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Design & SimulationOctober 10, 2025

シミュレーションによる電磁波工学の完成, Scott Piper

SIMULIA は、シミュレーションを活用して業界の未来を形成する手助けをしているエンジニアリングリーダーや学術研究者と協力できることを喜ばしく思います。本日は、自動車業界の電磁波工学エンジニアであり、2023 SIMULIA チャンピオンでもある Scott Piper 氏と電磁両立性の課題にシミュレーションをどのように活用しているかについてお話ししたいと思います。
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Avatarダッソー・システムズ株式会社

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※本ブログは、SIMULIA Blog (英語版)で既に発表されたブログの日本語参考訳です。

近年、あらゆる種類の産業に大きな変化が見られますが、おそらく最も急進的な変化は交通とモビリティ領域で起こっています。

「自動車業界では 2 つの大きな革命が起きています。それは、さまざまな推進システムを使用した車両の電動化と、センサーを使用して自動車が自律的に走行できるようにする自動運転の開発です」と電磁波工学エンジニアのScott Piper氏は述べています。 「これら両分野は、これまでに成し遂げられたことのない成果を達成する機会をもたらします。」

これらの高度なテクノロジーを迅速に市場に投入するには、メーカーがエンジニアリング開発サイクルを短縮することが不可欠です。

「エンジニアリング設計サイクルが長ければ長いほど、最新技術を実用化する機会が減ります」とPiper氏は述べています。 「車の開発に10年かかるとしたら、その車には10年前のテクノロジーが残っていることになります。一方、企業が特定のテクノロジーを初めて市場に投入する場合、競合他社が持っていないものをお客様に提供することになります。私たちの目標は、設計サイクルを短縮し、最新のテクノロジーを人々の手に届けることです。そのためには、車両を設計し、短期間ですべての要件を確実に満たす方法を見つける必要があります。」

2023 SIMULIA チャンピオン Scott Piper

エンジニアリングサイクルのシフトレフト

多くの場合、製造業者が必要なスピードを達成するのを妨げる主要な障害が存在しています。

「多くの自動車メーカーの現在のプロセスは、通常は手作業で、さまざまなレベルのプロトタイプ部品を使用してテスト車両を製造することです。」とPiper氏は述べています。 「その後、彼らはこの手作りの車両をテストして、すべてが正常に動作することを確認します。そうでない場合は、調整して何が問題だったのかを突き止める必要があります。これは非常に時間と費用がかかるプロセスです。しかし、エンジニアが、それが機能するかどうかを確認するために実際に試作することなく、設計コンセプトのみに基づいて設計の良し悪しを判断できれば、製品をより早く市場に投入するのに役立ちます。」

統合モデリングとシミュレーション (MODSIM) は、車両設計エンジニアがまさにそれを行えるようにします。仮想世界で車両設計をテスト、分析、修正することで、設計サイクルの早い段階で問題を特定し、解決できます。レフトシフトとして知られるこのプロセスにより、設計を正しく行うために必要な時間、コスト、材料を大幅に削減できます。

しかし、Piper氏にとって、シフトレフトは車両の目に見えるコンポーネントのモデリングやシミュレーションを超えたものです。電磁波工学のような分野を専門とする場合、目に見えない、多くの場合未知の特性を扱うことになります。

「デザインには常に、意図しない側面が含まれています。本当は望んでいないけれど、物理的に必ず存在する必要があるというものです。」とPiper氏は語ります。 「それが私たちの直面している大きな問題です。」

あらゆるものがアンテナとなる

電磁両立性 (EMC) がその好例です。 「電気装置を設計すると、車内の無線技術に干渉する可能性のある電波が放射される恐れがあります。」とPiper氏は言う。 「EMCは、これらの電子部品と電磁波の間の相互作用に注目しています。」

たとえば、車両がラジオ局の前を通過するときなど、高レベルの無線周波数干渉にさらされたときに、ブレーキ制御やパワーステアリングの電気系統が適切に動作することを確認することが不可欠です。車両に含まれるすべての配線やその他の伝達経路の中で、発生し得る EMC 問題は複雑であり、多くの場合不明です。

「考えてみれば、すべてがアンテナなのです」とPiper氏は指摘します。 「車のとある配線の1 つをアンテナと呼ぶかもしれません。それが、その様に振る舞うよう設計されているからです。しかし、他のすべての配線、さらにはシャフト、冷却液ライン、車自体がアンテナになる可能性があります。これらのアンテナがどの帯域を拾うのか、大量のノイズを持ち込むのか、それとも外部に送信するのかはわかりません。通常、これは物理的なテストを通じて発見されます。」

以前は、物理的な製品に無線周波数の干渉電波を照射して、適切に動作することを確認する試験項目が含まれていました。

「EMC問題のリスク軽減するための設計ガイドラインがあり、私たちはそれを可能な限り事前に実行します」とパイパー氏は述べています。 「しかし、状況に応じた物理についてすべてを知らなければ、確実にそれを行うことは困難です。」

干渉を抑制するシミュレーション

シミュレーションは、状況に対する理解を大いに深めます。製品を構築する前に EMC 準拠の設計を行うため必要な貴重な情報をエンジニアに提供します。

「自動車内の特定の配線は、その電磁特性を考慮せずに、特定の目的を果たすように設計されています」とPiper氏は言います。 「電磁界シミュレーションツールを使用すると、これらのランダムな構造が車両内でどのように動作するかを定量化できます。どの周波数にチューニングしているかを正確に知ることができ、また、別の周波数にチューニングするように調整する方法さえも把握することができます。」

