラウドにデータが送信され、継続的な分析に利用されます。

問題点

タイヤは常に荷重と大きなストレスの下で機能し、あらゆる天候条件の中で、さまざまな質の道路を数万マイル走行することが求められます。タイヤの寿命、そして今回の場合はその中に取り付けられたアンテナの寿命を正確に予測することは、物理的なテストではほぼ不可能です。ここで、高精度で緊密に連携したマルチフィジックスシミュレーションが重要な役割を果たします。

タイヤトポロジー

タイヤは、みなさんが考えるような、数千マイルごとに空気を充填する単なるゴム製のドーナツではありません。その構造は非常に複雑な多層構成になっています。これらの層は、ナイロン、スチール編組、さまざまな種類のゴムなどの異なる素材で構成されています。この複雑さを反映した正確な仮想モデルが、詳細なマルチフィジックスシミュレーションを行うために必要です。さらに、その性能と動作を評価したいアンテナが追加されます。アンテナは、通常タイヤのサイドウォールの内側に取り付けられますが、トラック用のタイヤではサイドウォールがスチール製で強化されていることが多いため、アンテナはファラデーケージに閉じ込められないように製造過程でタイヤに埋め込む必要があります。

アンテナは、例えばデータシートに基づいてゼロから設計することも、Antenna Magusから選択することもできます。Antenna Magusは、350以上の異なるアンテナトポロジーを収録したインタラクティブなカタログで、さまざまな用途に対応しています。指定のアンテナを直接調整し、その性能やアンテナ特性について軽量な分析を行うことができます。このカタログは、例えば使用ケース、周波数範囲、またはパッケージングの制約で簡単にフィルタリングでき、特定応用に適用可能なアンテナの設計空間を迅速に絞り込むことができます。今回の場合、私たちは800〜1000 kHzの周波数範囲で動作する平面アンテナが必要です。そのため、この用途に適したメアンダアンテナを選択しました。

シミレーション・シナリオ

タイヤはその寿命を通じてかなりのストレスを受けています。タイヤ空気圧を定期的にチェックしていない場合、空気圧が低下し、地面と接触している部位が変形する可能性があります。その場合、取り付けられたアンテナも変形します。この変形は、アンテナの直接的な性能と機能性、さらにはその寿命にも重大な影響を与える可能性があります。

完全なタイヤアセンブリと設置されたアンテナのバーチャルツインがあるため、最悪の負荷条件での解析を行います。これは、タイヤ回転によってアンテナがタイヤの底部に位置し、最大変形が想定されるケースとなります。この解析は、3DEXPERIENCEプラットフォームの「Tire Analysis Engineer Role」を使用して実行されます。

アンテナは平面構造として設計・最適化されており、初めは変形していないタイヤの内ライナーに取り付けられます。次に、完全なタイヤアセンブリとアンテナに変形ベクトルを適用し、完全に変形した試験対象デバイスを生成します。

電磁界解析

変形したアセンブリは、直接的に電磁界シミュレーション環境に取り込まれ、そこで通常のシミュレーション設定が行われます。主な手順は、複雑なタイヤアセンブリとアンテナに適切な材料特性を割り当てること、励振および境界条件を定義すること、ソルバーの設定、そして局所的なメッシュの細分化を含みます。

この問題では、比較的大きな構造物上に変形した薄型パネルアンテナがある特徴から、マーケットリードする伝送線行列(TLM)ソルバーを使用することにしました。オクトリーメッシュの使用によって、アンテナ周辺では非常に詳細なメッシュを適用して形状を忠実にメッシュ化する一方で、アンテナから離れるにつれて自動的にメッシュを削減することができます。結果として得られるメッシュ数は2500万セルで、そのシミュレーションを効率的に実行するために、クラウドコンピューティングとGPUアクセラレーションをフル活用します。これにより、タイムドメインソルバーを使用してシミュレーション時間を大幅に短縮することができます。

CST Studio Suite の強力なポストプロセッシングエンジンにより、関連する可能性のあるさまざまな出力を生成することができます。この場合、通常のアンテナ関連のKPI(例えば、散乱パラメータや遠方指向性)に加えて、タイヤが手持ちの読み取りデバイスや前述の読み取りステーションと、正常に通信可能な距離に関心があるかもしれません。これらは簡単に設定して、視覚化することができます。

プロセスオートメーション

構造シミュレーションと電磁シミュレーションの両方が完全に設定され、テストが終了した今、緊密に連携したマルチフィジックスの実験計画法を実施したいと考えています。タイヤの1つの回転角度のみ解析するのではなく、Process Composerを使用して2つの物理シミュレーションを結びつけ、すべての回転角度に渡りパラメータースイープを実行し、アンテナがあらゆる状況下で正常に機能することを確認出来ます。

寿命予測

最後に疲労について言及します。既に述べたように、タイヤアセンブリは長期間に渡り、荷重を受け続けます。メアンダアンテナの詳細構造は、特に疲労問題に対して脆弱です。道路の穴(ポットホール)を避けられずに通過すると、その衝撃が金属構造に亀裂を引き起こし、その亀裂は時間とともに広がり、最終的にアンテナが壊れ、機能しなくなる可能性があります。疲労解析は、構造が故障する前にどれくらいのサイクル数とどのくらいの期間耐えられるかを予測するのに役立ちます。これは、タイヤ交換のスケジュールを決定する上で重要な指標となります。詳細なテレメトリ情報により、OEMが各タイヤについて個別の情報に基づいた決定を行うことが出来るようになります。

サマリー

要約すると、この高度に統合されたMODSIMワークフローは、パラメトリックCADと高精度なマルチフィジックスシミュレーション間に関連性をもたらします。これにより、さまざまな設計パラメータと、それらが現実的な負荷条件下でシステムのパフォーマンスに与える影響について、他に類を見ない理解が得られます。CADでのシミュレーションに向けた下流プロセスのための「真実の単一の源」があるため、密接に結びついたマルチフィジックス解析を行い、構造の変形が取り付けられたアンテナの電磁性能に与える影響を評価できます。これらすべては、製品の理解を深め、最適化された設計を大幅に短縮された時間で実現することにつながります。


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