主なAbaqusの機能とメリット
- 分裂を伴う大変形を効率的にモデル化するための平滑化粒子流体力学法
- 粒子と通常の有限要素間の相互作用を自動的に処理するためのロバストな一般接触
- 高度な材料モデル
- 通常の有限要素を粒子に変換する方法で便利なメッシング
はじめに
氷やひょうの高速衝突を数値的にシミュレーションすることは、極端な変形、分裂、接触、および材料モデルの複雑さのために困難です。この技術概要では、Abaqus/Explicit の平滑化粒子流体力学機能を使用して氷の衝突を解析する方法を示します。実験データとの良好な比較を示します。
背景
氷やひょうの衝突は、航空、エネルギー、および宇宙工学の業界では重要な設計上の考慮事項ですが、衝突シナリオの物理的なテストは高価で実用的ではありません。数値シミュレーションは、設計プロセスにひょうの衝突シナリオを含めるための費用対効果の高い便利なツールを提供します。
一般的に高速事象では、ひょうの衝突は速度30m/s以上とひずみ速度10s-1以上で発生し、材料の極端な変形と分裂を伴うことがあります(図1)。自然界に存在する氷は、複雑な多結晶構造をしており、温度や粒径によって機械的特性が空間的に変化します。氷の圧縮強度は、衝突状況で支配的な役割を果たしており、負荷速度と速度によって特徴づけられます。
通常のラグランジュ有限要素法では、氷の衝突による極端な変形シナリオの取り扱いが困難な場合があります。このようなシミュレーションでは、通常、非常に細かいメッシュ、長い実行時間、要素のゆがみ問題を解決するために早期に要素を削除することによる精度低下の可能性を伴うことになります。したがって、メッシュフリーの手法は魅力的な代替手段となるでしょう。
SPH
平滑化粒子流体力学(SPH)は、粒子(点)の特性が有限領域で平滑化される補間理論に乗っ取って得られた粒子法です。SPH法は、従来のラグランジュ法やオイラー法に比べて、自由表面の境界を自然に追跡し、分裂を伴う極端な変形を捕らえ、ボイド比の小さい材料を効率的に扱うことができるという利点があります。この手法には物理的なメッシュがないため、要素の歪みから生じる問題は自動的に排除されます。
Abaqus/Explicit における SPH の実装では、効率的な線形 No Binary Search(NBS)アルゴリズムを採用して、局所サポート内の近傍粒子を識別します(3)。また、平均流れ補正による配置更新(XSPH)(4)や Randles およびLiberskey の修正されたカーネル(NSPH)(5)法を使用するオプションが用意されています。Abaqus/Explicitの一般接触機能を使用してSPH粒子と他のラグランジュ物体間の相互作用を取り扱います。他の有限要素メッシュへの「接着」が可能です。応力/ひずみ状態,時間,ユーザ定義などの様々な基準に基づいて有限要素メッシュを粒子に変換する機能を提供します。そして、固体と流体材料モデルの広範囲なライブラリをサポートします。
解析アプローチ
この技術概要では、制御された氷の衝突実験試験(2)を数値的に再現しています。この試験構成を図2に示します。
球形の氷の粒子は、衝突によってもたらされる力の時刻歴を記録する測定プレートに対してガス銃から発射されます。氷の粒子の大きさは直径50.8mmで、初期速度は60m/sです。
氷の粒子は、3次元球体としてモデル化されています(図3)。氷の構成挙動には速度依存の塑性モデルを使用し、分裂を可能にするために引張破壊基準を組み込んでいます。氷の材料特性は、(2)で指定されたパラメータを用いて定義します。ターゲットは6自由度すべてで拘束された剛体としてモデル化され、反力は参照節点で測定されます。
この研究では、通常の有限要素メッシュを粒子に変換するための非常に便利な Abaqus/CAE 機能を活用しています。一般的に、有限要素か ら粒子への変換は、時間、応力、ひずみ、ユーザ定義など、いくつかの基準に基づいて行うことができます。この機能は、有限要素メッシュで最初に定義されたパーツを時間 t=0 で粒子に変換することにより、モデルを作成するプロセスを高速化します。また、この機能は、通常の有限要素メッシュがもはや荷重を受け持つことができないとき、過度のゆがみなしに通常の有限要素を粒子に変換するために使用することができます。
結果
図4および図5に示すように、シミュレーションからの反力の時刻歴は実験データとよく一致しています。図 6 は、予測された変形状態と記録された変形状態を様々な時間フレームで比較したもので、シミュレーションでは実験結果と一致する縦方向のき裂パターンを予測できていることを示しています。
これらの結果から、Abaqus/Explicit の SPH 機能が、メッシュのゆがみや極端な変形による特有の制約を受けることなく、氷の衝突の数値シミュレーションに活用できることを示しています。
詳しい内容は下記をご覧ください
“Simulation of Hail Impact Using the Smoothed Particle Hydrodynamic Method in Abaqus/Explicit“
関連ページ
Abaqus : https://www.3ds.com/ja/products-services/simulia/products/abaqus/
SIMULIA :https://www.3ds.com/ja/products-services/simulia/
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