Piper氏 は SIMULIA の CST Studio Suite 技術を使用して、車両の幾何学的側面 (すべての隠れたアンテナ) を捕捉し、意図しない相互作用の電磁特性を解明します。これにより、時間とコストのかかる再設計や再構築を行わずに、車両が物理テストに合格することが保証されます。

「私はかなり長い間 CST 製品を使用してきました」とPiper氏は言います。 「EMC 作業において、ブロードバンド問題への取り組みに長けたツールを持つことは貴重です。 1 回のシミュレーションを実行するとフルスペクトルが得られますが、他の方法ではすべての周波数を個別にシミュレーションする必要がある場合があります。 CST に回路ソルバーが統合されていることも気に入っています。配線をシミュレーションする場合、端部の回路負荷が特性に影響を及ぼします。例えば、最初に機構部品全体をシミュレートした後、Design Studioのポスト処理によって配線端の負荷を変更できます。」

未知を明らかにする

シミュレーションは、さまざまなシナリオを試すことを可能にし、車両内の電磁特性についてより深く学ぶ手助けをします。しかし、多くの未知数が関与している場合、適切な質問をすることが重要となります。 CST Studio Suite は、これらの未知数をどのように解読するのに役立つのでしょうか?

「多くの人々は、EMCシミュレーションは不可能であると言います。なぜなら、未知数が多すぎるからです。」とPiper氏は述べています。 「特定の周波数で動作するようにアンテナを設計する場合、すべてが意図的に設計されています。 EMCでは、望まない様々な相互作用が発生し、それらが問題を引き起こすかどうかを判断しなければなりません。これは非常に自由度が高く、シミュレーションプログラムにとって困難な点です。」

適切なタイプの質問をすることが助けになります。たとえ正確に尋ねるべき質問が分からなくてもです。

「具体的な答えが引き出せるような質問をすることが重要です」とPiper氏は話します。 「シミュレーションは、アイデアを検証したり、特定の問題の背後にある理論的基盤を見つけたりするのに非常に優れています。ただし、そもそも問題が存在するかどうかといった一般的な質問に答えることにはあまり適していません。」

より明確な理解が必要な場合、アイデアを人と技術の間で行き交わせることで、焦点が明確になり、必要な改良点の発見につながることがよくあります。

開発の考え方の変革

エンジニアリングサイクルの凝縮は、単に既存のプロセスにシミュレーションを加えることではありません。

「現在の設計サイクルは、最終的にすべてを物理的にテストすることを目的としています。それが最も簡単だからです」とPiper氏は言います。 「たとえば、電気的観点から見ると、エンジンコントローラーをエンジンなしで単独で動作させることはできません。エンジンに相当する構成部品、点火プラグ、その他すべてを表現する何かが必要となります。」

これは、誰かがPiper氏に仮想テストを依頼するとき、彼らは一般的に物理的テスト相当のシミュレーションを実行するよう求めていることを意味します。しかし、それが完全に可能であったとしても、物理的テストの強みと弱みはシミュレーションのそれとは同じではありません。

「私たちは、これまで物理テストで抱えてきた問題に捕らわれることなく、シミュレーションがどのようにして良い設計と悪い設計を見極めるのに役立つのかを自問する必要があります」とPiper氏は指摘します。 「すべての未知の要素を一度に含む車全体をシミュレーションすることは、まだ不可能かもしれません。しかし、一度に 1つの部品をシミュレーションし、それらを都度最適化していくことは可能です。これが、私たちが育むべき考え方です。」

意図的なデザインサイクルに向けて

将来を見据えて、Piper氏は自動車業界には多くの興奮すべきことがあると見ています。そしてシミュレーションがその重要な鍵となります。

「電動化と自動運転車により、最新技術が設計、製造、テストのサイクルに何年も固定されるのではなく、できるだけ早期に路上へ導入することが促進されるでしょう」とPiper氏は述べた。 「さらに、企業が1つのハードウェアプラットフォームを構築し、それをソフトウェアで微調整するソフトウェア定義型車両は、非常に迅速に多くの変化を推進します。これらすべては、車両が自動車メーカーの意図したとおりに動作するかを確認するために費やす時間の削減を意味します。」

その結果、テスト工程は変革され、物理的テストはエンジニアリングサイクルの終わりに移行し、シミュレーションが早期に行われるようになります。これが進むにつれ、より短く、意図的な設計サイクルが生まれるでしょう。

「私たちは、より意図的にデザインを行えるようになり、自身の行動をより深く理解することができるでしょう」とPiper氏は語ります。 「CST Studio Suite のようなツールを使用することで、これまで得られなかった情報を得ることができます。これは今後最も重要な点です。EMCのような多くのの変数が絡む難解な分野であっても、意図的な設計サイクルを確立することが求められます。シミュレーションは、設計しようとしているこれらすべての未知の要素を理解する手助けになります。設定したすべての要件を満たす車両を設計し、その後正式なテストを行い、期待通りに動作しているかを確認します。すべての理解に至れば、初回でテスト合格する車両を設計することが可能となるでしょう。」


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